第58話 一触即発の事態と機士国の老将・ガルバルサス
「あっ、貴様!あの時の腐れ忍者!なんでここに!」
「い、やあ、なんのことでしょうかねアハハ」
南雲はルズイークたちの顔を見て、目を逸らしつつ別の人物だとごまかそうとしていた。
「ちょ、あのゴリラみたいな人すごい威圧感あるわ……ある本で見た、世紀末覇者って、奴?」
「やはり予想通りですね。何でメイドたちまで来るのよ。てかあれ、アレクサンドレアル6世様!?事務所にいたはずでは……」
南雲とルズイークのやり取りをよそめに、ダグニスはアレクサンドレアル6世まで来ていることに驚いた。
「はは、彼がどのような人材を集めているかと思えばなかなか面白い。ハーネイトの元に集まるのはいつも個性派揃いだ。それと夜之一、久しぶりだな」
アレクサンドレアル6世は夜之一に声をかける。そして夜之一はすかさず立ち上がり国王の元に駆け寄る。
「確かにそうだ。心配したぞ、アレクサンドレアル」
「ああ。そして私は無事だ。お互い、あの男に助けられっぱなしだ」
そう言い2人は互いに体を抱きしめた。ここにアクシミデロ星上で強大な2つの勢力の領主が再会し、一つの部屋に存在していた。
「しかしハーネイト殿の姿が見えないな。早急に伝えなければならない案件がたくさんあるのだが」
「彼は今ここにはいないのだ。少し待ってくれ。霧の龍を治しに行っているのだ」
「そうか。それは理解した。しかしハーネイトよ。お主のその力で敵ごと一網打尽にすればよかろうに、やはり無理が祟っているのだろうな」
アレクサンドレアル6世の発言にダグニスがハーネイトの状態を伝える。
「お久しぶりです、国王様!」
「おお、ダグニスか」
「あの、ハーネイト様は大分疲弊しているようです。これ以上強大なあの力を使わせれば、恐らく倒れてしまうでしょう」
「やれやれ、どうも彼は自身の限界を把握できていないようだ。ふう、彼がどうすればよくなるか考えてみよう。前に国にいた時も彼にかなり無理をさせてしまった。何が彼をあそこまで突き動かすのだろうか。止めようにも大丈夫だと一点張りだ。はあ……」
ダグニスの話を聞いたアレクサンドレアル6世は状況を理解し、床に座ると目を閉じる。ハーネイトは責任感が人一倍強く、強情な一面もあるという。前に国にいたころからそうだ。それを思い出した彼は少しでも負担を減らす算段がないか、そう考えていた。
そして南雲とルズイーク、ダグニスとミレイシア同士の間に緊張が走る。今にも何かが起きそうな予感がしていた。
そんなことはいざ知らず、そのころ、ハーネイトはリタイボス山に向かっていた。
「しかし、今回の一件は手の平の上で操られたみたいで複雑だ」
「それなら、もっと力を見せつけてあげたらよかったじゃない」
「はは、ハーネイトらしいな。でも血を流させずに事を進めるのがいいんだろ?甘ちゃん」
伯爵は甘いところや押しに弱いところがあるからそう乗せられるのではないかと指摘する。
「はあ、本当は断りたいことだってたくさんある。信用って鎖に私は囚われているよ」
「そうか。信用ねえ。ああ、話は変わるがハーネイトはあまり欲とかないのか?」
「欲か、うーん。色々知りたいって欲はあるけど……後、パンケーキをたくさん食べたい……」
「本当に好きね、フフ。それ以外は?ほら、ハーネイトの周りにはかわいい女の子たくさんいるでしょう?まあ私も含めてね。そんな素敵で慕ってくれるみんなをまとめて面倒見てみたいとかは考えたことない?」
「保護者というか、なんというか、そういうので面倒を見るという感覚はまだわかるのだが、それ以外はよく分からない。というか、魔女の一件がどうしても……怖い」
リリーのその質問に、低く優しい声で否定をするハーネイト。その表情はどこか浮かないものであった。
「あ、そ、そうだったよね、ごめん……でも、あれだけの力を持ちながら、世界征服とか考えないの?3日もあればできそうな感じだけどね」
