第40話 曰くつきの風魔、方向音痴の南雲

 

 藍之進曰く、彼女は以前ハーネイトのことを悪く言ったやつらを瞬殺し粉微塵もなく消し去ったという。しかし側に置いている限り暴走することはなく、絶対に裏切らない忠誠心の高さを持っているとも説明した。


そこでハーネイトは長考し、自身のせいで優秀な彼女をいろいろ狂わせてしまったと思い、罪滅ぼしの意味も込めて風魔を今回、仲間にしようと考えていたのであった。


 何よりも、彼女の嬉しそうな顔を見てハーネイトもそれを見ていたいと思うようになっていたからでもあった。


 自分の後姿をただ見て、あそこまで力を身に着けたという結果に、久しぶりに嬉しいという感情が心の中から湧いてきたハーネイトは終始微笑んでいた。


 自分はずっと、誰とも違う化け物で、怖がられたり恐れられたなんてことはきりがない。なのに彼女は、自分を怖がらずに技術を磨いて、ここまで来た。その事実が、少し彼の冷たく傷ついた心を溶かし癒す。


「しかし、他の忍たちも今後合流してもらうことになります。その時はよろしくお願いします」


「ああ、できるだけ支援しよう。南雲と風魔のこと、頼みましたぞ。貴方なら、2人を最大限に動かしてくれるでしょう」


「はい。私の教え子には、もっとひどい問題児もいましたし、どうか任せてくださいな」


 お互いに協力関係として事態の収拾に当たることを、二人は握手をして確かめ合った。ハーネイトにとって、風魔や南雲程度の癖のある人たちなどまだよい方であると考えていた。


 そう、ハーネイトがかつて教えていた魔法学の学生の中には、とんでもない悪行を現在も行っている不届き者が少なくなく、それらに比べればと言える話であるという。


「これでさらに仲間が増えたな?」


「賑やかになりそうね。私は嬉しい」


「胃が痛いな……」


「ハッハッハ、もう仕方ないだろ?もっと人をうまく使わないとよ、相棒。一人じゃねえんだ、互いにな」


 彼の発言に、伯爵はハーネイトは仕事を背負いすぎだから周りをもっと使えと助言をした。


「まあ、そうか。それじゃ、みんなを治療するか。伯爵も手伝えよ」


「わ、わかったよ。しゃあねえなあ」


 ハーネイトは治療魔法で、伯爵は再生能力を高める微生物を体から選び外に放出することで傷ついた忍たちを順番に治療した。そして藍之進の説明の後、一時間ほどしてから学校の施設内にある体育館に忍たちを集め話をする。


「今回の試験、お疲れさまだったな。結果は、一応全員合格ということにしておく。しかし今は、1度に多くの人を連れてはいけない」


「はい、ハーネイト殿。なにか理由はあるのでしょうか?」


 伯爵から傷を治してもらった忍の一人が手を挙げ、ハーネイトに元気よく質問する。


「藍之進から、今この星で起きていることは聞いてるな?」


「はい。DGと機士国の話ですよね?」


「そうだ。そして今、その事態を解決するために少数精鋭の仲間を集めている。極秘の隠密活動のため、仲間の数が増えると今後の作戦に影響が出かねなくて」


 改めて、詳細な機士国王からの作戦命令を口頭で説明するハーネイト。それに対し、少し忍たちの間で動揺が起こる。


「そうなると、拙者らはどうすればよいのか?」


「そうだな、こちらの命があるまで当分待機か、自信のあるものはその敵に関する情報収集をやってくれると嬉しい。特に霊界と女神、龍と言うキーワードを見つけたらすぐに連絡を。彼らが何を考えているのかを少しでも知りたい。それと他にかつての仲間たちに連絡しているのだが、もしよかったら彼らの手助けをしてくれ。こちらからも連絡をしておく」


 忍の質問にそう答え、追加で命令があるまでは、各自ができることを行うという指示を出した。そして忍たちは元気よく返事をすると、今度は伯爵の方を見て声をかけたのである。


「隣の角が生えたお方も、先ほど戦ったとき尋常ではない強さでしたが、貴方は何者ですか?」


「俺っちはハーネイトの相棒さ。サルモネラ伯爵という。伯爵って呼んでくれよ」


「そうですか。今後ともよろしくお願いします伯爵さん」


「おうよ、面倒見てやるぜへへへ。んでさんはいらねえぜ」


 今回試験を受けた忍たちは二人に対し、全員礼をした。それを見てハーネイトは今後のことについて、忍たちに伝えた。


「ふう、そういうわけで、あとのことは藍之進殿に任せてあるから、あとで任務について説明を聞くように。基本的に藍之進さんの指示に、独自で何か手掛かりを見つけたら報告。それでいい。それと最後に、これから長い戦いに巻き込まれていくことになってしまうが、私は全員生きて帰ってきて欲しい。だから死ぬなよ。地獄の底からでも腕引っ張って戻すけど」


