「神造生体兵器 ハーネイト 二人の英雄王伝説」

Code １２９ 古代人とヴィダール、悪魔の関係

「昔から、そう、古代バガルタ人のいる時代からこの星は幾度となく危機を迎えた。そこでいかなる環境でも耐えられる究極の生命体を作り遺伝子を残そうとしたのだ」

　大消滅が起きる前、この星は非常に栄えていた。けれども異世界から迫る脅威に何度も晒されていた。それに対抗するため、古代人たちは文明の発展と共に危険ともいえる人智を超えた研究に手を伸ばしたのであった。

「それは、その研究は私たちがこの世界から切り離された後も研究が続いていました」

「誰だ、お前は」

「私はオーダイン・スキャルバドゥ・フォルカロッセと申します」

そしてアーロンの話に付け足す形でオーダインも話に参加した。

アーロンがオーダインらを不審な男だとして睨みつけていたが、彼の名前を聞いた途端、その整った顔に焦りが見られた。そして声を荒げこう叫んだ。

「スキャルバドゥ、だと！次元融合装置を開発し、危険性を知りながら運用した大罪人のネームではないか。何故貴様らがここにいるんだ！」

「それは、そこにいる男に会いに来たからですよ」

　アーロン・ジェイド・ラグナス。彼はかつて栄えた古代文明を滅ぼした原因といわれる12人の白き男が一人、ダムハード・ジェイド・ヴァステンアイレンの息子である。しかし彼の父ダムハードは、実際は実験の危険性を指摘し止めようとした人物でもあり、せめて一人残った息子だけはどうにかしようとこの遺跡、もとい古代人の研究拠点の一つにコールドスリープで約300年ほど眠らされていたのであった。そしてスキャルバドゥという単語に反応したのは、ダムハードが最も敵視していた科学者シルクハインの中苗字であったからである。

「どういうことなんだ、オーダイン」

「それは、あなたが私たちのいる世界にいらしたときにすべてお教えします」

「どちらにしろ、俺たちが帰るには遺跡の中にある装置使わねえと帰れねえんだわ」

　オーダインは、非常に申し訳ないといった感じの表情を見せながらアーロンにそう言い、ミザイルは装置を使用したいと彼に申し出た。しかしまだ彼の名前を聞いていないアーロンは名を名乗れと軽く脅したのであった。その間、ハーネイトたちは彼らのやり取りを静かに見ていた。

「ああ、紹介が遅れた。ミザイルという。霊界の力をみだりに使うやつらを裁きにここに来たのだが、もうその仕事は終わりのようだな。……長い闘いだった」

「とにかく、できればその装置の起動と調整を行いたいのだが」

「貴様らも、あの女と同じことをしでかすつもりか！」

　アーロンは目覚めてからずっと、この遺跡を守ってきた。そして今から20年ほど前に起きたDG侵略事件の際に、実はセファスと出会い戦っていたのであった。そこで彼女の目的を聞いた彼は、それに対抗するすべを考えていたのであった。彼女の恐るべき計画を知っていたからこそ、オーダインたちの行うこともまた、あの時の悲劇を起こすのではないかと非常に警戒していた。

「何だいきなり。俺たちもラー文明を構築した連中の末裔だ。しかしな、あの女とは目的が違いすぎる」

「何を言うか、私たちは、大いに反省しているのだ。かつて起きた、文明や技術が進みすぎたが故に起きた悲劇をな」

「どういうことだ。……いや、まさか、そんなことは」

　アーロンは、オーダインとミザイルの顔を見ながら、一つの答えが脳裏に浮かんだ。しかしそれが本当だとすれば、それはそれで恐ろしいことであった。彼らこそ、約３５０年前に次元融合装置の実験を行い消滅した科学者、ハルフィ・ラフィースのメンバーなのではないかと言葉から察し、同様と焦りの表情が彼の顔面をゆがませた。彼は二人が、災厄から逃れ長い間この世界で生き延びていたものと思っていただけに、信じられないと動揺していた。

「私たちは、あの事件でこの世界から切り離されて別の世界に移された人たちなのだよ」

「そこはな、絶対創造神なる一人の女がいるんだよ。それを怒らせるとあらゆる世界が消滅しかねねえんだよ。俺らは、女神の機嫌を取るためにこうしてきて、活動をしていたのさ」

