第57話 日之国に集う勇士たち


 その頃、リシェルとエレクトリールは城の屋根に登り、遠くを見て監視していた。


 いつ敵が来るかわからない以上、くまなく街中やその周辺を見て早期発見するしかない。表情とは裏腹に警戒の色は濃く、その目つきはまるで獲物を狙う鷹のようであった。


「今のところなんにもなし。平穏だなあ。魔獣の一つや二つ、狩りたいぜ」


「今も大変なところがたくさんあるのに、ここはそういったものを感じませんね。不思議です」


「それも大切だと思うがな。民たちも落ち着いている。今頃機士国の方はどうだろうか。まあハーネイト師匠の影響力が強すぎてビール腹のおっさんの言論統制など、意味をなしてないだろう。国王さんの人気も高いからな」


 エレクトリールの発言に関連し、リシェルは民たちの様子も監視しつつ、故郷の方がどうなっているか笑いつつ楽観的な予想をしていた。


「私のいたところは、よく別の宇宙人が攻めこんできてて、どこも緊張感が漂っているところでした。だからこそこういう所は羽を伸ばせるって感じで好きです。そして皆さんのことも」


 彼女は故郷での戦争の日々を思い出しながらそうリシェルに言う。戦いに明け暮れていたからこそ、今の生活が彼女にとっては新鮮に感じるのであった。


「そうか、なあ、エレクトリールは軍人なんだろ?なんで入ったのか?」


「……守りたいものが、あったからです」


 彼女がなぜ軍に入ったのか、それは大切な仲間たちを失いたくがないためであった。しかし彼女はその道を選ぶ際に家族から勘当されてしまったという。


 彼女の父は軍に入る10年近く前に失踪し、貴族である母にそれを言い渡された。家族との縁が切れても、それでも彼女は必死に努力し、若くして軍の司令官という肩書を手に入れたのであった。

 

 しかし上り詰めたものの、これじゃないという感覚が彼女の中にはあったのだ。彼女は力が強すぎたがゆえに、常に孤独だったのであった。それはハーネイトも同じであり、だからこそどこかで惹かれあうのかなとリシェルは分析していた。


「守るか、俺なんか銃が撃てればいいから軍に入ったからな。それと限界を試したかった。伝説の力を受け継いでいる家系だと知ったその時から。そして俺も兄姉と大喧嘩して、家出した。なんか似てるな俺たち」


「そう、ですね。でも後悔してないと言えば、否定できません」


「ああ、言いすぎたなと思う。あの時兄貴たちにあんなこと言わなければ、よかった……」


 リシェルは互いに何か共通項があると感じていた。彼らが会話をする一方で、ダグニスはハーネイトの帰りを城の中で待っていた。


「はあ、兄貴……私は何をすれば」


「……ねえ、兄貴って、ハーネイト様のこと?」


「ふう、偵察から帰ってきたぜ。マスターがいなくて寂しいのか?」


 忍者たちが市内の偵察から戻ってきた。大広間で元気がなさそうな顔をするダグニスに、風魔が声をかけたのだ。


「う、うん……」


「ハーネイト様が心配? 」


「心配というか、嫌な予感がするんだ」


「嫌な予感か。どういうことだ?」


 ダグニスのその言葉に2人は考え込む。思い当たる節ならいくらでもあるため、どうしてもダグニスの言葉が気になって仕方がなかったのであった。南雲も気になり話に加わる。


「兄貴の体にこの先なにかがありそうっていうか」


「なにか思うところはあるの?」


「だって、ハーネイトの兄貴、少しずつ弱ってきているもん。顔色、よくないのずっと見てきたからわかる。それと、たまに胸を押さえたり、少し血を吐いてるのを見たから」


 他の人よりもハーネイトのそばにいて、よく観察してきた彼女だからこそ分かる最近の彼の状態について2人に、思っていることを悲しく言った。


「確かに、疲れが溜まっているようには見えたが。ここに来た時と言い、それからの表情から分かる」


「彼は彼なりに懸命に仲間を探している、が。彼は気負いすぎるところがあるからな。流石断れない男。しかも確か、海に行くとか言っていた矢先にこの事態。あの業務量といい、普通なら過労死コースまっしぐらだぞ」


 その話を聞いていた、机に本を置き、読書を楽しんでいる夜之一と、竹刀を持ち何故か大広間で素振りをしていた八紋堀がそれぞれ彼を見て思った感想を述べた。


「確かに、そんなところありますよね。少しは自身の健康管理くらいしっかりしてほしいものです。まあ、私の栽培している唐辛子でも食べれば元気100倍でしょうな」


「やめとけよ八紋堀、本来ならば栽培が禁止されている唐辛子、デスビリスの栽培及び品種改良を黙認しているのは儂が特別に認めているだけだからな?ハーネイトに決して与えるでないぞ」


