第70話 戦いの後に広がる名声


「勝ったぜ、勝ったぜ相棒!」


「ああ。よくやったな。もう一人の英雄王」


「すごいわ2人!かっこよかったわよ!あとエレクトリールもね」


「はい!」


 倒れ行く魔猪の姿を見ながら、伯爵は今度こそ勝利を確信しその活躍をハーネイトは変身解除した後に拍手しながら称えた。リリーはエレクトリールにこちらまで来るようにいい、4人は合流した。


「うおおお!あの化物を倒したぞあいつら!」


「あれが、生きる伝説。この目で見られるなんて最高よ!しかも、あれは見たことがない姿だったわね」


「あの男の名前は何だ、俺は忘れねえぜ、名前を聞いたらよ」


 丘の上から魔獣が倒れたのを確認した住民たちも歓喜に震えていた。またも脅威を未然に退け倒したハーネイトと、紫の男。それを見た人たちの表情は笑顔しかなかった。


「一人の犠牲も出さずに、またも守ったか」


「もはや人であることを完全に超えているな。だが、それでいいんだ2人とも」


「伝説の一場面を、また見てしまったな。場所が場所なら2人とも恐れられていただろう。俺もそうだった。最初は恐怖していたさ」


 ハーネイトと伯爵の活躍に感嘆していた夜之一とアレクサンドレアル。それに対し天月はそういい、自身は昔ハーネイトのことを恐れていたことを正直に口にした。


 初めて出会った時、その纏っている気が只者でないことを感じ恐怖を感じていたという。けれど接していくうちにハーネイトの人柄にひかれ、互いに協力する仲になったという。


「実は、私もそうだったよ」


「そうなのですか。知りませんでした、国王様」


「だけど、ああいう人たちがいなければ、明日すら手に入らないかもしれない。私がいた地球よりもここは、命に対してとても無慈悲よ。……フフ、ありがとう、2人とも」


アレクサンドレアルも最初はハーネイトの能力を見てどこか恐怖を感じていたことを天月に打ち明ける。


 それから三十音は前にいた地球と比べ、いかにこの世界が生きづらいかについて触れつつ2人の活躍に感謝していた。慣れなかった辛い環境も、あの人たちがいてくれたからくじけずここまで来れたことを三十音を初め、日之国に住んでいた他の転移者も同じ思いを抱いていた。


「さて、胴体部分は回収だな」


 ハーネイトは地面に降り立ち、ヴァンオーヘインの胴体部分に手を触れ、次元空間に飛ばした。その後少しして、膝をついていた八紋堀と、吹き飛ばされて木の上にいた風魔、南雲を回収した。そしてすぐに近くにいたユミロたちとも合流できたのであった。


「しっかし、よくあれに躊躇なく突っ込むな。度胸だけは大したものか。だが八紋堀、相変わらず戦闘狂の血は治っていないね」


「はは、ばれたか。まあ攻撃の先端を切り開いたんだ、それでよしとしてくれ。後で唐辛子丼食べようぜ、ハハハハハ!」


「そんなものばかり食べるとまた健康診断に引っかかりますよ」


 八紋堀は少しよろめきながらも立ち上がると刀を収め、彼らのもとに向かって歩いた。彼の奮戦も多くの民を勇気づけた。それを自覚しているからこそ、真っ先に彼は立ち向かっていったのである。国を守るものとしての役目を、彼は率先して行っていた。


「ハーネイト、様。私は……」


「無事でよかった。風魔。後で話を聞かせてくれ。伯爵から聞いたが一番に向かったとはな」


 ハーネイトは八紋堀の癖について指摘しつつ、木にぶつかった衝撃で起き上がれない風魔の頭をなでながら、魔力を送り込んであげた。恐らく胴体部分を創金術(イジェネート)で十分に守れなかったのだろうと推測しつつ、彼は軽い回復魔法で彼女が背中に受けた打撲を治してあげた。


「えへへ、ハーネイト様。私はあなたに仕えることができて幸せです」


「そうか、風魔。ありがとう。南雲もナイスファイトだった。二人とも城に戻ろうか」


「そうですねマスター。あとはあの侍や警備のものに」


 嬉しそうな顔をする風魔を背中に抱きかかえ、南雲は城に戻ろうと提案する。犠牲者はなくともけが人はいるのでそれが妥当であると判断し、速やかに戻るよう他の人たちにハーネイトは命令した。


