第80話 侵略魔フューゲルたちの目的
「いつから、そのことをみんな知っていたの?」
「少なくともこの戦いに参加して、マスターの行動を見ていているうちに」
「私は、前々からおかしいとは思っていたのよ?前に話した時もそう」
「ハーネイトさん、我慢しなくてもいいのですよ?やりやすい戦い方は人それぞれですし。要は結果ですから」
ハーネイトは、自身が苦手としていることが多くの仲間に把握されていることを知り戸惑っていた。南雲たちやリリエットは彼の隠していることに気づいていた。それにエレクトリールがフォローを入れる。
「そう……。やっぱり取り繕ってもばれるか」
ハーネイトが悲しそうに微笑みつつもそう言い、顔を下に下げた。
「仲間が欲しいのに、失いたくないから自分一人で蹴りをつけてきた。……おかしいよね、何かが」
「相棒、戦い方にはそれぞれスタイルがあるのはわかるし、それについてどうこう言うつもりはねえ。ただな、なめているだろ俺らを」
「そ、それは違う! 」
伯爵の言葉に対し、否定をするハーネイトだが、それに伯爵が追撃をかけて疑うようなそぶりで話を続ける。
「そうか?俺から見れば、俺ら全員心の中で守るべき存在であるほどに弱いって思っているんじゃねえのか?
「違う!俺はただ、みんなが傷つくのを見たくない。自分が傷つくより、胸が張り裂けそうだから。だから!」
「確かに前にも言ったな、同じようなことを。だがふざけているのか貴様。なぜ打ち明けねえ、もっと言いたいことあるんだろ、信じられねえのか?」
伯爵は、ハーネイトの言葉を聞いてまだ裏に、何か話してないことがあるのではないかと考えていた。なぜ信用して、すべてをまだ打ち明けてくれないのか。それが伯爵たちにはとても悲しく感じていたのであった。
「俺らは強い。確かに未知の能力を持つ奴なんざごまんといるだろうがな、三下クラスにやられるような連中か?今ここにいるのは」
「その程度なら、確かに」
「ふん、それに俺らはハーネイトが、ハーネイトだからここまで来ているし、覚悟だってみんなしているさ。大なり小なりだろうが。確かに相棒は、多くの人も街も救ってきた大英雄だ。だがよ、これ以上過剰に守られるのは侮辱だぜ、ああ?俺たちは、戦士だ。俺だって誇りもそれなりにあるさね」
「ハーネイト様はいつだってみんなのために戦ってきたのです。前に似たような力を持つ別の人がいましたが、その人は力を盾に威張り散らし、裏でひどいことを平気で行う外道でした。異世界から来て、神様から力をもらったとか言いますが、あれは英雄の面汚しです。人の皮をかぶった獣です。しかしあなたは違います」
風魔(かざま)と南雲は、ハーネイトが生まれる前に存在した別の世界から来た横暴かつ性格の酷い剣士の話を彼らにした。転生し、力を授かった無名のとある男が、その力で戦うも力を誇示し多くの人を脅したり、女性たちを毎晩侍らせたり、取ってつまらない理由で戦争を仕掛けた挙句全員から受け入れられなくなり暗殺された男の話であった。
なぜそれをここで話すのかというと、ハーネイトはその人とは真逆のことを、ずっと貫いていていたことについてこの星の住民が尊敬していたからであったのだ。
「異世界のつまみ者」彼らの話した話は有名であり、異世界からくるものすべてが害悪であると多くの人が判断するようになった事件でもあった。だからこそ、現地民であるハーネイトの姿はみんなにとって理想の英雄像であり、彼を間接的に苦しめていたのであった。力を見せつけるどころか恐れ、一人で戦い、決して虐げず常に対等であり続け、失われるはずの命を全力ですくい続けた存在。宗教染みた信者が多く存在したり、異常なまでに慕ったりついてくる人が後絶えないのも納得である。
その話を聞いた全員が、彼の今までの行動に関して納得のいく顔をしていた。そこに、シャムロック達3人が駆け付け声をかけた。
「無事ですか、皆さん」
「どうにかですね。ミロクさんたちは?」
「何もありませんでしたよ。しかし、むう」
「話は人形兵から聞いておりました。敵の内部もがたがたですね本当に。そしてハーネイト様、私たちからも話があります」
シャムロックたちが、うなだれているハーネイトの目の前で忠誠を誓うように膝をつき、胸に手を挙げながら進言をするように話をし始めた。
