第11話 研究者ボルナレロと外界より来た白き男


「誰だ!名を答えろ」


 ルズイークは扉の向こうにいるものが追っ手かなにかと判断して、背中に背負っていた剣を咄嗟に構える。


「ダグニスです!ハーネイトの兄貴はいますか?町の人から聞いてここにきました」


「ダグニスか、ここがよく分かったな。ご苦労だった。大丈夫だルズイーク。彼は私の仲間だ」


「わ、分かった」


ルズイークがドアを開けると、ダグニスが荷物を持って部屋に入ってきた。


「ふう、頼まれていた地図や食糧持ってきましたよ。あ、ハーネイトさん、写真の人と合流出来たのですね?やりましたね!」


「貴方は誰?ハーネイトの知り合い?」


「私はダグニス・ルーウェン・アリスと言います。ハーネイト兄貴のファンでバイザーカーニアの連絡係です。情報屋としても動いています。あなた方を見かけた同士のお陰で、兄貴ことハーネイトさんはあなた方のもとまで来られたのです。微力ですがよろしくお願いします」


 ダグニスはそう言い、深々と礼をする。彼女はハーネイトからある程度話は聞いていたものの、実際に一国の王と対面し、それなりに緊張していた。


「そうだったのか、やるじゃないか。礼を言うぞダグニスとやら。しかしBKか」


「えへへ。そういや他の地域からの同士の報告によれば東大陸にも2つほど拠点がありそうです。それと、噂に聞く忍者と呼ばれる人たちも、敵に関して探っているような素振りみたいです。ロイ首領やミライカナーティ、ロベリシア達によると北大陸の中央部に強大な魔力反応を検知していますが、詳しい場所までは不明とのことです」


 ダグニスは集めた情報を一通りハーネイトに伝えた。その話を聞いて、嫌な予感が的中したハーネイトはベッドに寝転がった。


「……いやな予感はすぐ当たる」


「東大陸にもか、早めに片付けなければ。……そうだな、考える時が来たかもしれない」


「たしかルズイーク、忍者に前に会ってなかったかしら?ちょっとあれだけど、彼らの力は必要になるわ。良かったらどう?」


「しかし、あいつの顔だけはもう見たくない。あの方向音痴腐れ忍者にだけはな!」


 ルズイークは、昔出会った忍者と言う存在にいい印象を抱いておらず、強調しながらそう言った。


「そうだな。あの事件か、あれは災難としか言えないな。ダグニス、本当にご苦労だった。君の働きにはつくづく驚かされる。何か褒美をあげないとな」


 そういうと、ハーネイトは不思議な力で何もない場所から本と、一つの短い杖を召喚した。それを彼女に渡す。それは、ダグニスを正式な大魔法後継者として認めるという証である大魔法全書と特殊な材質で作られた丈夫な指示杖であった。

 

 ハーネイトはこれらについて事前に準備はしていた。しかし話を切り出すきっかけがなかなかなく、こうしてやっと渡したいものを渡すことができた。


 何よりも、ダグニスが大魔法も含めたすべての力を組み合わせ力を貸してきた功績を彼は讃え、その上でさらなる高みを目指してほしいとのメッセージも含めたプレゼントであった。その本の裏表紙に、一つの封筒が入っているのに気付いたダグニスはそれに書かれていた手紙を読むと、とても上機嫌になった。


「な、なんと…!言葉がでない。ハーネイトの兄貴からそこまで認められるなんて、分かりました!ハーネイトの兄貴に一生ついていきます」


 ダグニスはハーネイトの前で大きくお辞儀をしてから、封筒に入っていたバッジを胸につける。そう、彼女はハーネイト専属の諜報員であり、またファンクラブも設立していた。それを正式に認めるとの内容であり、その金色に光る胸章がその証明であった。


「これからも私はハーネイト様のために全身全霊をかけて仕え、今まで以上に支える所存であります。ハーネイト様、何なりとお申し付けください」


「分かった。頼りにしているぞ。今日はもう下がって休むとよい。ありがとうダグニス」


「はい、では私はこれにて失礼します」


 ダグニスは部屋を出て、ゆっくりとドアを閉めた。


「いつの間にか、ああいった俺のファンも増えてきたが、あいつらにいいとこ見せないとな。それに反比例する私の休暇の日数。そろそろ血とか吐きそう」


「そうですね。みんなが更に応援してくれるように精進しないとですね。……しかしハーネイトさん。体調管理とか結構、苦手そうですね。戦士としてどうなのです?」


 ハーネイトの言葉にエレクトリールが指摘をする。ハーネイトについて、優秀だがどこか大切なものが抜けているのではないかと彼は考えていた。


「あれから5年かあ、ハーネイトがフリーになってから。風の噂に聞いたけどやっぱり凄いわ、ハーネイトは。断れない有名人第一位、忙しいのはあなたが仕事抱え込みすぎるからでしょうに。自業自得よ!」