「そうだな、戻ろうぜ」


「もっと活躍したかった…。私も戦うの好きなのに」


「また次の機会があるわよ。てかよくあんな雷落とせるわね。人間技とは思えないわ」


「そうですね、えへへ。雷系統なら私が一番です! 」


 エレクトリールやリリー、伯爵もそう言いながら城の方に帰っていく。改めてエレクトリールの力が強大であるかが分かったハーネイトは、彼女の機嫌だけはできるだけ損ねないようにしようと思っていた。


 あの雷撃があったから、決定的な攻撃チャンスが生まれたし、それについては素直に感謝をして城のほうに集まりながら歩いていく。


「ふう、以前よりも体力、気力も上がっている実感がするな。だが、炉心とあの力、それを埋め込んだものの正体と、旧世界の支配者、か。追わないといけない謎が一気に増えたな全く」


 ハーネイトは、胸に埋め込まれた装置のことについて考えていた。以前なら魔法の詠唱すら連発は躊躇することもあったが、今ならそれも考える必要がないほどに彼の力は飛躍的に向上していた。


 先ほどあれだけ力を使用したにもかかわらず、疲労感もない。胸の痛みももうなくて、かなり落ち着いている感じであった。その感覚に、彼の表情はわずかにニヤッとしていた。


「しかしあと1段階か2段階、この上に行けそうな感じもする。一体どうなることか」


 彼は若干の不安も覚えつつ、まだ力の伸びしろはあると感じていた。


「そしてユミロたちも、よく抑え込んでくれたね。それにしても3人とも強いな」


「伊達に、戦士をしているわけではない」


「私も一応執行官、実力があるから上の方にいたのですよ。遠距離はあのリシェルと言う男と合わせ任せてください。後また紅茶の仕入れの方お願いします」


「私は執行官予備役だけど、上級技の霊装現術と現霊を使えるのよ。あれからもずっと修業はしていたし、ハーネイトに負けたくなかったからね。その変身する力も、恐らく霊量子の力だわ。今まで眠っていたみたいだけどねえ」


 3人はそれぞれそう言いながら笑顔でハーネイトの方を見ていた。いつの間にか優秀な仲間と化していた彼らを見て、ハーネイトはやや複雑な心境ではあったものの悪くはないと心の中で考えていた。


「あとで3人はみんなの前で自己紹介して。それと、霊量子というのを後で教えて」


「了解しました」


「さて、どう報告しましょうか。父さんには嘘をついてここに来ました……でも、賽は投げられたのよ」


 リリエットがハーネイトに聞こえないようにボソッとつぶやいた。そうして、戦いに参加した人全員が帰還し、街の門をくぐると町民や兵士たちがハーネイトや伯爵たちの周りを素早く囲んできた。


「大英雄のご帰還だぜ!」


「ハーネイト様!そこの紫の服の人!ありがとう!」


「おいおい、伯爵もここで名前名乗ったらどうだ?」


「確かにな。んじゃあ」


 多くの町民がハーネイトたちの顔を見ようと一斉に集まった。そして伯爵は名乗りを上げる。


「俺の名はサルモネラ伯爵3世だ。伯爵と呼んでくれ!」


「サルモネラ伯爵と言うのか」


「あ、ああっ!オーウェンハルクスの悲劇、紫の悪魔っ!」


「この男は私の新しい相棒だ。……それに、昔血海を生み出した怪物に私と同じく全てを奪われた男でもあり、それに勝てる力も宿している。改めて、私はこの男とバディを組むことに決めた!」


 名乗りを上げた伯爵は名前を多くの人に覚えられるも、民衆の中に伯爵の容姿と前に起きた事件を覚えている者がおり一瞬ざわついた。しかしそれをハーネイトは察し、フォローを入れる。


「そうだよな、2人であれを倒したもんだ」


「ハーネイトに認められるほどの……それなら!この2人なら怖いものなしだぜ!」


「ヒュー!何でも解決してくれそうな感じがするぜ!」


「二人とも、これからもよろしく頼んだぞ!」


「そして他にも、八紋堀様に、忍者に、見慣れない人……。あの巨人さんに、如何にもナルシストな美形の男、可愛い女の子。仲間が増えている?単独で動くハーネイトがなぜ」


「もしかして噂に聞いたDG討伐の秘密部隊っ!城の関係者から聞いたぜ。今度こそあいつらを完全に撃滅してくれや!」


「どいつもこいつも歴戦の勇者って感じがするぜ」


 多くの町民たちが二人の今後の活躍を期待し、ほかにも八紋堀や南雲や風魔、エレクトリールたちを褒めたたえた。また、中にはDGを知るものやそれにより被害を受けた者もおりその話でも盛り上がる。