「あなたは、今まで多くの人も、国も、世界も救ってきました」
「わしもお主と同じように戦ってきたが、その戦いぶりは遠くからでも名が伝わるほどにな。それが気になって会いに行ったら、まさかまさかな」
「その噂を聞き付け、私たちは会いに来たのです。しかしあなたの話を聞いて、私たちは動揺していました」
それぞれがハーネイトの活躍を聞き、どのような性格、ふるまいを行う人物なのか気になっていたことを彼に伝えた。そしてミレイシアが主人に対し眼を見開きながら顔をあげて、表情とは裏腹に、静かに質問をした。
「みんなで戦うことが怖いのですか?ハーネイト様」
「正直、ね。確かにみんなは、けた違いに強い。私より強い力を持つものだっている。だからこそ、失いたくない。一つのミスもしたくない。それに、それに。みんなが私に守ってほしいって、そう願っているから。だから戦う。……もう、一人にしないでくれ、孤独は嫌なんだ……っ!あんな思いしたくない、後悔なんか2度としたくないから、必死でやってきたのに……っ! 」
ハーネイトが高い声で、うわずって泣きそうな声をあげながら、自身に課せられた使命と枷、そして自身よりも傍にいてくれる人たちのために戦ってきたことを吐露した。そして幼少期、少年期の辛い体験が、そのような事態を引き起こしていることを他の人たちはここで知ることになったのであった。
自身を知るための旅の中で、多くの人と出会い、分かれ、助けられなかった人たちもいた。自身も傷つきながら真実に立ち向かってきた。その経験が、強い原動力となって彼を突き動かしていた。
何故あの時、恩師と村人は自分を置いて先立って行ったのだろうか。彼はずっとそれで苦しんでいた。たった一人、命の輝きを感じない壊滅した村の情景が脳裏によみがえる。本当はそのままにしたかったけれど、燃やすしか被害を防ぐ手段がないと思い、村を焼いた。あの時のことを思い出すたび、孤独の恐ろしさが胸を締め付けるのであった。
「でもやっぱり、どこかで人間のことを信用しきれていないみたい。今まで仲良くしてくれていた友達も、私を恐れて消えていった。消えるのは嫌だ。いなくならないでよ。一人になるのがつらいから、最初から一人でやれれば痛くないって、そう思ってきたのに! 」
そしてハーネイトは、もう一度自身の心境を過去のつらい記憶と結びつけ、苦しそうに全員に話した。
「あんな力、最初からなければよかった。あれさえなければ。うっ……」
「やっと、本音を話してくれたな相棒」
「相当根に持っていたのね。城で話してくれたことも、私を助けてくれた後に話してくれたことも関して、ね」
「どういうことっすか?」
表情をゆがませて、涙をこぼしているハーネイトに代わりにリリーが城の中で聞いたハーネイトの過去について不足している部分を含め一通り説明した。
「師匠、だから人一倍よくあろうとして、努力して。結果がこれか」
「相当波乱万丈な生き方をなされてきたのですねハーネイトさん。私も結構そうですが、やはり影響が出てしまいますよね。一人は嫌だってのは、私も同じです。強すぎる力って、自分も不幸にしてしまいがちです」
「初耳な話だった。仕えてもう3年近くになるが、聞けずじまいだった。だからあのような無茶なことをしてまでみんなに好かれたかったのですな? 」
リシェルとエレクトリール、シャムロックがそれぞれ話を聞いた感想を述べた。
人に恐れられ、孤独の中でハーネイトが幼いながらも見出した答えは、異能の力を持つ自身が、裏切られたり村八分にされようと人に好かれるために、嫌われないために努力して人をだれよりも信じようとした生き様であった。それを聞いた全員が少し黙り込んでしまったのであった。
「辛さを、苦しさをばねに孫は世界を渡り歩き常に努力してきた。それがゆえに、過去の苦しみを忘れることはできない。わしも同じじゃが……まだ幼い時に味合わなくてもよかったものじゃな」
「相棒……すまなかった。何もわかってないな、本当に」
ミロクも伯爵も、彼がなぜそこまで人のために、自身を顧みずに戦える理由を知り、それをすぐに直すのが難しいことを把握した。そして外野にいたフューゲルたちは話に割り込んできた。