「うっ、……言い返せない」


ハーネイトは、上げてから落とすアンジェルの言葉に言葉が詰まる。それが事実だからである。


「とはいっても、知名度は破格よね。下手な貴族よりも影響力あるし。そういや、あの角の生えた彼とリリーちゃんは?今は一緒じゃないのね」


 アンジェルは、ハーネイトが如何に有名か言いながらとある人物の存在について彼に尋ねた。しかし彼は頷きそうであると示した。


「確かに、そうなのかもな。それとあいつは今別行動だ。いれば、あんな連中瞬殺だろうがな。異世界より来たりし魔王と私より優秀かもしれない地球から来た魔法少女か」


「ハーウェンオルクスのあれだな。災いをもたらすか、栄光の勝利をもたらすか。ハーネイトにしか手綱を握れない危険な男だ」


「はあ、あいつも彼女を連れて世界を回っているだろうから、今の異変について把握しているとは思うがな。正直仲間にしたらしたで、頭が痛い。切っても撃ってもノーダメージとか、どう倒せばいいのかいまだに悩む。なんでいつも変わった人たちに懐かれるのか。理由は思いつくか?」


「いーえ、私にはさっぱりわかりませんよ」


エレクトリールを除くほか全員が共通したある人物のことを思い出しつつ、その恐ろしさについて語る。


 ハーネイトがあいつと呼ぶ人物は、今から約5年前に出くわした別次元から来た人のようなものであるという。いや、正確には超生命体と言うべき者であった。


 人類にとって最凶最悪の存在ともいえる者であり、出会った際にその者と戦ったハーネイトは、実質勝負に負けているのである。そして複雑な経緯が絡みながらも結局その男はハーネイトに懐き、今は最愛の彼女と共にこの星のどこかで旅をしていたのである。


 もしその男とハーネイトが連携すれば、それだけでどんな戦いにも勝てるというほどの超常的かつ理解の範疇を超えた力を持っているのである。


 ハーネイトが述べたとおり、その男には攻撃が通じないという。しかも防いだはずの攻撃が直撃し削り取られるという。だがそんな男にも懐かれるハーネイトの度量と運の良さについて妙に感心するルズイークたちであった。


「そいつの助けもあるといいな。厄介なのは仕方ないとしてだが。それと話の途中で悪いがハーネイト、これを」


 ルズイークは、荷物の山から大きな包みを取り出して中身を出す。


「ハーネイト、解決屋として一つ頼みがある。俺の教え子にこいつを渡して欲しい」


「これは銃か?すごく、大きい。ルズイークの教え子とはなあ。いつの間に」


「月日が流れるのは早いってか?ああ。名をリシェルと言ってな、狙撃や重火器、ナイフに長けた非常に戦力になる男だ。そいつにこれを渡して欲しい」


「別に構わんが。代わりに渡すよ」


「かたじけない。その銃はリシェルの兄姉が作った多機能銃だ。説明書もあるからリシェルに読ませろよ?」


「了解した」


 彼はリシェルと言う男がこの大陸におり、その人に白い銃を渡して欲しいと、ハーネイトに依頼を申し込む。彼はそれを快諾し、しばらくその白い銃を見続けていた。


「しかしそのリシェルさんは何をしているのでしょうか。故郷が大変なときに一体?」


 エレクトリールの質問にアンジェルが答える。


「リシェルは旅に出ているわ。目的は明かしてはくれなかったけど、近頃東大陸の、確かシャリナウって所でそれらしい人を見たって。少し昔の写真だけど、これ。リシェルがまだ軍人だった時の写真よ」


「いい面構えしているな。シャリナウか、ユミロの話した場所と同じか。ちょうどいい、2つの用事を片付けることができそうだ。次はそっちに向かう。いいかエレクトリール?」


