Code 144 ルゴスの社長・ヴァルハへの聴取


「……っ、朝、か。ああ、そうだ、調査をしに行かなければな。ロイ首領、またな」


 翌朝になり、目をこすりながら上体を起こしたハーネイトは周囲を見渡す。そしてまだ寝ていたロイ首領を起こさないように、ハーネイトは小声でそう言うと彼女に毛布を掛けてから部屋の外に出た。


「これが、あのルゴスコーポレートか。至って周辺に存在するほかの建物と変わらないようだ……いや、この気配は」


 BKの施設から出て、朝日を浴びるハーネイト。早速ルゴスコーポレートのある南区まで足を運ぶ。朝だからか仕事に通ったりスポーツを楽しむ若者が街中にあふれている。


「あっ!ハーネイト様だ!」

「ほんとよ!本物だわ!」


 そういった光景を見ていたさなか、ハーネイトは子供たちに話しかけられた。DGとの戦いに関するニュースが各地を巡り、彼の名声は更に高まっていた。


「やあ君たち、おはよう」

「おはようございます、ハーネイト様!」

「元気にしているかい?みんな?」

「はい、元気にしています。ですが……」


 少年少女たちの様子がどこかおかしい。それにすぐ気づいたハーネイトは質問する。


「どうしたのかい?なにかあるの?」

「夜に出歩くと、危ないってお母さんが……」

「最近、ブラッドルの選手や関係者が何者かに襲われて……みんな生きているのであれなんですけど」


 彼らはこの街で起きている不吉な出来事についてハーネイトに話した。そのどれもが、昨日仲間たちと集めた情報と合致していた。


「なんだって?私が彼奴らと戦っている間に、そんなことが……」

「ハーネイト様、また夜を歩いても大丈夫なように、悪い人を捕まえてください!」

「ハーネイト様なら、すぐに犯人を見つけられますよね?」


 子供たちは期待のまなざしをハーネイトに向ける。この人ならば絶対に犯人を捕まえられる。その想いが伝わってくるのを感じたハーネイトは、にこっとした表情で約束し話を続ける。


「ああ、そうだな。それで、犯人についてわかっていることと知っていることはあるかい?みんな?」

「襲われたのは、3人です。2人は選手で、1人は監督さんです……全員獣のような人間に襲われたと」

「……聞き込みがいるな。もしも体のどこかに紙みたいなものが張ってあれば」


 一人の女の子がその言葉に反応してハーネイトの前に出た。


「それも言っていました。それで情報は足りますか?」

「ああ、ありがとう。早く捕まえるからな。後のことは私に任せたまえ」

「どうかご武運を!ハーネイト様!」


 子供たちと別れたハーネイトは、目的地であるルゴスコーポレートの会社近くまで来ていた。


「これだけ情報が集まれば、あとは……。カードを持っているやつを捕まえるだけだ。さあ、会社に出向くぞ」


 そう思いながら彼は会社の建物に足を踏み入れた。そしてフロントにいる受付の人に声をかけた。


「どのようなご用件でしょうか」

「ここの社長さんに用がありましてね。少しだけ時間をいただけますか」

「すみません、現在社長は出勤前でここにはまだ」


 受付の女性はハーネイトに対しそういった矢先、外からある男が入ってきた。そして声をかける。


「どうかしたか、ミラン」

「社長、このお方があなたにお会いして話をしたいと」

「ほう、おぬしは……!その顔は、まさか」

「私は探偵のハーネイトと申します。ここの社員がけがをして倒れていたのを助けたのですが、この手紙を渡してほしいということでここまで出向いたわけです」


 この男こそこの会社の社長であり、ハーネイトの顔を見るな否や、街中の看板に乗ってあった写真の男だと理解した。ハーネイトは会社を訪れた事情を彼に説明した。


「ほう、探偵とな。……そうか、では奥の部屋で話を」

「ええ」


 ハーネイトは男の指示にしたがい、エレベーターで10階にある社長室に招かれた。いくつもの製品のサンプルが棚に置かれており、互いに部屋の中央にある黒い革のソファーに腰かけた。


「それで、用件は先ほど言ったことですかい?」

「ええ、なんでもある人物に命じられ、これを使った影響で体がボロボロになったようで、昨日の夜路地裏で倒れているのを私が見つけ助けました」

「それは、すまなかったな。礼を言うぞ。……そうか、マーティンの入院している病院の場所を教えてくれ」


 ハーネイトはホミルド博士の経営する病院の場所を地図で示し彼に教えた。


「改めて、私の名前はヴァルハ・ウィディムと申す。最近ここにきて会社を立ち上げたのだが、さっそくこのような事態になったとはな……」


 ヴァルハと名乗るこの男は約一年ほど前にこのゴッテスシティを訪れ、事業を起こしたという。今回起きたことについて、動揺が顔から伝わっていた。


「マーティンさんは、確か会社の幹部の一人に命じられあのアイテム、デモライズカードを使ったようですね。あれは、恐ろしく危険なものですが」


 ハーネイトはマーティンが話していたことを彼に説明した。それにヴァルハは一体何があったのか自分もよくわからず、さらなる説明を求めた。


「あれのことについて知っているとは、話を聞かせてほしい。実はここ1か月ほど前にある研究者がある商品の開発及び量産をしたいといい、ここを訪れてきた。能力も優秀だし少しでも人材が欲しかった私は雇うことにしたのだが……」


