Code99 DGの生まれた理由


廊下の天井から降りてきたのは、伯爵とミカエル、ルシエル。そしてそれに続いてギリアムとリシェル、エレクトリールであった。天井に空いた大きな穴から二つの月光が差し込み、さながら天使が舞い降りたかのように彼らは城の廊下に降り立つ。


「ハーネイトの仲間たち、か?」

「ああ、そうだ」

「となると、逃げた方がいいな」


 そう言い立ち上がろうとするボガーノードをハーネイトは腕をつかんで止める。いきなりの行動に驚きながらボガーノードは彼の顔を見つめた。


「何の真似だ」

「いや、もっと話を聞かせてもらいたくてね」

「DGのことを恨んでいる奴、少なくないだろう。俺なんかいれば大変なことになるぜ」

「それなら、ユミロ、だけでなく他の二人もなぜここにいるのかわかるか?」


 ハーネイトは、ユミロも元幹部で今は行動を共にしていることをボガーノードに伝える。そして確かにそれもそうかと納得はするものの、彼の表情は険しかった。


「……そうだったな、なぜユミロはこの男についてきたのだ? 」

「この男、DG倒すと。そして力を貸してくれるといった。何よりも、優しくて、頼れる男だ。お金もたくさん、持っているし、終わったら雇ってくれると約束してくれた。ここまで懐の大きい者は初めてだ。絶対の忠義を尽くすにふさわしい。だからここまできた」


 ユミロのその言葉を聞き、ボガーノードは一瞬真顔になるもすぐに盛大に笑った。


「へっ、そこまでユミロが入れ込む男か。大したものだ。幹部の中でも一番扱いづらかった彼をここまで心酔させるとは、見た目に反してよくやるじゃねえか」

「そう? 」

「ああ。しかし俺も今頃他の幹部たちに目をつけられていそうだ。元々危うかったが、今回の一件で確実にアウトだ。どうしようかね、身の振り方。故郷はすでにないし」


 ボガーノードは今更になって自身がやったことがかなりまずかったことに気づいてうなだれていた。けれどもいつかはやらなければならなかった。時期が早くなっただけだと彼は考え、覚悟を決めたのであった。


「やれやれ、しかしDGとはそもそも何なのだ。以前にもこの星に来たことがあるというが」

「DG……。確かに数十年前にもこの星に降り立ったことがあったとよ。俺が入ったのはその数年後だが。しかしなぜこんな組織が生まれたか、それは幾つかの武器会社がカルテルを組んで異世界からくる危ない連中を叩きのめそうとしたのが始まりらしい」


 ボガーノードはそう説明し話をつづけた。DGと呼ぶ実態のもとは、アクシミデロでも起きる次元ルフループ(漂流転移)により引き起こされる、様々な災厄に対し対策を行い力をつけた、幾つもの星の出身者の創組織に始まるという。しかし長い年月の間に組織は腐敗し、いつの間にか力と権力、そして何よりも金を得ようと他国や他星を侵略する集団になり下がったという。

 そしてその過程の間に、別の勢力が合流したことで一旦は落ち着きを取り戻したものの、DGがアクシミデロを襲った前後からおかしくなったとボガーは話す。

 その別の勢力とは「霊界人」という。とある別の次元には霊的存在が行き着く先、そして霊たちの楽園があるという。それに先天的、または儀式や臨死体験などによりその世界を認識し、その霊の力を操れる能力者のことを指すという。厳密には霊界には別に元から住んでいる人たちがおり、その人たちこそそう呼ばれるため、ボガーノードたちは霊量子を操る戦士、という霊量士(クォルタード)というのだが、彼らはまだそれを知らずにいた。

 このボガーノードと言う男も被害者であり、元々は故郷で漁師や花の栽培などを行う優しき青年であった。しかし突然その日常はDGに奪われ、彼は命惜しさにDGにいやいや加わることにして身の保全を図ったのだという。しかし長年の上官であり徴収官であるボノフやその上にいる貴族たちに相当な不信感をもっていた。そして白い男によりDGが壊滅しつつあると情報が入り、いつ抜け出そうと考えていたという。しかし生まれ故郷はDGの開発した兵器により人が住めなくなり、家族もすでに死んでいたため居場所がなくつらい状況であったという。

 そして彼らがそのような凶行に走るのは、主に二つの理由が挙げられるという。一つは今まで多くの人たちがイメージしていた戦争による利益を設けること、そしてもう一つはそれ以上に恐ろしいものであった。


 「霊界人だけが存在する世界を作り、それ以外の者を抹殺する」それこそが今のDGの方針であった。


 異世界から来襲する侵略者に対抗する存在が戦争屋になり、それを霊界人、いや、特殊な能力を持つ人たちが利用し今に至る。そのことを聞いたハーネイトはその事実に真顔のまま、話を聞き終えるまで決して表情を変えることはなかった。それは、自身らの活動もどこかで似ている点があったからである。ハーネイト自身、星に来訪する侵略者を倒すため、自然と組織を設立し多くの人と力を合わせて困難な状況を乗り越えてきた。下手をすれば彼らと同じような組織になってしまうのではないかと、彼は不安を感じていた。

 そしてボガーは更に重要なことを彼らに告げた。それは霊界人たちこそが、DGを元の対侵略者の集団に戻すためにDGを乗っ取ったと言い、ある人物がボスの傍に来てからおかしくなっていったという。


