第41話 魔銃士としての目覚め・リシェルVS南雲


「風魔、ここから抜け道を利用して、どのくらいかかるか?」


「あと一時間くらいです」


「わかった。引き続き案内を頼む」


 ハーネイトたち一行は道中特に問題もなく、迷霧の森を無事に抜け日之国の近くまで来た。今のところ特に目立った様子はなくほっとしていたものの、シャックスの件があるため他に敵がいないか警戒は怠らなかった。


「案内ご苦労だった」


「いえいえ、お役にたてたなら光栄です」


「ここが日之国、か」


「おおお、中々いい雰囲気じゃあねえか。悪くない」


「こんな町並み初めてだわ」


 各々が、外から見る日之国について感想を述べる。街の様子は相変わらず、人の往来も盛んで特に問題はなさそうに見える。伯爵とリリーは日之国を初めて見て、感嘆していた。


「さて、ついたはいいが、リシェルたちに連絡するか」


 ハーネイトは、ズボンのポケットから携帯端末を取りだし、リシェルに連絡をかけようとする。そしてすぐに彼が電話に出た。


「ハーネイト師匠、一体何をやっていたのですか。手紙見ましたけどみんな驚いていました。私もです」


「心配かけてすまなかった、リシェル。後ですべてを話そう。みんなの調子はどうだ?」


「あ、ああ。みんな元気にはしてるが、エレクトリールとダグニスが寂しがっていましたよ。てか、ハーネイトさん、八紋堀さんから詳しい話を聞いて、マジで焦りましたよ。あの森曰くつきじゃないですか。俺も貴方が戻ってこなかったらと思うとドキドキでしたよ」


 リシェルは、城の中にいる人全員、特にエレクトリールたちが不安になっていたことを言った。


「本当に、すまなかった。いま南門に入ったところだ。新しい仲間を連れてきた」


 偶然が重なったとはいえ、皆に心配かけたことに謝る彼であった。


「わかった。今すぐみんなで南門に向かいますよ」


「ああ、待っている」


 ハーネイトは電話を切り、携帯をズボンのポケットにしまいながら国の南門の方へと歩いていく。そして南雲は初めてきた日之国の町並みを見ながら、風魔はハーネイトのすぐ後ろについて行きながら進んでいく。


「話に聞いていた日之国か。くぅうう!いいところだ」


「私は何度も訪れているけどねえ南雲。ほんと、この町並みはなぜか懐かしい感覚が蘇るわね」


「懐かしい、か。確かこの国は別の世界の文明にかなり影響されていると聞いている。懐かしいという感覚は、流れる血にその別世界の記憶か何かがあるのかもしれない。藍之進様もそうおっしゃっていた」


 2人の言葉に、日之国が別世界、つまり地球に存在する日本人が多く流れ着き一つの巨大な国を形成したことに触れる。それに対して風魔もその意見に共感する。


「それは、わかる感じがしますね。前に読んだ本では、侍と忍者は同じ文明、同じ時を生きていたという記述もありましたし、ハーネイト様の言うとおりなのかもしれませんね」


「そうだね、2人は自身の生まれや由来がある程度分かっているから、いいね」


 彼は少し悲しそうな顔をする。それに気づき、南雲が彼の言葉から推測したことを口に出した。


「ハーネイト殿は自分自身の先祖が誰だったのが、よくわからないのですか?」


「ああ、それを探すために長い旅をしていたからな。しかし、古代人の血が流れていることは、確かなんだろうな。それまでは分かったのだがな。けれども、自身の能力についてはわからずじまい。でも、あの人たちの話が本当なら、とんでもない人でなし、かもね」


 南雲の言葉に、自身も古代人の血は流れているのだと思い考えにふける。しかし何か、それ以上に違う何かが隠されている。漠然とした感じではあったが彼自身は実感し始めていた。


 女神と称する心の奥から聞こえる声、龍の力を宿していると言う指摘、見ただけですべて思いのままにする力、そして少しでも共通項があれば敵だろうと仲間に出来てしまう力。さらにシャックスとの戦いで覚醒した霊量子の力。自身はどこまで秘密を抱き、解き放つのだろうか。彼はどうしても不安を抑えきれずにいた。


「創金術(イジェネート)か。俺らの能力と所々似てて、幾らでも使いようがある能力だ」


 伯爵も、古代人の血を受け継いでいるという能力について関心を寄せる。


「確かに。これからも、もっと詳しいことが分かるとよいのですがマスター」


「そう、だな。南雲」


 ハーネイトが間を少しおいてそう言葉を返すと街の方から、数人がこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「どうやらお迎えさんがきたようね。しかし、忍者たちはいいとして、私と伯爵はどう説明するのかしら?」


「いや、それならまだ伯爵とリリーの方がいいよもう。ああ、しまった、あの事件のことすっかり忘れてた!らしくない、ミスだ」


「ハーネイト様?顔色が悪くないですか?」


「あ、うん。はっ」


ハーネイトが対応に関して戸惑っているところにリシェルとエレクトリール、ダグニスと八紋堀が駆けつけた。彼は動揺し思わず素の状態が出てしまいさらに混乱する。そして、この後ある意味予想できていたことが起こる。


