第54話 ジュラルミンの暴走とメイドたちの日之国到着



 その少し前、日之国に到着したシャムロックたちは街並みを観察しながらハーネイトたちがどこに行ったのか聞き込みをしていた。国王は車内でミレイシアの人形兵たちとともに待機させていた。


「むう、一体どこにいるのだ」


「早く見つけて、説教の一つでもしないと」


「おっかないメイドさんだな」


 3人は道中和菓子屋に寄って団子を買って食べながら、くまなく街中を探索していた。


 丁度その頃、お蝶が市内の見回りに出ており、怪しい一行を発見していた。彼女の仕事はそういった人物に話しかけて、何か裏がないか調べることであった。


「あの、あなた方は旅のものでしょうか?」


「ああ。確かにそうだが」


「うむ、ある男を探しているのだ。この顔に見覚えは?」


 お蝶は慎重に近づきつつ、3人に話しかけた。そうするとシャムロックが一枚の写真をお蝶に渡す。その写真を見てお蝶は少し笑いつつ


「ええ、このお方でしたら今は迷霧の森の方に向かわれましたわ」


 と言葉を返した。問題はそのあとミレイシアの表情が一変したことである。


「そこの女、何か他に知っていることがあったら吐け。ハーネイト様に何かあれば容赦はしない」


 ミレイシアはお蝶の言葉に反応し、いきなり口調が荒々しくなり、お蝶の腕を掴んだのだ。


「あなたたちこそ何なのですか?不審者は、捕らえなければいけませんわ。」


 そういうとお蝶はミレイシアの手を振りほどき、同時に軽く後方にジャンプし、十手を手にして構える。


「ああ、すまないすまない。私はルズイーク。機士国の近衛兵だ。争いに来たわけではないよ」


「近衛兵の方が一体何の用ですか?」


「先ほどの非礼を詫びよう。済まなかった。私はハーネイトの友人でね、彼に依頼していた任務が終わっているか確認をしたかったのだ」


「はあ、そうですか」


「それでこの国にリシェルと言う男が来ていないか知りたいのだが」 


 ルズイークのその言葉に、お蝶の耳がぴくっとする。


「リシェル・トラヴァコス・アーテンアイフェルト様のことですか?」


「おお、その素振りからするといるんだな?どこだ。後輩が元気でやっているか心配でなハハハ」


 リシェルがこの国にいることが分かり思わず興奮するルズイーク。お蝶はそれに驚きつつも、城の方で警備をしていると説明する。


「それならよかった。ありがとう、お蝶殿」


「はあ、それで貴方がリシェルさんのお知り合いということはわかりましたが、残りの人たちは一体?」


 お蝶の質問に、残りの5人は順番に自己紹介をする。


「私はミロク・ソウイチロウと申す。ハーネイト様にお仕えする執事でございます」


「私はミレイシア・フェニス・ヴェネトナシア。ハーネイト様の専属メイドです」


「シャムロックだ。私もハーネイト様のメイドとして働いている」


 3人の紹介を聞き、お蝶も他の人と同様、何でこのような人たちを雇っているのか不思議でたまらなかった。そしてミロクと言う名前を聞きハッとした。


「まさか、その刀。剣豪ミロク様!前に姿を見た時とだいぶ変わっていましたので気づくのに遅れました。すみません」


「構わんぞ。この地に足を踏み入れたのは何時ぞやぶりか」


 お蝶はミロクのことを知っていたものの、かなり前に顔を合わせただけなので思い出すのに少々時間がかかった。かつてDGが侵略してきた際に勇敢に戦い、一つの傷も負うことなく戦い抜いた剣士、ミロク。彼もまた知る人ぞ知る英雄の一人であった。