 ハーネイトはダグニスが持ってきた地図を見ながらエレクトリールに確認する。


「ええ、いいですよ。早くリシェルさん探して銃を渡さないと」


「頼むわよ。彼はぶっきらぼうなところがあるけど、ハーネイトの昔話とかしてあげたら?興味持っていたみたいだし、ちゃんと仲間にしてきてね。お願いよ?」


「分かった分かった。銃の扱いが得意な奴は必要だからな。機械はまだしも、銃はなぜかうまく扱いきれない」


 アンジェルの頼みも理解し、ハーネイトは手を軽く振りながら銃の扱いが苦手なことを言う。


「それなら、この際リシェルからアドバイスを聞いた方がいい。機械とか苦手なところは魔導師らしいなハーネイト。それ以外は型破りすぎだが」


「確かに、日本刀を杖代わりに使う男など聞いたこともない」


 ルズイークの指摘に、アレクサンドレアル6世が言葉を付け足す。この世界でも他の世界と同様に、魔法が使える者は基本的に杖を所持しているのが主流だが、このハーネイトは通常魔法などを刀から発射するというユニークな方法をとっていた。


 彼にとっては、魔法剣術で戦う際にそのスタイルが最も合理的であったからだ。


「これでもあの頭の固い爺さんたちよりは使えるが。うちの教え子にはかなわないけど……。仕方ないだろ?不得意の一つはあるさ。リシェルに会ったらルズイークたちのことも言っておこう。」


 ハーネイトは機械の扱いはほかの魔法使いよりもうまくできるという。事実ではあるが、まだ機械音痴なところはあるという。そして教え子と言う言葉が出てきたが、ハーネイトが機士国に仕える前に一年間だけ魔法学の先生をしていたことがある。


 その結果32人の優秀な魔法使いが生まれたが、そのどれもが機械と魔法を組み合わせて行使する新生代の魔法使いであった。しかし中にはそれで犯罪行為を行う者もおり、彼の胃は精神的にきりきりしているという。


「ああ、頼むぞ」


「それと明日は、3人はダグラスと一緒にリンドブルクまで魔法で飛ばすからな。事務所はダグラスか案内するから、そこで好きにしていてくれ。あと、よかったらメイドたちが帰ってきたら足止めを頼む。特に女メイドにはな」


「分かったハーネイト。何から何まで済まない。助けられっぱなしな所が多いが、いざというときは私がそなたの力になろう。しかしメイドとは、私に仕えていた時の影響か?」


 アレクサンドレアル6世はハーネイトの心遣いに感謝しつつ、メイドがいることについて質問する。


「は、ははは。まあ、そうですね」


「少しは人間らしい欲も出てきたか?まあいい、ハーネイト。いつもありがとう。そなたがそばにいるから、私も勇気を出せる。早く片付けて、二人で釣りでもしたいな」


「別に構いませんよ。いいですねそれ。実は興味あるんです。さて、ではそろそろ寝ましょう」


 そうしてそれからも話は続き、数時間話し込んだ。そしてハーネイトが部屋の電気を消し、全員ベッドに入り一夜を明かす。


 けれどハーネイトは寝付けなかった。そう、彼は寝る度に幻聴ともいえる現象にうなされていた。それに女神のことがどうしても気になって頭が活性化している状態であった。


 世界を滅ぼす?そんなことは誰にもさせない。けれどそれが何者で、どこの女神なのか分からない現状に彼はやきもきしながら、ひたすら脳を鎮めようと深呼吸していた。



 その頃、シャリナウ近郊にあるとある施設に一人の男がいた。彼はモニターの画面を見ながらくぎ付けになっていた。その男はボルナレロ・ジャド・ジオノアロークという。


 彼はDGに所属し、かつて機士国において魔獣や魔物について調査や研究を行うMAGT(先進研究開発機構)の魔獣研究科リーダーであった。そして現在は魔獣制御装置の本格的運用に向けて活動していた。


 今の上司であるハイレイムと言う男から得た情報と命令により、ユミロと言う下級幹部の男に命令し周辺に存在する魔獣などに装置を取り付け、タイミング良く包囲できるように準備をしていた。


 結果として、魔獣を制御し機械兵とともに包囲することはできた。しかし、謎の男らによる助太刀が入り、装置や機械兵のすべてを失うことになったのだ。本来ならばその現場に立ち会いたかったものの、別件の用事が重なり動くことができなかったという。