「やつらはそういうものだったのか」

「ああ。俺の故郷も、そいつらのせいで滅茶苦茶だ。最初に掲げた信念などとうの昔に消え去っているさ。人の欲望ほど怖え物はない。そういう俺もあまり人のことを言えないがな。そして、先天的に霊界に通じられる俺やその友が霊界人のボス、ゴールドマンとパラディウムに目を付けられ、力のなかった両親や妹があのパラディウムという男に殺された。だから、あの時のことは一度も忘れたことはない。俺は、あのパラディウムという奴だけは絶対に許さねえ」

「……そうなのか。そういう、事情があったのだな。ユミロもそうだったけど、ボガーノードのような存在もいるのだな。不思議な力、霊量子を操る能力者か、恐ろしい奴らだ」

「ああ。俺はあいつらの言う霊界人だけがいる世界とか下らんと一蹴する。確かに彼らが異能の力を持ったがために迫害されたのは悲しい。俺も同じだったからな。だからと言ってそれ以上のことをすれば、また同じことが起きる」

「そうだな。それは俺も同じ目に遭ったからわかる。苦労ばかりの人生だ」


 二人は互いの境遇を話しながらやってくるリシェルたちを見ていた。 


「相棒、無事か」

「ええ。うまくいったよ。しかし重要拠点のはずなのに、戦力が少ないというか…」

「うわわ、ボガーノード! 」

「な、貴様!とうとう見つけたぞ、この裏切り者がぁ!! 」


 そして伯爵がハーネイトの無事を確認し、ボガーノードはエレクトリールと目を合わせ表情を一変させた。


「ボガーノード、もう指令はないも同然だわ」

「そうだがなあ、降格させられた原因に関わったのは確かだ。そうでなきゃ面倒な目に合わなかったぜ」


 それを見かねたシャックスがボガーノードの肩をそっとたたき話しかけた。そしてもう今までの戦いとは違う。そう彼は耳元でささやいた。これからは自分たちの仲間を助け、裏で組織を操り多大な被害を与えた黒幕を倒す。だからこそ友であるボガーに来てほしい。そう思い彼は話を続けた。


「ボガーノード。あなたもこちら側に来てください。魔法使いの話はさっき聞いたのでしょう?」

「聞いたが、そういやなんでシャックスも影響を受けてねえんだよ」

「私はあの魔法使いに目を付けられないよう、いろいろ工夫をしていましたからね。あのような邪気、私の美しさを汚します」

「あいっかわらずぶれねえなお前は。そのおかげで助かったってのが何かイラっとくるぜ」


 ボガーノードは苦笑いしながらも、友が無事であることに安心していた。二人の仲はDGに入る前から、そう。シャックスとボガーノードは同郷であり彼らも幼馴染のようなものであった。途中で親の都合で一旦分かれたものの、DGに入ってから再会したのであった。


「シャックスは昔からこうだからね……。ああ、ごめんエレクトリール。あなたが持ってきた霊宝玉、ハーネイトと共鳴させたっていうの忘れてた」

「えええええええ!リリエットさん、それ私の役目だったのに……」

「ごめん、でもまだ完全じゃないわ。後は頼むわよ」

「わ、分かりましたリリエット。ハーネイトさんを王にするため、キングメーカーとして頑張ります」


 リリエットとエレクトリールの会話を聞き、ボガーノードが彼女たちに詰め寄る。


「なぬ、霊宝玉はこの男の中にあると?」


 それについて二人は一連の経緯を彼に話した。


「はははは、そう来たか。あの霊界人の力を極限まで高めるアイテムをか。面白いじゃねえか」

「私たちの目的は、戦争屋であるDGを作り替え、本来の姿。侵略者と戦うための組織に戻すのがその一つ。彼にはその主導者になってもらおう」

「おい、その話聞いてないぞ。てか勝手に話を進めるなあ!ふーざーけーるーな!リーダーとか面倒で嫌なんだけど!」


 ハーネイトは自身が知らないところで怪しい計画が進んでいることに少々怒りを覚えていた。確かに彼は侵略者である魔獣や悪魔などを幼いころから狩り続けてきた。そしてDGができた経緯も知った。確かにこの世界において多くの人を守るために戦う人が必要なのは自身が実感していたものの、組織の上に立つということについては彼はそれを嫌っていた。

 理由は王になるのが嫌という理由と同様のものであるが、彼自身本来は戦闘狂な一面もあり、一兵卒として戦うのが気楽で好きだという理由。そして偉くなればなるほど後方に追いやられるのが嫌であるというものもあった。そのためエレクトリールやリリエット、シャックスの言葉について若干不快感を示していた。しかしこの手の話になると駄々をこねる彼も困りものであった。


「だ、大丈夫なんすかね」

「分からぬ。だがハーネイト。元気にしてたか。倒れたと聞いたときは目を丸くしたものだ」

「それは俺もです先生。いや、ダグニスという人曰く、ハーネイトさんは上に立つのが嫌みたいでして」


 彼らのやり取りを遠くから見ていたリシェルとギリアムはハーネイトのことを心配していた。そもそも彼らは本来戦わなければならない可能性もあった人たちであり、その影響が出ているのではないかとリシェルは危惧していた。しかし謀反というよりはハーネイトをどうにかして持ち上げたいようにも見えたため、何とも言えない状況であった。そして彼らはいやな予感がまだするものの、全員が敵として向かってくるよりはましかと考えていた。

 そしてギリアムは、かつてハーネイトが機士国に在籍していたころのエピソードをリシェル、そして近くにいた伯爵やリリーたちに聞かせたのであった。

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