Code 130 侵略魔たちの陰謀と古代遺跡
「ほう、わしらの邪魔をするのか」
「何をするんだ、悪魔のおっさん。師匠に手を出してみろ。魔閃(ディスティロ)ぶち込むぜ」
「あなたたちが何なのかあれですが、何か企んでいますか?」
フューゲルたちが臨戦態勢になったのを見たリシェルとエレクトリールは疲れの残る体を動かしながら武器を構えた。
「クハハハハ、まあよかろう、教えてやる。儂らはな、かつてこの星の古代人に囚われた親を助けるために、秘密裏に活動していたのじゃ」
「まあ、もとはといえば俺たちのおじいさんが悪いっちゃ悪いんだがな」
カイザーとフューゲルはそれぞれこういいながら、以前フォレガノとその仲間たちがハーネイトに話した悲劇の事件と同じことを話し始めたのであった。彼らはアクシミデロの古代人により肉体と魂を分離させられ膨大な電子データだけになったこと、そして魔本というサーバーに封印されていたことを話した。ハーネイトはともかく、それ以外の人たちはその話を聞いて恐怖を感じていた。古代人とは一体何者なのだろう。改めて疑問が浮かぶ彼ら。シャムロックやハルディナもほとんど昔のことを話さずにいたため、真相は長らく不明の状態であった。
「何、だと?そんな昔にそんな事件が起きていたのか」
「これは初耳だな。是非とも聞かせてほしい。本にして図書院に情報を保管しておきたい」
「王様は相変わらずですな」
「それで、おまえさんはその親を助けた後はどうするつもりなんだ?悪魔さんよ」
アレクサンドレアル6世はその事件の記録をまとめたいと考え、ルズイークは相変わらずだなと彼を評す。そしてアルポカネの質問に対しフューゲルは、もとの世界に戻って女神に対抗する手段を考えつつ、その時までおとなしく潜伏するといった。しかしそれが本当なのだろうか。もしかするとまた侵略してくるかもしれないとハーネイトたちは懸念していた。
「しかし、そなたらが再度ここを攻めてくる可能性は否めないでしょう。そもそもそのお父さん、どこにいるのですか?」
「まさか、霧の森の中で見た、悪魔の腕……いや、まさかねえ」
「いやミカエル、たぶん狙いはそれだ。フォレガノ。彼は息子がいたと言っていた。そしてずっと気がかりだったと」
南雲は気になっていたことを質問した。そしてミカエルの言葉をハーネイトは肯定し、その悪魔から直接聞いたことを話したのであった。
「ほう、私の父、フォレガノと対等に話をできるほどに成長していたとはな。偵察用の使い魔を飛ばしていたが、そこまではわからなかったぞ」
「ハーネイト、どうか頼む。今のお前なら古代人の技術の結晶、創金術(イジェネート)でおじいさんをこの場に呼ぶことができるはずだ」
フューゲルは頭を下げて、ハーネイトにそうお願いをした。彼らが長らくこうして機会をうかがっていたのも、かつて彼らが女神の住む世界に偶然足を踏み入れた際、天神界人の長に父フォレガノのありか、そして取り戻す方法を教えてもらったからである。それと引き換えにある条件をのみ、長い間ハーネイトを裏から時に助け、監視していたのであった。
「確かに、体を依り代にフォレガノはさっき、私とともに戦ってくれた。けれど、完全に分離は……」
「ハーネイト、聞こえるか」
今の力で、そのような芸当が可能なのだろうか疑問を感じていたハーネイト。確かに願望無限炉の力が強まっている今なら、より高度な技術の運用も可能だろう。けれども、創金術で仮の肉体を形成し、囚われた魂をそれに入れることで命を吹き込むなんて、考えたことがなかった。そう彼は考えていた矢先、フォレガノが彼に話しかけてきたのであった。それは外にも聞こえるほどであった。
「な、これは、父上の声か……!」
「私の姿をもう一度、魔本に手をかざしながら想像しろ。……息子たちに会いたい。おそらくは私を利用するつもりだろうが、どうにかして見せよう」