「まさかこのようなところで再会できるなんて」


「うむ、よろしく頼むぞ。しかし長く生きると時間の間隔も狂うな」


「そうかもしれませんね。しかしあなたほどの実力者がハーネイト様の下に就いているとは思いませんでした」


「人生、そういうこともあるのだ。儂は楽しいから構わんがな。それとハーネイトは実の孫だ」


 ミロクは静かに、お蝶にそう言いながら少し笑っていた。そして年相応に落ち着いた静かな気の流れが周囲を満たしていた。


「やれやれ、やっと話せるか。私の名は天月御陽。機士国の秘密警察、その一番上に立つ男だ」


「私はアル・ポカネロス・アーテンアイフェルトだ。リシェルの祖父である。孫が世話になっておるようじゃの。礼を申し上げる」


 それぞれが軽く自己紹介を終え、ようやくお蝶は目の前にいる人たちがハーネイトの仲間であることを理解した。


「そうですか、分かりました。機士国王様も同行されているわけですね。夜之一様にお取次ぎをしてきます。城の前まで案内しますのでついてきてください」


「はあ、よかったぜ。どうなるかと思ったが」


 そうして一行は、お蝶の案内の元ベイリックスで天日城に向かうことになった。




 その間にも機士国クーデター&DG軍は北大陸を攻め続け、大陸の約半分を制圧していた。このままでは北大陸制圧も時間の問題であった。はずなのだがそう見込んでいたクーデター軍の幹部とジュラルミンは、北大陸の恐ろしさを満喫していた。


「ええい!城塞都市の攻略はまだか!」


「予想以上の抵抗です。しかもナマステ―と叫びながらわが軍を蹂躙する変態がいる模様」


「最北端の山脈、レイダザンダ山脈から侵攻を試みている部隊は先住民たちのゲリラ戦法に引っかかり撤退、南方面から攻めようとしていた別動隊も一人の男によって壊滅状態です。もはや通常兵力では歯が立たない模様。といいますかわが軍の兵士たちがろくに動いていません。DGに与えた機械兵や培養した魔獣たちしかまともな戦力がありませぬぞ」


 ミリムとガルドランドがそれぞれ戦況を詳細に説明する。予定では半年で南大陸以外の制圧は完了すると見込み、DGの協力も取り付けて事を起こしたジュラルミンは、計画が狂わされていることに酷く憤っていた。


「ぐぬぬぬ、ふざけた連中だ。なんだ北大陸は。変態の宝庫か?」


「残念ながら、その様です」


 彼が憤るのも仕方がない。北大陸の広大かつ様々な気候と地形が変人や超人を多く作り出してきたのだ。1人で1000人以上を相手できる存在が軽く200名は存在するといわれるその地では、数での暴力もまともに効果がなかったのだ。


 また、その中の9割がハーネイトと関係がある人物とはさすがに副官たちも知らなかったのである。

 

 そしてジュラルミンは頭の中に時折響く甘く従わずにいられない声に囚われながら狂気に満ちた命令を出した。

 

 それは魔獣キメラの投入と新型機械兵「アクト」、大型機動兵器「グラム」の戦線投入であった。魔法使いの洗脳により次々と関係者や軍に対し命令を出し、同じように洗脳された兵士たちも合わせDGと合同で作戦を進めるように操作されていた。

 

 DGが研究と開発に協力し、機士国の人間がそれを動かし他の国を侵攻することでスケープゴートとし、その間に本来の目的であるとある技術が眠った遺跡を探していたのであった。それを完遂するため、魔法使いはジュラルミンを洗脳し続けた。


「もうこれで終わりだ。ふっははははは!」


 狂気に満ちた笑い声が部屋中にこだまする。以前の彼ならこんな笑い方はしなかったという。彼はミリムとガルドランドに至急DGに対し研究の数々をすぐさま実戦投入しろと言う命令を下す。それにすぐ従い、2人は部屋を後にする。


「どうしますかね」


「とりあえず適当に、ですかね。こちらは情報操作と偽装工作の命をロイ様から拝借している。それに従うまでさ~。はあ、ジュラルミン様を元に戻せる人はいないんすかね」


「やはりあの男か?今極秘で動いている、BKの創設者にして血徒戦線のリーダーくらいしかなあ」


「ダメもとで手紙を書いてみよう。ついでにサインも欲しいね。付け加えて、彼女いますかとあの魔法使いをけちょんけちょんにしてくださいと書いておこう」


「彼女の下りはいるのか?」


「あれ、私実は女なんですけど」


「え、えええええ!」


「ハーネイト様が女性苦手なの知っているので、隠してましたけどね」


 ミリムとガルドランドはそう言いながら建物の外に出た。そして長年の付き合いのあるミリムが女性であったことに目が飛び出ていたガルドランドであった。


 実は彼ら、ジュラルミンに隠していることがあった。それは自国の兵をとある男に預けており、報告も所々虚偽のものであったということである。そして二人はバイザーカーニアの者であり、ハーネイトたちやロイ首領に幾つか情報を渡していたのである。


 この彼らの行動が、早期終結につながる意外に大切な行動になるとはこの2人は予想していなかった。

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