リリーの放った突然のその質問に、ハーネイトは少し驚きながら答える。
「せ、世界征服か。考えたことなかった。自身がどこからきたのか、力の由来はどこなのか、そればっかり考えてきたし、何よりもみんなを守りたいって思いが強かった。誰かが傷つけば、自身が殺されるよりも痛く感じる。だから今の状況も、自分が傷ついて周りが何ともないなら、結果的にはいいかなと思うんだ。生き残った罰を、受けていると思えば」
「生き残ったことには意味があるぜ。ただ、その意味を背負いすぎるなよ。優しくて強き王(モナーク)さんよ」
「あ、うん……」
伯爵の言葉に、ハーネイトは突然顔を下げて黙り込んだ。
「ど、どうしたの?」
「いや、優しいのかな?って。自分でも、自身のことよく分からない時が多くて」
彼は自身が周りからどう見られているのかがよく分からない節があった。そもそも、誰かを魔法や能力で助けてきたのも、それが生き残った人の責務であり、当たり前である。そう考えて生きてきた彼は、周りからの感謝をどこか理解できないときがよくあるという。何かずれているのは察しても、それでも理解できないそれに、自分自身が分からなくなってくると2人に打ち明けた。
「俺からしたら、ドがつくほどに甘ちゃんなところもあるが、しかし放っておけねえ謎の魅力があるように見えるがな」
「もしかして、昔あったことがまだ忘れられない?」
「その通り、だと思う。あの事件も、理不尽でひどい目に遭ったことも忘れられないしそれを踏み台にして私は前へ進んできた。反骨精神って奴かな。だからその事実の否定は、今こうして存在している自身の否定になるって。そう考えているんだ」
幼少期、少年期の辛い経験の数々が、優しくて誰からも好かれる彼を未だに苦しめていた。
辛いからこそ、優しく接すれば波風は立たないと感じ、無理やりにでも笑顔で人と関わり続けた。彼はひたすら人を信じ続けた。それが彼なりに考えた世の中の渡り方であった。リリーは自身の過去のことも併せて、悲しくなる。
「そうよね…そうだ、あの龍を治して、話を聞いてもらったらどう?」
「前に誰かさんが言っていたな。折角だし、その物知り龍さんに聞いてみようぜ。ほら、見えてきたし」
伯爵は天高く山の方へ指さして霧の濃い頂にかすかに見える、静かに佇む龍を二人に教えた。
「そうだな、うん」
「ではいきましょうか?」
三人はルタイボス山を飛行魔法を巧みに使い、風を操り鳥のように、山肌をすいすい駆け上っていった。
その頃、DGの北大陸支部長であるガルバルザスは、執務室でくつろぎつつ部下からの情報をまとめて整理していた。
この男は機士国王側の男であり、国王のお爺さんでもある歴戦の軍人であった。彼は一早く軍内部の異変に気付き、直接従える機士国軍の実に90%以上もの兵力を秘かに手元に置き、事態の動向を窺っていた。
「内部情報によれば、すでにDGと言う存在は虫の息に近かったようじゃのう」
「そのようですね。そもそも奴らの幹部の3分の2が宇宙人ですか、なると過去に起きたあの事件は本当に異星からの侵略者との戦いであったということですね」
ガルバルサスの副官であるルーディスが集めた幾つかの情報の中には、DGの主力幹部が全員別の星から来た人間であること、そして別の勢力によって拠点のある本星は既に壊滅していること。さらに最近その勢力と思われる存在の目撃情報があり、しかも決まってDGが活動している中に現れるという情報もあった。
紙の資料の中に、一枚の写真が挟まっていたが、その写真に写る白い服の長髪の男が映っていた。
「こうして情報をかき集めると、この星に来た目的がなんとなく掴めてくるな」
「それはどういうことでしょう?」
そうするとガルバルサスは資料を幾つか手に取り、指を指しながら丁寧に説明する。