「この男、やはりだ。ハーネイト!……は、はははは!」


 彼は機士国内で、最先端の技術を研究する組織に属していた際に電波を用いた遠隔操作について研究を行っていた。


 しかし、機士国王の政策により、その組織に充てられる予算が減少、そして組織の凍結により研究が思うようにできなくなった彼はDGの策略に動かされ仲間たちと共に傘下に入ることになったという。

 

 この時に裏の事情を知らず、多くの研究者が機士国王に対し恨みを持つようになったという。そしてその新しい組織がDGが作り上げたものとは最初知らなかったという。

 

ボルナレロも、魔獣の操作装置の開発と生産を依頼され、その言葉に乗ってしまったのである。彼の最終的に目指すところは魔獣の被害抑制であった。

 

 しかし、DGはこれを戦争を引き起こす道具として見ており彼も徐々に違和感を感じるようになったという。それがきっかけでDGがその組織を作ったことがわかり、ひそかに情報収集をしていたのである。

 

 それからハーネイトの姿をモニターで確認し、昔のことを思い出していた。資金面で苦慮していた際に5000億もの大金を笑顔で渡してくれたこと、地図を使った技術に興味津々な顔を彼がしていたこと。12騎というボードゲームでよく遊んだことなどを思い出していた。


「とにかく、機材の調達をせねば。……そしてユミロはハーネイトの仲間になったようだな。相変わらず彼の能力は恐ろしい。天性のカリスマか。はあ、なぜ早く気が付かなかったのか。彼に取り入ればより役に立つ研究が行えるし資金面の心配もなくなるはずだ。成り行きでこうなったとは言いつつも、迂闊だった」


 そう考えながら、ボルナレロはエナジードリンクを口に含み何かを画面に入力していた。


「このリアルタイム地理情報システムは、どうにかしてでもハーネイトに一度預けたい。ユミロが居所を教えていればじきにやってくるだろうが、ここは保険をかけてみるか。しかしあのハイディーンやDGから来た研究者も気になる。どうしようか」


 そう考えつつ、ボルナレロはデータの入力や装置の作成などを行っていた。他にも研究者が複数存在するが、彼らも半ば強制的に研究を強いられているという。


「機士国王のことはまだ許せないが、ハーネイトは別だ。もし話が通るなら、私は彼に一生ついていく。いや……あの黒づくめの女は魔法使いだった。もし何かされていたら……もしかするととんだ勘違いをしていたか私は」


 そうして、ボルナレロは今までの研究から、ハーネイトにどう接触するかを考えて行動するようになっていた。


 しかし彼だけでなく多くの研究者がハーネイトのことを考えていたという。それだけ彼を信頼して慕っている者が多いという証拠でもあった。敵もそのことを計算に入れておらず、のちにその力がDG崩壊を速める結果となるのであった。


 その頃、夜中過ぎにベッドで寝ていたハーネイトはうなされていた。どうやら悪い夢でも見ているようである。


「誰、だ…また声が」


……ココロ…ヒラケ、ウケイレロ、ワレラヲ。

……私の声が、聞こえますか?


 頭の奥から断続的に声がする。それは冷たく無機質な、寒気を覚える声とどこか懐かしく、優しい雰囲気を感じさせるものであった。同じ言葉を数回ハーネイトは聞いた後、目が覚めてベッドからゆっくり起き上がる。


「また、か。以前よりも頻度が増えている。この声の主は誰なんだ一体」


 心の中でそう思い、聞こえてくる声に不安を覚えながら、毛布で体をくるんでもう一度寝ることにした。そして翌日の朝、彼らは宿屋の一階で朝食を取っていた。


「ここのナチェはうまいな。生地がしっかりして風味もいい。リラムと研究したい」


 ハーネイトはナチェと呼ばれる、豆や穀物を粉にして練り焼いた物を食べながら味の感想を言う。


「そうね、これは癖になりそう。それで私たちはこれからハーネイトの事務所に向かうのよね?」


 アンジェルがコーヒーを飲みながらそう質問した。それに対しハーネイトは落ち着いた様子で彼女に話をした。


「ああ。ダグニスには連絡済みで後で合流する予定だ。事務所には3人のメイドがいる。戻ってきていたらこれを見せれば、世話をしてくれるはずだ。3人のうち2人は国王を知っているからすぐに中に入れてくれるはずだし、いざと言う時はこれを使うと言い。食べたら町の外に向かうぞ。いいか?」