「とても、信じられないが……」

「それは、私も同じだ」

　アーロンは二人の話している内容が信じられなかった。それはハーネイトたちも同様であった。

「しかし、その女神とはなんなのだ」

「ヴィダール・ティクス、あなたはこの言葉を聞いたことはありませんか？」

「誰だお前は」

「私はシャックスと申します。別の星出身ですが、この星にもある神々の伝承が伝えられていると聞いています」

「ヴィダール……それは、あの崇めることを禁止された伝承の神々の総称ではないか」

　アーロンも、記憶を手繰り寄せながらその古の伝承のことを思い出していた。そして話に割り込む形で、シャックスがその伝承に関する話をもう一度そこで切り出したのであった。

「ほかの星でも、同じ神話が語り継がれているというのは興味深い……だがそれが本当ならば、まずいな。女神ソラは非常に気まぐれで、気分屋と書いてあった。しかし、本当に今も実在するのか……」

「それを確かめに、オーダインたちのいる世界に向かわないといけません」

「別の世界に行くことが怖くないのか？」

　ハーネイトの、その恐れを知らない言葉にアーロンは静かに、しかし威圧するようにそう言葉を重ねる。その異世界を移動する実験のせいで文明が一つ滅んだ事実があるのだから、その案件と関連のある彼は困惑していた。しかしもし、女神という超生命体が存在するのならば、何らかの手段を取らなければもっと恐ろしいことが起きるかもしれない。そうも考えていた。

「まったくとは言えないです。けれど、真実を掴むために恐れてばかりでは何も得られませんから」

「強いな、貴様は。改めて名前を聞こう」

「ハーネイト・ルシルクルフ・レーヴァテインです」

　アーロンは聞きそびれた名前をもう一度確認した。この男、見た目や雰囲気に反して強い意志と覚悟を秘めている。そう感じていた彼は名前をもう一度聞いてからハーネイトという言葉の意味を彼に伝える。

「ハーネイトか。その名前の由来を知っているか？」

「名前の、由来ですか、アーロン」

「ハーネイトとは、古代バガルタ人。つまり私たちの間で神として、英雄としてあがめられた男の名前と同じだ。そして、その意味は人を束ねる者。人を導き道を作る者という意味がある。ハーメルン、ハルメート、ハーネイト。長い時代の間に徐々に呼び名が変わっても、その偉大な男は忘れられることはなかった」

　ハーネイトの旅の目的はいくつも存在したが、その一つがここで分かったのであった。しかしなぜそのような名前を、誰がつけたのだろうか。ジルバッドは別れ際に何かを言おうとしていたが、聞き取れなかった。しかし、彼が名付けたのではないのかもしれないとうすうす彼は感じていた。

「しかし、家名はルシルクルフだ。一体、私の名前を付けたのは誰だ」

「それは、私らが知っておる」

「無事だったか、ハーネイト」

　どこからともなく聞こえる声。そして次の瞬間、空に現れた二人の男。しかし人にしては、あまりに人には見えない。角と翼。そして肌の色。それらはこの世界の住民でないことを証明していた。しかし声を聞いた時、ハーネイトたちは誰なのかを思い出した。そう、ミゴレッドで出会った悪魔、フューゲルのものであった。

「フューゲル……それと、その隣にいるお方は」

「ああ、こうして会うのは初めてじゃのう。こいつから話を聞いてはいただろうが、わしの名前はダークカイザー。そして、貴様をこのフォーミッド世界に連れてきた者だ」

　以前フューゲルから話を聞いていた悪魔の親玉。初めて会ったとは思えない感覚。彼はそれからある記憶を思い出した。そう、この男に手を引かれ、山奥にある大きな家に連れてこられたという記憶であった。

「そこの男から、話は聞いていました。あなたが、ジルバッド師匠の友人と言っていたお方ですね」

「そうだ。そして、幼かった貴様をあの剣士の夫婦の下に連れて行ったのも私だ」

「やはり、そうなのですね」

　彼らの話を聞いたハーネイトは、今までどこかで感じて違和感は本当だったのだなと再確認した。そしてなぜ悪魔たちが、こうして人の味方をしているか彼は訪ねた。

「フハハハハ、別にそうではない。ただ、見逃せば貴様らの世界だけでなく、ほかの平行世界も、全く異なる次元の星や存在も消えてしまうことに気づいたからだ」

「そして、貴様の中にある悪魔の力。それがもう一つの理由だ」

　そしてDカイザーは手にした杖を構えハーネイトに対し突き出した。それを見たリシェルたちはすぐさま武器を構えなおしたのであった。