後半部分の会話をハーネイトだけに聞こえるように話し、ハーネイトはフォレガノの支持を受けながら心の中でイメージし、地面に手をかざした。すると目の前に、光の柱が生まれ、それがはじけてからイメージした通りに、フォレガノの肉体がそこに存在していたのであった。
「……済まぬのう、ハーネイト」
「……いえ。さあ、息子さんたちと話を」
「かたじけない。ああ、いつぞやぶりかのう、我が息子、ガルザード」
時折強い風が吹き荒れ、季節外れの寒さが彼らの体を冷やしていくなか、フォレガノの荘厳な低い声が振動として強く伝わってくる。彼の姿を見た息子と孫は、片膝をついて敬意の姿をしつつ話を始めた。
「……父上、長い間、待っていました。古代人につかまり、非業の死を遂げただけでなく、魂を忌まわしき魔本に封印されつづけていたことを知った私たちは、どうしても会いたいとこうして……」
「わかっておる。しかしな、この愚か者が!!!」
「な、なっ!」
「お前らがわしの力を使って、ほかの世界を侵略することなどとうの昔に見抜いとるわ」
「………!」
もともと業魔界の王であったフォレガノ・ルクスアインは、業魔たちが好戦的であることをよく知っていた。彼自身も今では非常に落ち着いた性格になっているものの、数百年前はまだ若く、よくほかの世界に足を運んでいたという。そして目の前にいる息子たちの心の中を読み、そのうえで彼らを叱ったのであった。他生物を誑かす術に長ける業魔界の住民ならではのやり方である。
「確かに、わしも昔にな、大馬鹿をやっていたものだ。仲間を引き連れ、少しでも劣悪な故郷を立て直したいとほかの世界に攻め入っていたものだ。しかしこの世界に来た時に恐るべき文明力を持った人間につかまった。データを取られ、魂分離装置で肉体と魂を引きはがされた。そして仲間たちも同じ運命を辿った」
フォレガノは息子たちに自身が体験した過去を話した。それは誰が聞いても、恐ろしい話であり、悪魔以外にも力のある人間や、異世界から来た人でさえ研究の対象として利用していたことも彼は明かした。
「そしてあの男、ハーネイトが我らが封印されていた魔本を手に入れ、取り込んだ時に流れ込んできた今までの情報。それを理解した時、わしはこの男の境遇と、見えないところで起きている恐るべき計画の全容を知ったのだ。貴様らも、わしを助けるために無茶をしたようだが、だからこそわかっているだろう?」
そして封印された魔本は、各遺跡に保管されていたため大消滅の影響は免れたが、その中にある幾多の魂を復元する方法が失われてしまったという。しかしこのハーネイトがいくつも魔本を体に取り込んだ際に、彼の中に存在した彼自身が知らない情報を手にし、彼がどうして生まれ、どのような目的でこうしているのかを知ったのであった。
「……そうです。申し訳ありませんでした、父上」
「うむ、さすが私の息子、そして孫だ。面を上げろ、子供たち」
「はっ……!」
フォレガノは厳つい右腕を突き出し、膝まづく二人に対してこう命令する。
「良いか、わしたちもあくまで、あの恐るべき超生命体により生み出された存在だ。造物主がいる以上、彼女こそ最も危険な存在だ。何としてでも彼女の暴挙を止めなければ、未来はないのだ」
そしてハーネイトはおろか、オーダインたちまで驚いた事実。それは霊界、業魔界も含めあらゆる世界の生物、世界の形が女神により作られ、また生殺与奪の権利も彼女だけであることであった。
「……我が息子たちよ、人類に協力し、事態の収拾にあたれ。真実、事実を知った以上、見てみぬふりは許さぬぞ。そしてもしほかの同族が、馬鹿をやっていたら止めるのだ」
「はっ!」
ほかの世界へ侵略をしている場合ではない。多くの世界の住民が結束しなければ、何もかも消えてしまう。そして今まで幾度となくそう言った侵略行為をしてきた自身らの種族を戒めるようにと息子たちにフォレガノは願いを出した。
