Code 173 女神ソラが言い渡した試練


「では、私が試練を言い渡しましょう」

「は、はあ?」

「貴方が私の代わりに世界を治め守るというのならば、その力を示してみるのだ。眠りし12の大神の封印を解き、従え私の元へ連れて来い。それに加え、我が定めた資格を送り戦い、力を証明しろ。それが試練だ。もし敗北するようなことがあれば、世界など消すまでよ」


 いきなり何を言い出すかと思えば、試練に打ち勝てと言い出した。目の前の女神が突き付けた要求にハーネイトは苛立ちを隠せなかった。


「そんなに、あの不完全な生物に肩入れするというのならば、その有用性と力を私に示し、存在を認めさせなければならないのだ。いまだ私の存在に気づかない愚か者が、この世界ではびこることが許せない」

「不完全な生物、それは人のことを指すのか?」

「無論だ、私の許可なく増え追って、それでいて進化など全くしておらんではないか。よほど私が直接作り上げた世界やそこの生物の方が見込みがあるわ」

「だからって、それで滅ぼしていい理由ではないでしょう」


 ハーネイトはソラの言葉に対し怯まず言葉を返す。確かにすべてがいい人ではない。迷う時もあった。それでも彼は人を信じようとし、凶悪な侵略者をことごとく打ち倒し伝説となった。そのような理由であらゆる世界を滅ぼさせてたまるか、その固く強い意志と覚悟を彼女に見せていた。


「そうだぜ、つーか、滅茶苦茶だな本当に」

「なんだ貴様は……って、フハハハ、菌界人か、ああ。あの時のか」

「ああ、そうだよ。てめえにヘンなもの埋め込まれた挙句、ひどい目ばっかあってきた菌の王だごるぁああああああ!」

「ふ、ふふふ。そうか。まあよい。貴様にも同じ試練を言い渡す」


 ソラは美しい顔をニヤッとし、伯爵にもそう言う。それに彼はすぐに抗議した。


「おいてめえ、ふざけんじゃねえぞ!なんで俺まで!」

「何だ、菌界人の真の創造主も、この私なのだ。他の生物に対する調整兵器としてなぁ」

「は、はああああああううううう!んだと貴様!大概にしやがれ!!!」

「落ち着いて伯爵、相手のペースに乗っちゃだめよ!」


 伯爵は苛立ち動揺し、どう勘定を処理すればいいかわからないほどに取り乱す。自分も、あの女の手のひらで踊らされていたに過ぎなかった。ましてや自身らを生み出した存在が、己の人生を狂わせた奴と同一人物であることに憤りを隠せなかった彼は、今までにない怒りの形相を見せていた。


「あーもう、イライラするぜ!!!やい女神様よ。尋常に勝負せいや!」

「……黙って聞いていてもあれだ、伯爵、行くぞ!」

「よせ!お前ら!」


 シルクハインが二人を制止しようとするも構わず、二人は武器を手にして女神に襲い掛かった。


「愚か者め、今のお前らでは近づくことすらかなわんぞ」

「ぐ、ぅううううう!」

「な、ぐああああっ!!」

「2人とも!」


 女神に一撃を加えようとした二人は、見えざる壁か何かに大きくはじかれた。吹き飛ばされる体を受け止めたシルクハインとオーダインは、二人に対し落ち着くように言う。


「手荒な真似はやめて頂けますかね、皆さん」

「……ぐっ、まるで壁か何かが女神の周りに……」

「ありゃ醸せねえよ。何か別の、力がいる……!」

「二人ともらしくないわ、頭に血が上るなんて」

「ハーネイト、伯爵君よ。今はまだその時じゃない。悔しいのはわかるが、耐えるんだ」


 二人係でなだめ、ようやく落ち着いたハーネイトと伯爵は改めて、目の前にいる金髪の女性が自身らの想像よりもはるかに恐ろしい力を持っていると実感していた。

 

「……シルクハイン、父さん」

「だからその呼び名は……っ、確かに、そうだな。初めてだ、完全に歯が立たない相手に出会ったのは」


 今まで出会ってきた敵とは、何もかもスケールが違う。今の一撃もすべてを込めた一撃のはずだったのに、触れることすらできなかった。その一連の結果が、二人の戦意をへし折ってしまったのであった。


「フッ、だからまだ青二才なのだ」

「ぐっ」

「んだとてめええ!」


 2人は思わずソラの言葉に反応し怒りをあらわにした。だが圧倒的な実力差を今は覆せない、その事実が彼らの抵抗を抑え込んでいた。


「もし、この試練に耐えきり、真の後継者として力を認めた時は改めて、人類への考えも変えようではないか」

「言ってくれますね。後悔しても、知りませんよ、女神様」

「ああ、そうだぜ」

「さあ、ここから離れよう。まだ女神さまの機嫌のよいうちにな」


 シルクハインに促され、ハーネイトたちはその場を去り、街に戻る。2人とも、終始悔しそうな顔をしており、リリーが心配がっていた。もとより表情豊かな伯爵はともかく、普段クールにすましている師匠ことハーネイトでさえ、あの変わりようにどうしたものかと彼女は考えながら歩いていた。

 そして部屋にあるソファーに全員が腰かけると、ハーネイトの右腕が震えていることにオーダインたちが気付いたのであった。




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