「すごい人たちですね」


「ええ。はあっ…まだ体痛いわね」


「風魔、無茶しやがって。しかし、いい感じだな」


「今回は南雲も役に立ったわね」


 エレクトリールと南雲に抱えられ、風魔がかすかにまだ残っていた痛みで顔をしかめつつもそう言った。


「これからも、私を含めみんなのことをよろしく頼みます。私がいる限り、勝利は我らに有り!何故なら!」


「戦神(ハーネイト)の加護があるからだ!」


「おおお!!!」


「俺らも頑張るぜ!」


「皆のども、一丸となって脅威に立ち向かうのだ! 」


「八紋堀様!」


 ハーネイトの鼓舞が町民たちの活気を引き出す。素の状態とは違えども、この一面こそが多くの人に好かれる要因の一つであった。それに合わせ八紋堀の一声も更に彼らの結束を深める。この二人の共通項は鼓舞することについてのノリが似ているということである。


「伯爵、お疲れ様」


「ああ、相棒。さすがあれの力だな。これからも更に力見せつけてくれよ」


「できる時はな。さあ、本格的に奴らの息の根を止めにかかるかね。あの力使うにしても敵を一か所にまとめないといけないから。拠点を探し出し、一気にDGを潰す」


 ハーネイトは伯爵に対しそう言いながら高ぶっていた気を静めていた。


「いいねえ、最高じゃねえか。確か仲間さんが多くの地域にいるんだったな」


「ああ。手紙は出してあるし、すでに動いているのもいる。どいつもこいつも戦うことが三度の飯より大好きな連中だ。私より戦闘向きだよね……」


「まあいいじゃねえか。それよりもあの巨人と無駄にむかつくイケメン男、一見寡黙で可愛い女の子。後で説明するんだろうな? 」


 伯爵は捕まえているというか仲間にしてしまったDGのメンバーについて自身も含め全員に対して説明を求め、彼はそれを快諾した。


 それからという物、ハーネイトと伯爵は互いに健闘をたたえつつ、今後の展開について話をしていた。それからしばらく聴衆にファンサービスをしつつ一行は城にようやく戻った。