 ヴァルハはハーネイトの言ったカードについてあることを思い出し、一ヶ月ほど前にある人が会社に入ったことを彼に教えた。ハーネイトは恐らく、その入った男がハイディーンが言っていた、行方不明になっている研究者の一人ではないかと考えた。ハイディーンもまた数名の研究者と協力しあの禁断のアイテムを作り上げたというため、同じような技術を持っている人がまだいることを説明していたため、全員見つけなければデモライズカードを用いた何かの事件が終息することはないだろうといっていたことを思い出していた。

 

「……そうですかそもそも、このルゴスとはどのような会社ですか?」

「ロビーに会社のパンフレットがあったはずだが、見ていないのならば説明しよう。人という種族の限界を超えた、生体工学の研究を主にした仕事をしている。たとえば再生治療に必要な機材や道具の製造をな」


 ヴァルハは部屋にある資料を手に取りハーネイトに渡す。それに目を通し確認する。そしてヴァルハは自身の経歴についても話をする。約1年前に小さな転移現象に巻き込まれこの星にやってきた地球人だといい、自力でここまで来たという。


「この街ではけがをしている人が多いようでね、もしかするとビジネスになるかと思い来たわけですよ。もっとも、少しでも早く傷を治して元通りの生活に戻れるようにというのが一番ですがね」


 ブラッドルがいくら接触系に関して厳しいルールを徹底しても、けがをする人はいる。ましてやプロリーグになると過激なプレイを行う選手も少ないながらいるため一般人も含め、再生や医療技術に関して自身の今までの経験が役に立つのではとヴァルハは考え、どうにかここまでこぎつけたという。


「だからこそ、なぜ今回そのようなことになったのかが疑問なのだ。……マーティンについてはこちらで面倒を見る。でよかったら、一つ依頼を受けてくれぬか?探偵なのだろう?」

「まあそうですが、はい。その一か月前に入った研究者について、知っていることを話していただければ」


 ハーネイトはさらなる情報提供を求め、ヴァルハはその男の外見や特徴について説明した。それを聞いた彼は少し泳がせて更なる情報を得るため、ヴァルハに対しその男が行方をくらまさないようにしてほしいと言う。


「ああ、その男について、そちらのほうでも調べてほしいのだ。しかし、今追放するとまずいというのはどういうことですかい?」

「その研究者は、こちらにとって重要な参考人かもしれません。今行方をくらませてしまっては、マーティンさん以外にも被害者が出る可能性が高いのです」


 ハイディーン曰く、少なくとも3,4名がデモライズカードを自力で開発生産できる技量を持っているという。もしかするとほかの研究者とつながっている可能性もあり、できれば一網打尽にしたかったため少し様子を見たいと説明した。


「難しいが、やってみよう。探りつつ、引き留めるか。って、それではハーネイト殿が私に依頼しているようなものではないかははは」

「おそらく私が出向けば、警戒して姿を消すはず。完全に記憶が洗脳されて別人になっていればいいのですが……」


 結局ヴァルハ自身が研究者についてハーネイトの代わりに調べる結果となり本末転倒ではないかと苦笑いするも、事の重大さを彼自身理解したため、ハーネイトに協力する意思を示した。

 そして連絡先を交換するとハーネイトは会社を後にして街中を調査がてら歩いていた。上着のポケットに手を入れて歩きながら手に入れた情報を脳内で整理していく。


「この社長、ヴァルハはおそらく知らされていないようだな。デモライズカードの話をしたときに青ざめていたところを見ると、やはり研究者が怪しすぎる、ハイディーンの言った行方不明の研究者の誰かならば話は早い」


 少なくともヴァルハが計画的に何かを企んでいるようには見えなかった。あの驚き様は演技にしては違和感があった。そう判断し社長は白だと判断した。実は秘かに精神系の魔法を使っていたのだが、それでも彼の言葉に偽りは見られなかった。


「とりあえず小型の盗聴装置をあの社長に取り付けた、が。まさかと思うが研究者がヴァルハ氏の命を狙う可能性も考えられる。気づかれる前に消そうということもありえなくない。リシェルたちにも仕事を与えよう」


 ハーネイトは去り際に、社長の首元に超小型の集音装置を付けておいた。更に社長に危害を及ぼす可能性のある脅威の排除にリシェルたちを動員しようと考えながら食事をとるため中央街に向かったのであった。

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