 その場にいた全員が、彼に関して漠然とした不安を覚えていた。八紋堀は唐辛子を食べさせてやろうというと夜之一がだめだと牽制する。そのとき部屋のふすまが開く。お蝶がシャムロックたちの話を伝えに訪れたのだ。


「突然のことで申し訳ありません」


「お蝶か、どうしたのだそんなに急いで」


「はい、ハーネイト様のお付きのものと、アレクサンドレアル6世様、機士国の近衛兵ルズイーク様、他2名が夜之一様に謁見したいと申しておりまして」


 お蝶の話を聞き、夜之一は少し笑う。まさかこのタイミングで機士国王やルズイークたち会えるとは思ってはいなかったからである。


「よいぞ。早く通せ。私の古い友人だ。それとお付きのものか。一度会ってみたかったが、良い機会だ。早く連れてきたまえ」 


「は、はい。今すぐにお連れしてまいります」


 お蝶はすぐに部屋を出て、城の門の前で待たせている彼らを急いで案内する。夜之一は噂に聞く、ハーネイトの部下たちの姿を前々から一目見てみたいと思っていたため良い機会だと思いワクワクしていた。


 ずっと一人で仕事をしてきた男が認めた人材とは一体どのような人か、それが気になっていた。


「お付きのものだと、てかルズイークっておい。それにあの王様もか?」


「あらら、以前機士国に行ったとき戦った人だよねえ、気まずいわね?まあ私は無関係だし?南雲一人で責められなさいな」


「ひっでえ!風魔まじでひどいぞ!」


 風魔の意地悪な発言に南雲はあたふたしていた。確かに風魔は南雲と機士国との間で起きた事件とは無関係のため南雲はぐぬぬと歯を食いしばる。


「リシェル達も呼んできましょう」


「そうだな、では頼んだぞ八紋堀」


「御意」


 彼も服装を整え、屋上にいるリシェル達を呼びに行く。


「まさかミレイシアがここに?血の雨が降りそうね。バイザーカーニア一番の問題児、ミレイシア……」


 お蝶の発言を聞き、ダグニスは一人の女性の顔が頭に浮かんでいた。そう、あのミレイシアである。ハルディナもそうだが、ダグニスもあの冷徹メイドことミレイシアは苦手であり、極力彼女がいるときはあまり近寄らないようにしているほどであった。


 彼女はなぜ上司であるロイ首領が、あの危険人物を手元に置きなおかつ、ハーネイトの元へ派遣しているのがいまだに疑問であった。姉妹であるのは知っているものの、昔多くの国を襲ったという話も聞いているため大丈夫かと彼女は思っていたと言う。


「はあ、となるとミロク様頼みかなあ。バイザーカーニアの頼れる常識人にして伝説の剣豪。シャムロックは、うーん。真面目なのはいいのだけれど、もう少し見た目どうにかしてほしいわ」


「なあダグニス、その名前の人たちとは?」


 南雲の質問に、ダグニスはハーネイトが雇っている3人に関して軽く説明した。最強の魔法探偵の部下もまた、人外レベルの戦士ばかりであることに2人とも戸惑っていたが、風魔はそういう存在を手下にするほどに主が強いと言う事に興奮していた。


「ハーネイト様、何でそんなことに。それなら私がメイドになります。そうすればもっとそばに、エヘヘ」


「はいはい、それなら直接マスターに言ってみたらどうですか?断れない人ですし、もしかすると機会はあるはずだ。……マスターは若干押しが弱いところがあるので」


「仕事の完璧さと比較して、日常面で完璧じゃないからこそ親しみも持てるのですが、でも兄貴の胃が心配だよ。胃薬が手放せないと言ってたし、しかも自分で自分を治療できないと言うか、魔女の呪いが……」


 風魔はメイドたちの話を聞いて是非なりたいといい、南雲はマスターであるハーネイトについてそう評価していた。彼がいくつも偉業を成し遂げ、それが多くの人に伝わってきたころからハーネイトの評価は概ねそのようなものであった。


 しかしその性格のおかげで、仕事には困らなくなったとハーネイト本人は話していたが、その顔は苦笑いしていたという。そうこう話しているうちに、お蝶はルズイークたちを夜之一のいる大広間に連れてきた。


「お連れして参りました」


 ルズイークたちと南雲たちが顔を合わせた時、その空間は瞬時に凍てつく。今にも一触即発の事態が起ころうとしていた。

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