彼曰く、すでに謎の勢力により弱体化していたDGは勢力を取り戻すためこの星に一旦逃げ込んできた。そして都合のいいことにジュラルミンの話を聞き接近、協力関係を取り付けつつ、安全な場所と資金の提供を受けて息を吹き返したのではないかと推測した。
問題はそのDGの中にアクシミデロ出身の魔法使いがいることであった。それと霊宝玉や女神と言ったワードであった。
「そうなると、この魔物の研究に関する報告書と予算は何でしょう」
「機士国には、魔物研究に関する博士や研究者がそれなりにいたからのう。その話を聞いて、何か利用できると思ったのじゃろうな。これだけ他の予算費よりも数倍高く提供されておる」
そう指摘しながら、白い服の男が写った写真を見る。
「しかしこの男と言うのが気になる。断続的に他の拠点に襲撃を仕掛けているらしいな」
「はい。ここ数日で3つの小拠点が襲撃され多数の死傷者が出ております。その影響からか、クーデター軍含め侵攻スピードに停滞が見られます。これが追い風になればいいのですがね」
「そうだな。しかし、以前とやり口が異なるとは気になっていたが。そういやそのような手紙を見たな」
白い服を着た男によるものと思われる襲撃事件は今のところ北大陸の西側で起きているためこの基地には関係がないと考えているものの、2人はそろそろ頃合いかと考えていた。そして魔法通信で渡された資料の中にあった一枚の手紙を思い出しガルバルサスは慌てて書類の山をあさる。
「いや、確か倅がこちらによこした情報によれば、ああ。これだ」
ガルバルサスは膨大な資料の中から、一枚の報告書を探し出してルーディスに見せた。それを彼が読むと、表情が険しくなった。
「戦争屋だったDGが乗っ取られ、まったく別のものと化しているのか。敵幹部を捕らえて直接聞いた話ならばおそらく正しいでしょうね。それが霊界と関係があるなら事態は混迷を深めますね」
「ああ。少し戦いが長引きそうじゃわい。まあこちらはミリムたちの情報操作と妨害魔法のおかげで一人の犠牲者も出ていないがな。敵の魔法使いとやらも大したことないんじゃないかねヌハハハハ!バイザーカーニア、ようやるわい」
「そうでしょうかね。泳がせている可能性もありますし、用心も必要だと思います。しかし早く彼らと合流したいですね。兵たちも全員ハーネイトの活躍を見たくて、予備役合わせ120万もの軍勢が臨戦態勢ですし。何で彼と関わった人たちは例外なく戦闘狂に……」
ルーディスがそういうのは、ガルバルサスが率いる兵たちが機士国出身の兵ばかりであり、忍の里にいた生徒たちのようにハーネイトのファンである人が大多数を占めていたからであった。かつてハーネイトが機士国に仕えていたころから、ファンの数が急増していることにルーディスは頭を悩ませていた。
「改めて彼の影響力が末恐ろしいと感じるのう。正直彼が次代の王になって構わんだろう。自身のことをどこか後回しにする悪い癖は頂けんが、誰かのために尽くし続ける姿勢は誰もマネできん。それこそがカリスマ、王の器だ。優しくて強き王(モナーク)になりたい、か。いい目標だ」
そう笑いつつも、解決屋である男について評価するガルバルサスであった。
「そう、ですね。正直羨ましいです。みんなに慕われる存在、私には。ああ、そういえばいいお酒を手に入れましたので飲みますか?そろそろ終業時間ですし」
「珍しいな。明日は誘導弾の雨が降るのか?」
「そんなこと言わないでくださいな。ほら、グラスをこちらに」
2人はそう掛け合いながらグラスに度数の高いお酒を注ぎ、ゆっくりと飲んで味わっていた。この2人が今後国王の下で行う作戦もまた、ハーネイトの行動に大きく貢献するものであった。
一体どれだけの人がこの解決屋の男、つまりハーネイトという人物に全員入れ込んでいるのだろうか。そしてその数だけ、彼をあるイメージに固めて苦しめていたのだろうか。それはまだ、誰にも分らないことであった。
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