「とにかく、一段落したのかな、これは」
「あのフォレガノという悪魔、やばいな。あのにじみ出る邪気。師匠は、あれほどの存在も従えさせられるのか」
「……悪魔、業魔界の住民」
長いやり取りが終わり、改めて事態がこの先、さらに混迷を深めるのではないかとハーネイトは悩んでいた。そしてエレクトリールは、3人の悪魔を見ながら何かを思っていた。
「ハーネイト、貴様はこの先、なんのために戦うか?名声か、富か?」
フォレガノは話を終え、ハーネイトのほうを向いて話しかけた。その問いに、彼は静かに答えた。
「いや、それではない。私は、みんなが安心して暮らせる世界を作りたいから、その脅威を斥けるだけだ。ほかの世界に攻め入るなんてこと、考えたこともなかったし、この先もしない」
「そうか、相変わらず意志が固いな。だが、それでいい、貴様はな。それと息子たちが迷惑をかけたな。重ねて詫びをしよう」
そうしてフォレガノは彼に対し頭を下げると、その場から空気中に消えるかのように去っていった。そしてまた、彼の魔本の中に帰っていったのであった。
「……ハーネイト、話は聞いていただろうが……」
「あ、ああ。しかし、信じられないといったほうがいい、感じがするな」
「しかし、これが事実なんだ、弟よ」
「オーダイン……」
一体自身の目の前で何が起きているのだろうか、そして多くの人、種族が自分を取り巻いて知らないうちに何かをしていたことに若干の恐れを抱いた。どれだけ自身が複雑で厄介で、陰謀に巻き込まれているのだろうか。無性に彼は悲しくなり地面をただ見ていた。オーダインの呼びかけにも力なく返事をするだけであった。
「だからこそ、この遺跡の中にある装置が必要なのだ。真実をもう一度知り、そのうえでどうするか決めてほしい」
「そうなると、この足で調査しなければいけませんね」
「それじゃあ、いっちょ行こうぜ相棒」
確かに、話をすべて聞いたうえですぐに心を納得させられるかといえば、限界もある。しかしなぜそうなったのか理由を探るためにも、立ち止まってはいけない。ハーネイトは決意を固め、遺跡の調査を敢行する旨をオーダインやリシェルたちに伝えた。
「ええ?いまから?……まあ、折角だから。それでみんなどうするの」
「だったら俺も見たいっす。古代文明のすごさを見られるんですよね?」
「皆さん、物好きですね」
「確かになオーダイン。問題は、次元融合装置がどこまで機能しているかだ」
「調整なら任せてくださいよ」
そうしてまだ戦いの疲れが残る中、ハーネイトたちはダムファール・ラー遺跡の中に入り調査を行うことにしたのであった。アーロンはやや呆れながらも、仕方なく彼らを遺跡の隠れた入り口まで案内し、その扉を開け中に入るように案内した。巨大な遺跡の内部は薄暗く、外気温よりも涼しい、というよりはやや寒い状態であり、魔女やエレクトリールたちは恐る恐る足を踏み入れていた。
「思ったより暗くて、薄気味悪いわね」
「すず、しいのかなこれ」
「思ったより簡素でござるな」
「しかし、これは古代文字ではないか。城の図書部屋にこの文字に関する書物があった。貴重な資料だぞ」
南雲たちも遺跡の奥から感じる何とも言えない感覚に戸惑っていた。そして薄茶色の壁面にところどころ、見慣れない文字がいくつも刻んであるのを八紋堀たちが見つけた。
「あの、なんで八紋堀たちまでいるの?」
「どちらにせよ、帰る方角は同じなのでな」
「だったら、私もだ」
「え、アレクサンドレアル王?」
どうも彼らの後をつけ、日之国、機士国の関係者も中に入っていたようである。
「別に、帰るとは私は一言も言っていないがね。力を貸してくれた研究者たちをねぎらいたいのだ。複雑に思う人たちもいるとは思うが」