「ほげえええええ!あの腐れ忍者が何でここに?」


「ほう、お主は以前拙者をロケットにくくりつけた奴ではないか。元気にしていたようでござるな」


 以前リシェルが話した、機士国の軍事基地をパニックで襲撃した忍と、それを尋問した男。南雲はともかく、リシェルが相当な敵対心を燃やして両者が睨み合っていた。


「ああそうだ、しかしハーネイトさん、なぜこんな奴を仲間に?さすがに人が悪いですよ。まさか、あの話を忘れたというわけではないですよね?」


「すまないリシェル、その事を忘れていた。あれだけ言っていたのに、本当に済まなくて済まない。事情は後で話す。ここはおとなしくしてくれるか?」


 彼が自身のミスについて正直に謝りながら、リシェルに冷静になってほしいとお願いをした。しかし彼の表情は、師匠であるハーネイトの言葉もそこまで届いていないような、納得のいかない表情をしていた。


「すみません、ハーネイトさん。どうしても奴と一戦交えないと収まりがつかないっす。それに、俺の力見てほしいっす。狙撃の王としての力だけではない、隠していた真の力を」


 そういうと、リシェルは背中に背負っていたアルティメッタ―を手に持ち、戦闘態勢に入る。


「やる気のようであるな?ハーネイト殿、拙者は構いませんが?」


 一方的に敵意を向けられる南雲は、別に気にしていないと言いながら、苦無を手に持ち構える。


「どうこう言って止められるものではなさそうだ、八紋堀、城に戻るのが遅れそうだが構わないか?」


「やれやれ、仕方ない。しかし若造は元気が有り余っているな」


 彼は八紋堀に謝る。その光景を見ていた伯爵とリリーはそれぞれ感想を述べる。


「人間の考えることはたまにわからん」


「これって、因縁の戦いって感じよね」


 2人はやや離れた所から、仲睦まじくリシェルと南雲の様子を見ていた。それに気づいたリシェルは彼らに声をかける。


「それと、そこの出来てそうな二人は誰だ?しかも、角に、羽?」


 リシェルがそういうのも無理はない。それは、ハーネイトと忍たち以外は同じ感覚であった。伯爵は立派な角の生えた巨大な青鬼のようにも見えるし、リリーは可愛くて小悪魔的な妖精にしか見えないのである。


 それは見慣れない人たちにとっては警戒せざるを得ない状況である。常に魔物と戦ってきているのがこの世界の人間たちである以上、違和感を感じればすぐに警戒するのはごく当然のことであった。


「そうですね、リシェルさんの勢いに押されて指摘するタイミングありませんでしたが、そこのお2人さんはハーネイトさんの新しい仲間ですか?」


「ああ、此度の戦いに手を貸す、いわば仲間だ。隣の羽の生えた女の子もな」


「敵、ではないのですね?あとで話を聞かせてもらいます」


「いいよ。しかし、貴方不思議な体と言うか、もしかして……女の子?」


 リリーは、エレクトリールが男装の女性であることを早々と見抜いた。一方で、ダグニスはこの状況を冷静に分析しつつ、ハーネイトに確認をする。


「どうみても、一触即発て感じですね。ハーネイトの兄貴、大丈夫ですかねこれ」


「危なくなったら止めに入るしかないな。確かにリシェルは単独で戦闘しているのを見たのがあまりなかった。それに魔閃のことについてどうも知っている。彼は……魔銃士か!だが精霊が側にいない」


 ハーネイトらが話しているのを横目に、南雲とリシェルは互いに得意の武器を手に、未だ睨み合っていた。


 今までのリシェルの言動を含め、ハーネイトはあることに気づいた。それは、リシェルが魔法と銃器の力を組み合わせ戦う「魔銃士(まじゅうし)」であること。問題は、魔銃士は誰もが小さい自然霊をパートナーにし、その力もある程度借りるのが通常であるのに対し、リシェルにはそれがなかったことであった。


「あのときの続きだ、覚悟しろよ?」


「やれやれ、仕方ないですな。ではこれはどうですかね!」


南雲はそういうと、手に持っていた苦無をいきなり投げ、リシェルの頬を掠めるように飛ばす。それをリシェルはわずかな動きで紙一重でかわす。そして空中に飛び上がりつつ間合いを取る。