「でかしたぞ、ハーネイトと伯爵よ。そしてお前らもな」


「良い連携であった。この先もあのような存在が襲来してきても問題はなさそうだ」


 そして夜之一とアレクサンドレアルが城門で全員を迎えていた。無事かどうか時折そわそわしながらも、無事に全員帰還できたことに彼らはほっとしていた。


「よっ!と。2人とも大活躍でしたね。あとあの魔法の連続発動は誰のだ?雷撃はエレクトリールしかいないからわかるが」


リシェルが城の屋根伝いに軽やかに飛び降りてきた。そしてリリーとエレクトリールに声をかけた。


「それは私よ」


「リリーちゃんだったのか。見た目に似合わず凄かったぜ」


「それなら貴方の魔閃も大したものね。減衰しやすいのをよく防いでダメージを与えたこと。ハーネイトから魔銃士の話は聞いていたけれど、改めてすごいわ」


 リリーもリシェルの魔閃を見て素直な感想を述べる。実はハーネイトから一応撃ち方は教わっていたため、あの光線が何なのかはリリーはすぐに理解できた。


「ああ、ディスティロのことか。まあね。足手まといになりたくねえからな。常に努力してるし。魔銃士の誇りにかけてな」


 リシェルは笑顔でそう言いながら銃を背中に背負ってハーネイトと伯爵の方を見ていた。少しは役に立てただろうか、そう思いながらみんなの様子を見ていた。


「ハーネイト様!」


「おお!私たちも見ておりましたぞ」


「お疲れ様でございます。私たちも魔獣の出現により湧いて出た小型魔獣の盗伐を行っておりました」


 ハーネイトたちの背後からシャムロック、ミレイシア、ミロクの声がして、ハーネイトは振り返り3人の顔を見た。


 彼らは巨大魔獣が出現するとよく発生する小型魔獣の大量発生に関し、その討伐に向かっていたのであり、その全てを撃退し大量の素材を持ち帰ってきたのであった。


「そうだったのか、姿が見えなかったが。そういうことか。ご苦労だったな」


「いやいや、あの程度一殴りしたら丸ごと消し飛びました」


「私の剣技も衰えることなし、リルパスの群れも影喰で鎧袖一触じゃぞ」


「丹精込めて作り上げた4000人の人形兵の前には、魔獣もなすすべ無しです。肉の焦げる匂い、引きちぎれる音。これだから戦闘は興奮するのです」


 彼が3人をねぎらうも、それぞれが戦った内容について話をするとハーネイトの顔が若干ひきつる。少々やりすぎではないだろうかと感じていた。ミロクはともかく、他の二人がオーバーキルすぎて怖いと感じていたのだ。そしてミレイシアの不気味な発言がまたも周りを凍てつかせる。


「ほ、本当に恐ろしい。別の意味で人間の域超えているよね古代人ってさ」


「それは主様もでしょう」


「ハハハハハハ!確かに、私たちも強くなりすぎた、ですな」


 ハーネイトの指摘にミレイシアとシャムロックが笑いつつそう答えた。正直言えば、この3人がハーネイトに襲い掛かれば彼は、切り札なしには苦戦するほどに強いのである。

 

 まずミレイシアは魔導人形師である。それを戦闘に利用し、連携攻撃を基本とするのだが彼女にしかできないとっておきの大召喚系統のスキルを持っており、数の暴力を体現するかのように無慈悲な一撃を与え続けることが最高の喜びであるというかなりのサディストであった。


 また10年程前には血海に汚染された都市と血屍人を幾つも焼き払い消滅させている記録があると言う。


 次にミロクは老齢ながらもそれを感じさせない動きで、2振りの刀で敵陣を駆け回り斬りつけるのを得意としている。無影のミロクと言う別名は相手に影を踏ませず斬りつける神速の剣技のことを指しているのである。それとハーネイトから魔法を教えてもらっており、魔纏剣や魔法剣術も習得しているためさらに強さに磨きがかかっていた。


 何よりも彼を影皇として有名にさせたのが、彼の持つ3振りの刀のうちの1振り、「影食」という妖刀。それこそが彼の恐ろしい技を繰り出す呪われた刀であり、彼にしか扱えないと言う刀でもある。切った物の影を取り込み、自在に操り実体化させる力こそが真髄で、その数は既に5000億近いと言う。


 最後に問題なのはもちろんシャムロックであり、素手で正拳突きを繰り出すだけで、その前方にいる敵はすべて蒸発し跡形も残らないという破格の攻撃性能を持っている。


 彼らの放つエネルギー波は気光、または気閃(グランシエロ)と呼び、体内の気を操り強烈な一撃に変換する気功砲というべきものであった。全般的にマッスルニア帝国出身の人は人ではない何かであるが、それにしても異常ともいえる力である。この3人のように、彼の召使になるには、相当な強さも求められるのであった。


 それに、3人は古代人の中でも2つの龍因子の力を宿し使うことを許された超貴重な存在でもあった。


「怖ええ。実際にスコープで見ていたが人間のやることじゃねえよこれ」


「うむ、流石ハーネイトだ。仕える者たちも破格の強さを誇るとはな」


 リシェルとアルはメイドたちの会話を聞き、ハーネイトの器の大きさを感じていた。


「私たちが霞みそうなほど強いわね」


「ああ。強いのは忍者たちだけでなく、この3人もか。これなら兵力の差も容易に埋められるだろうな」


「ああ。それもそうだな。いい部下に恵まれているなハハハ」


 アンジェルとルズイーク、国王はそれぞれ会話をしていた。予想以上に個人個人の能力が高いことを実際に確認し、他にも集めている仲間たちと合わせればハーネイトの考案していた包囲作戦も実行に移せるのではないかと考えていた。


「んじゃさ、早く城の中に入りたい。一眠りさせてくれ」


「お疲れ様でした、ハーネイト様」


「一応後で診察しますからね」


 城の中から田所と三十音も駆けつけ、2人に連れられて4階の部屋まで向かった。


「おい、相棒待てよ!」


「では私たちも入りましょ?疲れたわ。」


 リリーの呼びかけに全員が城内に入っていった。城下町はまだ多くの町民たちが騒いでいた。大型の魔獣や魔物の襲来を今回も退けた。その英雄たちを称える声はしばらく響いていたのであった。

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