「ハーネイトか、確かに人から見れば違和感のあるところが多いさ。だが、彼は人の心をしっかり持って今まで生きてきた。兵器としては失格だが、救世主としては合格だ」
「人には見られないほどの振る舞いをするには、理由があるわ」
フューゲルやカドレアの意味深な発言にミカエルたちが反応し語気を強めた。
「あんたたち、ハーネイトの何がわかるっていうのよ」
「ええ。私たちは、彼がこの世界に来てからずっと、陰から見守っていましたからね」
「フューゲル、それとそこの女性は一体……? 」
ハーネイトがフューゲルの右腕を見ながら問いかけた。明らかにその腕は、事務所を襲った魔物の腕。ただ者ではないと感じていた彼は、これが好機だと思った。
「まあ、まずはあの過酷な環境の中そこまで力を、しかも自身の力で学び取った力を用いて名を馳せたハーネイトに感謝している」
「私たちは、本来相容れない存在であり対立する存在。しかしあなたの魔法の師匠に救われ、協力している存在でもあるわ」
フューゲルとカドレアの言葉を聞き、ハーネイトは先にカドレアの方に質問をさらにぶつけた。
「対立?宇宙人か、それとも別の何かか?機械兵を操っていると、前に言っていたな」
「ああ、あれは潜入工作のために、そしてある裏切り者を探すために行っていたことさ」
ハーネイトらに対し、フューゲルとカドレアは自身らが異世界より来た悪魔であること、そしてかつてその上司で親でもあるDカイザーの命を救ったジルバッドの恩と仇を返すためDGに潜入し、さらにハーネイトの監視と魔法使いXの捜索を行っていたことを明かした。
「まーた面倒な勢力が出てきたな。さっすがこの世界は魑魅魍魎的なものばかりだぜ」
「伯爵がそれを言うのは棚に上げていなくて?どう見ても一番存在が謎なのは伯爵よ」
「そうだったなははは」
伯爵が自身も同じようなものなのにそれを棚に上げていることをリリーは指摘しながらハーネイトの傍に来る。
「侵略魔と、ジルバッド師匠に何の関係が」
「これは、話がややこしくなってきたわね。整理が追い付かないわよ」
それを聞いていたユミロたちも動揺していた。仲間と思っていた人たちが裏切った挙句に潜入工作員であり、しかも異世界から来た恐怖の存在であることに顔が固まっていた。ユミロを除いて、全員が顔を引き締めていた。
「何度か、話を設ける場を作って、作戦を練る必要ある。これは複雑、だ。しかし真の敵がようやくわかった。これも彼についてきたおかげだ。違和感の謎、全て解けた!」
「ユミロ、あなたはそういえばなぜ魔法使いの影響を……受けていないのですか?」
「そうだよ、なんでだよ3人とも」
ユミロは冷静にその場で提案をし、その上で改めて、討つ敵を定めようと決めた。そしてミカエルやハーネイトは邪悪な魔法使いの影響をどうも受けているようには見えないユミロたちが気になり質問をした。
「それは私もよく分からなくて。だけど一つ言えるのは、私たちは明確にボスに反逆している。それだけかな、共通項は」
「そうなのか。確かに3人とも離反する理由がある」
「そうなりますと、ボガーノード、ブラッド、シノブレードは引き込めそうですね」
リリエットとシャックスがリシェルの質問に答え、仲間に引き込めそうな残りのメンバーを考えていた。
「それはまた後で話そう。もう一つ、なぜ私を監視していた。それに隠していることがあれば素直に話して」
フューゲルは観念して、一部のワードを隠しながらも話をしつづける。
「Dカイザー様が言っていた、彼の父であり大昔に人間界に侵攻した伝説の悪魔、フォレガノ。それは、ハーネイトの中にある」
「……確かに、いるよ」
「いるの、だな。やはり。わかった、話を幾つかしよう」
そうしてフューゲルは地面に座ると、ハーネイトにも座れと促し、面と向かって話を始めた。
「俺らは、カイザーの恩人ことジルバッド、つまり貴様の師匠であり、育ての親の友人の息子と言うことになる、ややこしい話だがな」
フューゲルは今までの経緯について静かに話し始めた。
彼ら侵略魔の軍団「デビルワーカー」は独自に次元間を航行できる能力を備えた異形の集団であったという。しかしこの世界を訪れた際、その当時の悪魔の総長、フォレガノとその部下、91名が行方不明になり、二度と故郷である黒魔界にもどることはなかった。