「アンジェル、それにルズイークも。仕方がないな。遺跡の中を調べたら、ベイリックスで帰ろうか」
「いつでも準備はできておりますぞ」
「おいおい、私たちのことを忘れてはいないだろうか?」
「ハーネイト様!」
ハーネイトは通信装置の魔粒子通信機能をオフにしていなかったため、ホテルウルシュトラにいるボルナレロたちやゼぺティックスたちにやり取りがかなり筒抜け状態であり、それで気をまわした彼らが迎えをよこそうかと提案してきたのであった。
「ロジャーにハルシオン!いつの間に」
「ボルナレロという男から頼まれてな。早く迎えに行ってほしいと」
「もうホテルのほうでは祝賀会の準備が始まってますよ」
そして勝利の報告を聞くな否や、ホテル内はもう祝勝会の準備を始めていたのであった。それを聞いたハーネイトははははと少し笑いながら話をつづける。
「はは、ははは、みんな気が早いよ」
「まあそう言わないでくれ、今回は私たちも人員や物資の輸送で裏から支えた。すでに送迎が必要な人たちはトランスポーターで輸送中だ、それは安心してくれ」
「ハーネイト様、遺跡の調査が終わったらこの地点まで来てくださいね。迎えに参ります」
「ありがとう、ルテシア、ロジャー」
彼らの使う輸送機、トランスポーターならベイリックスよりも早く帰れるうえに、それを搭載して帰還することも容易なため、思わぬサプライズにほっとしていたのであった。
「さあ、装置を早く見つけて戻らないとね」
「そうじゃな……しかし、よいのか?われらも参加してのう」
「ほかにまだ話を聞きたいことがありますし、フューゲルが密偵として活躍していたことを聞いていますから」
「いや、それはそうなのだが、ふう。ハーネイト、お主は器の大きい男だ。そこは、義理の父譲りといったところだ」
カイザーとフューゲルは、自身らもその会に参加してよいのか確認をした。そして思わせぶりな発言をしていた。自身らが異世界の、それも昔侵略をしていた存在ですらこうして受け入れようとする彼の心の在り方に、2人は感謝を胸の内でしていた。
「そう、なのですか。しかしオーダインたちとフューゲルたちにそう言う過去のいきさつがあったなんて……ね」
「知らないところで、そんなことが起きているなんて、ある意味怖いな。師匠、他の世界のせいで自分たちの世界まで消えるなんて、怖いと思いませんか」
「そう、だなリシェル。確かにそう考えると、どうしようもないこともあるだろうし、怖いな。だけど、万に一つの方法があるのならば、あきらめなければ解決できる。そう私は信じているよ」
この先、どんな事態が待っているのか皆目見当がつかない。ましてはほかの世界による脅威が今後高まることも予想される。それでも戦うしかない。明日を切り開くならそうするしかない。だからあきらめるな。勝利をつかみ取れ。そう弟子や魔女、忍たちに伝えた。
「師匠、すごいっすね」
「諦めない、か。そうだな相棒。チャンスはそうして手繰り寄せるものだろう?」
「私だって諦めなかったから、ここまで来られたのです。弱気になるくらいならば、前へ進めばいいって」
「そうよ、私たちにだってできることはあるわ、きっと」
正直話の展開についていけてなかった人たちも多いが、それでも徐々に事の重大さと、それでも自身らができることを探さないといけないと冷静になる。それが、常に侵略の危機にあったこの星の人たちの強み、屈強な精神性と結びつくといえる。
「ふふ、あなたたちは本当に……いや、ここですね。この奥から次元関門特有の波長が伝わってきます」
エレクトリールが自身の身に感じる感覚から、目的のものが近くにあると告げる。そうして彼らは、最奥の部屋に足を踏み入れようとしていた。
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