「はいっ!」


「精一杯任務に励みます!」


 ハーネイトは、忍たちに向かって奮起させる言葉をかけた。そしてそれに全員が一糸乱れぬ返事をした。


「では解散だ。皆のども、修行を怠るな。基礎が強固なほど、応用にもそれが反映されるのでな」


 ハーネイトが言い終わり、忍たちは部屋を静かに出ていく。そして南雲と風魔も他の忍と同じように部屋を出ようとした。そのとき、ハーネイトは2人に声をかけた。


「南雲、風魔。話がある。部屋にいくぞ」


「わ、わかりました。ハーネイトさん」


「はい」


ハーネイトは南雲と風魔、伯爵とリリーを連れて最初に案内された部屋に連れていく。そして全員が座ったのを確認し、話を切り出した。


「ところで、どのような話ですか?」


「改めて試験合格、おめでとう。ということだ。君たちほどの実力者なら、敵幹部との戦いでも優位に立てると思う。そこまでの力なら、もし血徒……あの血の怪物相手にも勝てる」


その一言に、二人は背筋に電撃が走ったかのようにびくっとなる。聞き間違いではないかと思ったが、明らかにそれは事実の言葉であった。


「そ、それはつまり」


「作戦に同行できるのですね!


「その通りだ、風魔」


「何て嬉しいことなの。今まで頑張ってきた甲斐があったわ!」


「2人にはこれから私の手と足となり、時に共に戦う戦友として、そして他の忍たちの模範になるように、解決屋としての心得も教えながら成長してほしい」


 彼は驚いた表情をしている2人にそういい、飛び切りの笑顔を見せた。将来性を見越して育成をしっかりと行う。それが次世代を育成する上で必要だと感じたハーネイト。その言葉に、伯爵とリリーは南雲と風魔に、祝いの言葉をそれぞれ述べる。


「よかったな、おめえら。ハーネイトのお眼鏡に叶うとはやるじゃねえか。結構見る目厳しいんだぜ、この男はよ」


「よかったわね!おめでとう!彼の仕事がいかにすごいか、間近で見れるチャンスは二度とないかもよ?」


 伯爵は大きく数回拍手しながら、リリーはその場でくるっと回りながらそういった。


「うおおおおお!今まで仕事でミスやらかしてきたぶん、この任務だけは絶対成功させる‼」


「ヘマしないように頼むぜ」


「おうよ。伯爵殿」


 伯爵が南雲のその言葉に軽く突っ込みを入れる。


「私、夢を見ているみたい。尊敬している人の元で働ける。今まで辛い修行を乗り越えてきたかいがあったわ」


「そうか、そこまで言われるとな。しかし話を聞いたが、私のことで暴走して相手を塵一つ残らず消し去るとか怖い話なのだが」


 改めて彼女の実力が他の忍や人と違いすぎることに関して指摘をする。もし本当にあの場でそのような事態が起きていれば、有能な他の人材が消滅しかねず、本当は疲れていてももう少しだけ力量を見てみたかった彼は仕方なく冷静に行動したのである。


「あ、藍之進様!ハーネイト様にそんなことまで言うなんて、はあ……」


「本来そのような人を雇うのはリスクが高いのだが、それでも私は風魔の将来性を見越したのだ。だから、むやみに抱きつくとか、興奮して暴れるとかはしないでくれ、本当に。魔女に傷つけられた、傷が疼いてね」


「わかり、ました。約束します。貴方の側にいる限り、私はあなたの剣です」


 風魔は小さいころからの修業のことを思い出していた。ハーネイトの存在を支えに今まで困難な修行や任務をこなしてきた彼女にとって、今この一瞬が幸せの絶頂にいるのかもしれない。なぜここまで固執するのか、それはまた彼女もハーネイトに命を救われているからである。

 

 そもそもこうしてハーネイトという男の人気が高いのは、彼が人命救助や人を脅かす存在をことごとく打ち払ってきたからというのと、性格や飾らないスタイル、決して傲慢や横柄な態度を見せず力を誇示せず、親切で謙虚なところといった理由が大きい。


 それが器の大きさにつながり、多少のことでは動じない彼の姿に胸を打たれ、賞賛と協力を惜しまない人が相次いでいるという。

 

 この星では毎年、魔獣や魔物の襲撃で5000万人近くの人が命を落としていたのだが、彼の活躍でそれを年間3000人程度まで抑え込むことができていた。


 また、血徒というハーネイトと伯爵、リリーにとっての敵である存在も、昔数億人の被害を出したがハーネイト率いる対策チームの活躍によりここ数年被害は年に数件あるかないかまで減ったと言う。