「なっ、いきなりかよ。ならば今度はこっちからだ。覚悟しろ!」


リシェルはジグザグに走り、南雲に駆け寄りながら素早く2丁拳銃で間合いを詰めつつ銃撃する。それを南雲はしなやかに体を動かし簡単にかわし上空に逃げる。


「ちょろまかとやりづれえなあ、しかしこれはどうだ?」


彼は本来の口調が戻りつつ、腰を落とし地面に右膝をつく。そして銃を持った両腕を空に向かって突き出しながら無数の銃弾を2丁拳銃から放ち、南雲を射とうとする。


「飛ぶ鳥なんざ落としてやる」


「そんなもの、これで防ぐまでだ」


南雲は空中で創金術(イジェネート)を使い、左手から金属を用いて盾を素早く作り出すと、リシェルの放った銃弾をすべて跳ね返す。


「いきなり盾が現れただと?」


彼の能力に驚くリシェル。一方の南雲は余裕のある表情を浮かべる。


「勝負はこれからだ」


「ふん、まだかかってくるのか?」


「ああ!望むところだ。こうなったら賭けてみるしかない。通常弾では歯が立たない以上……」


 リシェルは拳銃を目の前で祈るように構える。そうするとリシェルの体から魔力があふれ出てきた。


「リシェル、お前は」


「魔力理解、集中……。放射!魔閃(ディスティロ)!」


 そしてリシェルが銃口を南雲に向けると、勢いよく赤い光線を3発発射する。


「あれは魔閃か。しかしあまりに透き通っている。純粋な、魔閃。やはりリシェルは魔銃士か」

「っく!」


 ハーネイトは、リシェルが魔法を使えることに驚き、そして南雲は再度腕に形成した盾でその攻撃を防いだ。しかし直撃した部分が高温になり南雲は一旦盾を切り離した。


「俺の家系、その遠いご先祖さまは魔銃士と言われていた一族だ。しかしこれでわかった。俺もその力を引き受ける権利はあるとな」


 そういい、リシェルは腕を交差させつつ2丁の拳銃から魔閃を激しく連射する。それを南雲は紙一重で交わしていた。


「どうだ忍者よ!」


「こんな隠し玉があるか、ただの銃使いじゃないとはな。あの時よりはるかに強いっ、がこちらも!」


 南雲は影を伸ばしリシェルの動きを封じる。


「ぐ、体が!」


「これでおとなしくしてもらおうか!」


 南雲がそう言い、手から鎖を複数本リシェルにめがけ発射する。


「ぐがががが!はあああ!」


 リシェルは南雲の影縛りをまさかの気合でほどき、背中に背負っていたアルティメッターを両手で構える。そしてさらに巨大な魔閃を発射しようとした時、街の方から一人の男が猛スピードで土埃をあげながらこちらに向かってきた。


「なんだと!このままじゃぶつかる。くっ!」


「時間か、もう少しやってみたかったがな」


 リシェルと南雲は道路の端に素早く移動した。結局、そのせいで決闘は中断されてしまった。


「丁度よかったな。こちらは依頼主のハーネイト殿のために戦う、それでここにきた。無用な争いは控えなければ。リシェルと、その仲間には以前大迷惑をかけたことはここで謝る」


「ふん……」


 南雲の冷静な対応に、子供のようにムキになった自身を恥ずかしく思ったリシェルはその後しばらく黙り込んでしまった。


「リシェル、もしかしてと思ったが魔銃士の家系だったとはな。こうなると本格的に魔法使いの修行をやらせた方がいい。そうすれば伝説がよみがえるだろう」


「やはりばれてました、か。ハーネイトさん、魔銃士はお嫌いでは?」


「昔はそうだったが今は違う。逆に学びたいほどだ。それに、あの秘境に足を運んだこともあるので」


 ハーネイトはリシェルの資質に驚きつつ、改めて本格的に魔法の指導を行おうと考えていた。そしてハーネイトが魔銃に興味があることにリシェルは嬉しくなった。


「いやあ、銃で武装したエルフィン(エルフ)たちに囲まれたことは忘れられない」


「あの秘境・レスレインでそんなことが……」


「はあ、はあ。八紋堀!遅いからこちらから来たぞ。何をやっとる!」


 ハーネイトは昔話をリシェルにしていた。そんな中走ってきた男は、八紋堀に対しそういってきた。彼は郷田といい、八紋堀の同期である。財務管理を主に任されるが、剣術で名を馳せる有名な侍でもある。


「すまぬ、郷田よ。しかし急いできたようだが、何かあったのか」


「吉田川から聞いた話だが、森の魔女というものから、この国の領主、つまり夜之一様宛に脅迫文じみた手紙が届いたのだ。その話でハーネイト殿、夜之一殿が呼んでいるぞ。それと任務の方ご苦労様です。ご無事で何よりです。しかしまた不思議な仲間たちを集めたものだな」


 郷田の言葉に少し苦笑いしつつ、事情を理解する。


「ああ。ありがとう。魔女、か。急ごう」


「ではついてきてください。おい、そこのお前ら。派手に喧嘩するんじゃねえぞ」


郷田はハーネイトに、夜之一からの言葉を伝え、リシェルらに先ほどのことを戒めるように、語気を強めてそう言った。


「では、報告を兼ねて城に向かうぞ。ついてこい」


「分かりました」


「早速面白そうな展開だぜ」


 その場にいた全員が、城に向かって走り出した。ちょうどその頃、移動の話に乗ったボルナレロは新しい持ち場であるガンダス城、その中で他の実験の様子を見ていたのであった。

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