Code 172 遂に目覚めた女神・ソラ


「龍を助け、その依頼主からその龍と同じ気を感じたとな。それが邪神ヴァルナーの気とどこか似ていた。まさか、いや。既に封印が解けているオベリスクがあるかもしれない」

「てことは、俺たちまさか」

「神様の背中の上に載っていたの……?」

「な、んだと!?」


 ハーネイトが言うそれは、あの巨大なドラゴン、ウルグサスのことであった。それを聞いた伯爵とリリーは目を丸くして、シルクハインは事実なら予想外のことが起きていると感じていた。


「……まだ確証はできんが、もしかするとそうなのかもしれぬな。しかしこちらと向こう側では何かの影響か、それらの気を感じ取れないのだ」

「そうなると、それについての調査も再度行う必要があるでしょうね」

「そうだな息子よ。できれば、その方面もお願いできるか。女神に対抗するには、おそらくその12大神の力も必要になってくるだろう。ほかにも、我らが生み出しその地に眠っているだろう幾つもの装備も使えるようにしておかなければならない」


 シルクハインはそういうと、他にも渡すべき資料がないか探してくるといい席を立ち部屋の外に出た。


「あのウルグサスさん、本当に大きかったわね」

「今までいろんなところに転移してきたが、ドラゴンに乗るってのはあれが初めてだった」

「それは私もだ」


 そう話していた時、突然全員が固まった。何かが体を駆け巡るような感覚を全員が襲ったのであった。


「な、何だ。この異常な寒気を覚えるこの感覚は!」

「なっ…………っ!目覚めた、目覚めたのか、女神!しかしなぜこの時に!」

「こいつはやべえんじゃねえのか。ただモノじゃねえ、これは」

「怖い、怖いよ……っ!」


 今まで感じたことのない、得体のしれない感覚、重圧感。リリーは思わず泣きだし、伯爵やハーネイトですらも体を自身で抱きしめて震えるほどに、今この空間で感じる重圧に恐れを抱いていた。


「とりあえず、女神の神殿まで急ぐぞ。何か起きているのかもしれん。ハーネイトたち、ついてきてくれ」

「分かったよ兄さん」


 ハーネイトたちが街の外れにある巨大な神殿に足を運んだ時、既に女神は永い眠りから覚めていた。美しい金髪を風にたなびかせ、眩き白き衣を身にまとった、蒼い目の女性。しかしこれは他の生物が認識できるようにあえてこの姿でいる仮のアバターなのである。実態はエネルギー生命体ともいえるような、はるかに超越した存在である。空は彼らを見つめて、少し微笑んだのちやや不機嫌そうに話しかけた。


「なっ……!ソラ様!お目覚めでしたか」

「シルクハイン、か。ああ、永い眠りから目を覚ましたところだ。それで、例の神造兵器

についての件はどうなったのだ」

「ええ、それでしたら私の後ろにいるこの二人が、女神さまの力を受け継ぎ代わりに……」


 シルクハインはそう説明したが、女神は凍てつくまなざしで彼らを見つめていた。そう、すでに何もかも見抜いているような視線であった。


「ふざけておるのか、シルクハイン」

「え、あ、どういうことですか」

「貴様らの企みなど、既に見抜い取るわ。まあ、せいぜい私の依り代にはなってくれそうではあるが」

「どういう意味だ、それは」


 ハーネイトは臆することなく女神に質問をした。それに彼女はやや不機嫌な表情を見せながら不敵な笑みを浮かべる。


「ほう、わらわにそのような口答えをするとは、教育がなっておらんようだのう」

「女神がなんだ、世界を壊すならばこの私が全力で止める」

「すべての生みの親であるこの私に、勝つとでもいうのか、小僧よ」

「……ああ!そうでなければ何もかも終わりだ。シルクハインからすべてを聞いている」


 ハーネイトが珍しく喧嘩腰で目の前にいる創造神に怒声を浴びせる。本当はもっと言いたいことがあるが、それでもまだ冷静に取り繕うとしていた。


「そんなふうに、傲慢に育てろと言った覚えはないが、な。シルクハインよ」

「は、はっ、申し訳ございません。しかしすべてを支配するものとしての器としては、上出来ではないのでしょうか」

「この愚か者が、私は、私の代わりとしてすべてを恐怖で支配する兵器を作れと言ったのだぞ。私の威光を遍く伝え、それでも理解できぬ者たちに滅びを与える、そのようなものをな」


 ソラの一言一言が、その場にいた全員に言いようのない恐怖をナイフのようにして心に突き立てていく。敵わない、そう思い彼女を止められるのか。そう考えようにも身がすくんでしまうのであった。


「まあそれはともかく、一番の問題はなぜおまえが、霊界の至宝であり、私が生み出した霊宝玉を持っているのだ。しかも原初のをだ」

「え、あ、ええ?あの宝玉はそういうものだったのか」

「なんじゃ、知らずに持っておったのか」


 ソラは高い声で大笑いしながら、あることを思いついた。そう、彼らを自分の手足として運用すれば、ある目的を達成できる。かつて彼女は自分の行いを反省し、新たな楽園を作った。しかし散らばった神々は彼女を恐れ、あるいは失望し二度と戻ってこなかった。そこで彼らに神集めを行わせればよいと考えた。またついでに試練を与えあらゆる脅威に対抗できる力も身に着ければ、色々と都合がよい、そう彼女は考えていたのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る