第55話 龍教団の街ベストラ
ジュラルミンの恐るべき計画が発令されたころ、迷霧の森を抜けたハーネイトは街を見下ろせる高台の上で、自身にとって忌まわしき能力を発動した。
「魔眼破界(スクリーン・パリィスペルト)」
彼がそう叫ぶ。すると、周りの時間が一瞬止まり、それがもとに戻る際に光の結界が粉々に砕け散ったのだ。そしてその破片が空に舞い虚空へと消えていった。薄暗い背景にそれは良く映えて、幻想的にも見える光景に他の3人はしばらく見とれていた。
「何だと、あのいかにも堅牢そうな結界が、一瞬で、粉々になりやがった」
「ねえ、これはどういう原理、なの?」
2人は術式の結果にただただ驚き、呆然と立ち尽くしたまま目の前の光景を見つめていた。
「建物は、全く被害なしよ。しかし、あの結界だけをいとも容易く破壊するなんて、考えられないわ。ハーネイトって本当に魔法使い?」
「これでも、ジルバッド師匠をはじめとした6大魔法使いが見つけた大魔法全てを行使できるし、星の魔導師の位名を持っている。だけど、今のは魔法ではない。……忌まわしき、呪いだよ」
彼は力を使用する度に2つの違和感を体で覚えていた。ふらつきそうになるほど精神的に負荷がかかることと、人であることを少しづつ忘れていきそうな漠然とした感覚が体を満たしていた。
「相変わらず恐ろしい力だ」
彼はわずかにふらっとよろめく。そしてひざが地面につきそうになるのを足に力を込めて防ぐ。また、胸が地味に痛む。それを周りに気付かれないように彼は振舞う。
「だ、大丈夫?」
倒れそうになるのをリリーが気づき、とっさに彼の体を支えた。
「うわっと、ハーネイト本当に大丈夫なの?」
「すまない。さて、邪魔な結界は消えたし、このまま侵入する」
彼はそう言うとベストラのある方角に走り出した。DGの件もあるため、早急に依頼を完遂したかったハーネイトは急くように道を軽やかに飛びながら進んでいく。
「おいまてよ、相棒!」
「私たちもあとに続くわ」
「ええ、行きましょう」
そのころ、堅牢な結界を完全に破壊されたハルクス龍教団の人たちは大混乱していた。
「一体何が。発動すれば巨大な魔獣の突進でもヒビ一つ入らない、破られることのない龍力の結界。それを容易く破界するなんて。まさか、龍の力を持つ者が?」
「これは、教祖様にすぐ報告しなければ」
ベストラの街にある、外敵を監視するための櫓に上って監視をしていたこの二人は、突然の事態に驚きつつも、冷静を取り戻し至急上司に報告をする。
「急げ、破られた以上守りが手薄になる。そこの、ここで引き続き監視をしていてくれ」
そして監視をしていた兵士の一人、ロミスという男は、櫓からすぐにおりると、街の中央にある教団の本部に急いで駆ける。そして、教団の本部でも非常事態に内部が慌ただしかった。
「あらあら、外が騒がしいわね」
「何か、あったのか」
街の中央にある教会、その施設内のとある部屋に監禁された二人の魔女、ビルダーとルシエルは急いで走る教団員の足音に気づき、何かを察する。
「これは、ふふふ。今こそここを抜け出すときよ。監視がいなければこっちのもの。はっ!」
隙を見て、好機だと笑いながらビルダーは扉の鍵を簡易な風魔法で打ち壊して、拳を魔法で強化しぶん殴りドアを吹き飛ばす。そして周囲を冷静に確認して外に出て廊下を素早く走り抜ける。
「はあ、お母様はいつもこうなのです」
「遅いと置いていくわよ」
「分かりました、お母様」
気勢の強い魔女、ビルダーに心の中で呆れつつも、ルシエルもあとに続き、脱出して母の後ろを追いかけていく。そして、教会の聖堂には、一人の少女が台の上で祈りを捧げていた。
「ああ、ようやくお越しになったのですね。私たちの救世主様」
このセフィラと言う少女は胸の前で手を組み、目を閉じてただただ祈る。彼女がいう救世主とは、誰なのだろうか。
「さて、ベストラはここか。警備のものが集まってきている。ここは魔法の方が費用対効果が良さそうだ」
一方のハーネイトは、戦うとした場合に剣か魔法のどちらを選ぶか考えていた。そう考えながら無防備に門の前まで歩く。すると若い男の声がして、ぞろぞろと同じ青い修道服をきた者が数十人集まった。
「貴様、止まれ!これ以上進むなら全力で排除する」
「ふうん、ここに魔女が捕らえられていると聞いてきたのだが」
「貴様、なぜその事を!」
「誘拐された魔女の家族から依頼されて、ここまで案内してもらった。でどうなのだ?」
彼の言葉を聞き、教団員の一人がすぐに声をかける。
「貴方はもしかしてハーネイト様でしょうか?違ったらすみませんが」
その言葉に今度はハーネイトが驚いた。まともに南の方まで行けたことがないのに、自身のことを知っている人がいたということに、改めて知名度と言うものの恐ろしさを感じるのであった。
「確かに私はハーネイト、ハーネイト・ルシルクルフだが。おい、なぜ私の名前を」
ハーネイトが先ほど抱いた疑問を表情に出す。それに質問をした若い男はにこやかに言葉を返した。
「それは、教祖様のお告げです」
「そうです。貴方という存在が来るお告げがありました」
「なんだそれは、お告げ?そんな眉唾物な話が……まあいい、おとなしく通してくれるなら何もしない」
彼は、自身の存在を少し棚にあげながらもお告げなど気のせいだという。しかし教団の関係者たちは話を続ける。
「あなた様が来てくださった、それは感謝」
「実は、私たちの方からも貴方に依頼があります」
「依頼、だと?」」
「はい。伝説の解決屋で有名なハーネイトさんにです」
男たちはハーネイトの顔を見て真顔でそう言った。一体何を言い出すかと警戒していたが、伝わる雰囲気は全員何かを恐れているようなものであり、それは大切なものを奪われるかもしれない。そういうものであることを感じたため仕事人モードになり冷静になった。
「ふん…。まあ、話だけでも聞こう。案内して欲しいのだが?」
「はい、私たちについてきてください」
ハーネイトは施設のなかに案内される。彼の後に、教団員がぞろぞろとついていき、さながら大行進のように見える。
てっきり一戦交えないといけないかと思った彼は拍子抜けしていたが、むやみに血を流させるよりかはいいと気持ちを切り替えた。
そして数人の教団員に案内され、落ち着いた雰囲気の、かなり古く所々壁やペンキが剥がれている建物内の奥にある聖堂に入る。するとそこには一人の少女が彼の方を優しく見つめていた。
「お待ちしておりました」
「貴女は誰だ」
「私は、セフィラ・ノート・エリクシナ。ハルクス龍教団の代表です。お見知りおきを」
セフィラと言う少女を見ながら、ハーネイトは警戒していた。何か人の者ではない、尋常ならざる気を感じた。それは、自身の中にある力と同じような感じでもあり、どこかで懐かしいという感情を目の前にいる少女に対し抱いていたのであった。
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