 だからこそ、自身もそれに協力したいという感情が多くの人の心の中にあったのである。あと彼女の場合は単純に彼がタイプという見方が強いかもしれない。


「さて、そろそろ日之国に戻らなければな。仲間たちと合流せねば」


「それなら、私が抜け道を案内します。最短距離でいけます」


 風魔が早速道の案内を率先して行う。少なくとも、南雲に任せるよりはとても安心であると彼は考え、道案内を頼むことにした。


「早速役に立つな。それは助かる。では、各自支度を済ませたら街のはずれで全員集まるぞ」


「わかった」


「よっしゃ、今から準備してくるぜ」


 ハーネイトらは一時解散し、それぞれの用事を済ます。南雲は育ての親である藍之進にもう一度話をし、風魔は里外れにある亡くなった両親の眠る墓にきて、墓の前で両手をそっと合わせ後にした。そして伯爵とリリーは里の建物を2人でゆっくり見物していた。



 そんな中、ユミロとシャックスは例の空間の中で話し込んでいた。シャックスは空間内にあるものを利用し、机と椅子を置いてから紅茶を飲んでいた。


 するとユミロから空間内にあるものは一部を除いて利用していいとハーネイトからの伝言を聞いた彼は、楽し気に異空間内生活を楽しんでいた。一方でユミロはというと腕立て伏せをして体を鍛えていた。


「しかし、勢いと言う物は怖いですねえ。なぜあの時あのようなことを言ったのか、自身でも不思議です。それと、フューゲル。彼もまた、あの王になるべき彼の秘密をかなり知っているようです」

「ハーネイト、大いなる秘密を持つ者。白き男も、同じようなこと言っていた。だけど、俺が使えるなら、彼以外にいない。優しさと強さ、併せ持つ者こそ良き王の器」


「フフフ、そうですね。私も同じ気持ちですよ」


「そう、か。……あの悪魔のような男、マスターの、何を知っている。霊量士(クォルタード)の秘密の全て、知っているかもしれない。重要だ」


 二人はDGを離反したことについて話をしていた。そしてユミロが床に寝ころびながら無限に広がる紫色の空間を見ながら話をつづけた。


 何よりもフューゲルという男が予想以上に面倒な相手であることと、何かを企てていることに話の中心が移る。


「それとDGはかなり弱体、している。これからも離反者、出る可能性ある」


「そうですね、それが懸念の一つですかね。さて、ユミロ?ハーネイトが私たちと同じ力を持っていることが分かったのだが、そなたならどうしますか?」


「見守る。そして彼の力になるため仕え続ける。其れしかできない」


「そうですか、私は。私はあの醜悪な金色の男よりもハーネイトを王にして、その下で安泰に暮らそうと考えています。あれのことも気になりますが、どちらにせよハーネイトは力を使う定めを背負うと私は考えています。龍と旧支配者、その言葉も気になりますが」


 ユミロは今後もハーネイトと連携して、故郷を襲った張本人ゴールドマンやDGI徴収官の面々を討ち取ると言う。そしてシャックスはDGの計画を妨害しつつ、ハーネイトを導き次世代の霊量士の王になるべく鍛え上げる役目を担うことをユミロに告げる。


「ハーネイト、優しくて強き王(モナーク)目指している。俺も、そんな王に忠誠、尽くしたい」


「その通りです。傲慢で横柄、人の気持ちに寄り添えぬ指導者ほど全てを不幸にする者。彼はその逆です。誰からも愛されるほどの優しさと、圧倒的な強さを秘める彼を、支えていきましょう。それが、異形の力と言いますか、霊量子の力を使う霊量士たちの幸せになるからと信じています」


 シャックスは大事にしている赤い変形弓を優しくなでながら、そう言葉を口にした。序盤にして二人も敵勢力の上級幹部と執行官の一人を仲間にしたハーネイト、その選択が吉と出るか、凶と出るか。それはまだ誰も知る由がなかった。


 そして南雲、風魔、伯爵、リリーは2時間ほどして町の北側にある里の門に集合した。既にハーネイトがその場所に建っており、全員の姿を確認していた。


「こっちはいつでも行けますぞ。さあ、マイマスター、指示をお願いします」


「私も大丈夫よ。いつでもいけます」


 2人は、旅の装備を身に付けハーネイトの前に立つ。2人の目は覚悟と期待を表すような、強い目力を表情を見せていた。


「それじゃ、いきますか」


「ええ、行きましょう」


彼らは里を離れ、風魔の案内にしたがって、迷霧の森を駆け抜けるのであった。

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