そういうとハーネイトは、手形のような木でできた板をアンジェルに手渡した。


「わかったわ。既に宿代は払ったからすぐに行けるわよ」


「っと、ハーネイト。こいつを渡して置く」


 ルズイークはハーネイトに携帯端末を渡す。


「携帯端末というやつか、これで連絡を取れと言うことだな?」


「何かあったら連絡してくれ。この程度ならまあ扱えるだろう。こちらでも魔力妨害対策を考えてみた最新型だ」


「ああ。すまないなルズイーク。拠点を確保次第連絡する。それと予備はあるか?」


「まだ何台かあるが」


 そうハーネイトが質問するのは、いざという時にエレクトリールとダグニスにすぐ連絡が取れるようにしたいという考えがあった。ここは二手に分かれ、それぞれ情報を集めた方が得策だと判断した彼の作戦でもある。


「エレクトリールとダグニスの分もいいか?」


「そうだな、エレクトリールと昨日の情報屋もとい命の恩人さんにも渡さないとな」


 ルズイークはもう2つ携帯端末を彼に渡した。



「これでいいか、ではそろそろ支度だ」


 ハーネイトが食事代を払い、全員外に出て、町外れの人気のない場所で集まる。木々に囲まれた街リノスはこのような場所が幾つも存在している。朝方の少し身震いしそうな寒さの風が木々を吹き抜けていく。


「ハーネイトの兄貴!来ましたよ!寒いですね本当に」


 ダグニスが、ハーネイトのもとへ全速力で駆けてくる。


「来たか、ダグニス!ほら、こいつを受けとれ」


 ハーネイトはダグニスに携帯端末を渡す。


「これで離れていても連絡できる。いい情報を手にいれたら連絡をくれ。それと事務所と王様たちを任せていいか?案内をしてやってくれ」


「無論っすよ!兄貴の頼みなら何なりと。ハーネイトの兄貴が拠点見つけたら、すぐにつれていきますから」


「頼もしいな。ダグニス、よろしく頼む。では転送準備だ、みんな集まって」


 ハーネイトの指示で魔方陣の中央に彼らを集めてから、静かに移動魔法の詠唱を始める。バイザーカーニアの情報により北大陸でしか魔力の乱れが観測されていないことから、東大陸において監視の目が届いていないことを理解しハーネイトは移動魔法の詠唱を始めた。


「あとは頼んだ、ハーネイト。また会おう。吉報を待っている。新たな拠点ができ次第、私も指揮をとろう」 「分かりました」


 ハーネイトの詠唱が終わり、ルズイークたちは光に包まれてリンドブルクの方向に飛んでいった。無事に魔法が発動したのを確認したハーネイトはひとまずほっとしていた。


「はあ、ん…ひとまず王様たちの無事は確認できたし、3か月前に何があったか、そしてエレクトリールの故郷の襲撃との関連性について、改めて分かった」


「はい、何があったか、それが徐々に分かってきましたね。次の目標は、リシェルさん探しと銃の受け渡しですね。それと、例の研究者ことボルナレロさんの行方を追うことですね」


「ああ。ではそろそろ俺らも動こう」


「はい!ハーネイトさん。お供致します」


 こうして彼らは、機士国を乗っ取ったドグマ・ジェネレーションの侵略と戦う同士を探すため、長い旅を始めるのであった。






そんな彼らが活動を始める少し前、アクシミデロ星の外から一つの隕石が落下してきた。それは燃え尽きずに、西大陸の南端に着弾し、凄まじい衝撃波と熱風が周囲を薙ぎ払いクレーターを生み出した。


「いてて、なかなか星への突入はうまくいかないね。さて、DGは残り、ここだけか。女神が目覚める前に、何としてでもハーネイトを探しDGを消さなければ……何もかもが終わる」


 その隕石は、正確には隕石ですらなく一人の人間であった。熱と着地の際に巻き上げた土砂で汚れた服をイジェネートで作り直し、元の白くゆったりした大きなマントを羽織いながら周囲を確認していた。


「ここが、私の。いや先祖様の故郷か。美しい星だ。そんな星をあいつらの好きにはさせないよ。奴らの邪悪な気が向こうからする。女神の所有物を奪った連中に死の鉄槌を」


 その白いマントを羽織った男、いや青年は北の方角を見てから空を飛びその目的地に向かって飛んで行った。全てはDGを潰し、女神と言う存在の機嫌を損なわないようにするためであった。

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