そこで彼の息子であるDカイザーがそれに関して調査を行ったことが事の発端であったと説明した。
「つまり、フューゲルたちは私の中にある悪魔たちを引き渡してほしいということだな?そのために私を裏から見ていた、間違いはないか?」
「その通り、だ。やれやれ、ここで明かすことになるとはな」
「こちらも驚きだ。というかⅮカイザーは元気にしているのか?」
「ああ、そりゃもうな。近々会いたいと言っていたが、その時は支援を正式に行うということだ。我ながら、本来なら人類とは敵同士なはずなのに、こうして手を取り合って戦うことになるなんてなと」
「それもそうだな」
二人が話していると、カドレアが二人のもとに近づいてきた。
「さて、紹介が遅れたわね。私はフューゲルと同じくⅮカイザー様に仕えるカドレア・フェルディンファイレンと言う者よ。私も同じく、この世界、そしてある女神様に喧嘩を売っている魔法使いを倒すため協力する者よ」
「カドレア、か。その女神とは一体」
「ヴィダール・ティクス。聞いたことあるかしら?」
「ヴィダールという言葉は最近聞くは聞くけど」
「あまり知らないようね。人間が誕生しそれから生まれた神と呼ばれる存在、そのはるか上に存在する、創造神・アルフシエラとソラリール。正確にはその娘が問題を起こそうとしているのよ」
カドレアの言葉にいち早く反応したのは、意外にもシャックスであった。眠たそうな顔はすでに消え、わずかに開いた眼が驚きを隠せないように動揺しているのが目に取れた。
「全く、彼女は何をしているのやら」
「シャックス、何か知っているのか」
「はい。実は……」
それからシャックスはミロクにも声をかけ、自分たちは人となったヴィダールの神柱であることを伝えたのであった。
それを聞き驚きまくるハーネイトだが、ルドミラが放った言葉の中で、アルフシエラと言う単語が引っかかった。そう、一度聞こえたあの自身を女神と名乗った優しい声の人。それを思い出し、黙り込んでしまった。それを伯爵が声をかけた。
「相棒、実は。俺の中にもソラリールと言う男の声が聞こえることがあるのだ。もしかして、相棒も何か聞こえていたのか?」
「あ、ああ。その声は、アルフシエラと。しかしなぜ私の中に。そうなると伯爵もだが」
「新しい謎が生まれたな。やれやれ、この世は不可解なことだらけだぜ。なあ、そこの悪魔の兄ちゃんや、今度は俺も混ぜて話を聞かせてもらうぜ」
「そ、そうだな。お互い、もしかすると相当厄介な出来事に巻き込まれかねないかもしれん。それと、借りができたな。ハーネイトよ。私自身の話をもう少ししよう」
伯爵も思い当たる節があり、ようやく疑問に思っていたことが繋がったことを喜ぶも、ヴィダール・ティクス神話についてよく知らなかったため後で話を聞こうと考えていた。そしてフューゲルは改めて自身のことについて話を始めた。
彼の正体は、この世界によく訪れる侵略魔であり上司であるDカイザーの命により、DGに潜入し彼らの動向を探りながら、かつて起きたDG侵略においてジルバッドを殺した犯人、つまり現在DGのボスやジュラルミンたちを洗脳していると思われる魔法使いを追っていたのである。
この時点で彼らとジルバッドたちに一体どういった関係が存在したのか理解しづらいかもしれないが、要はDカイザーという人物はジルバッドたちと仲良くなった別世界の住民であり、またハーネイトをこの世界に連れてきたきっかけを作った男でもあるという。
フューゲルはそのDカイザーの実の息子であり、カイザーの命でDGに対して潜入捜査を行う傍ら、ハーネイトの様子を見ていた。リンドブルグでDGの上司に報告した内容は後半部分の大魔法に関しては敢えて説明しておらず、彼はずっとDカイザーと共にハーネイトを見ていたのである。
「あの、私を一殺夫婦のもとに連れて行ったあの男か。どういうことだ一体!」
「それは後で説明する。しかしこれはDカイザー様も喜ぶ話だ。それと私たちは味方だ。貴様のな」
「味方か、確かにあの男がいたから、剣を学べたことは事実だが」
「そういうことになるか。それと、ジルバッドの正確な死因を知っているか?」
「い、いや」
フューゲルはDカイザーから話を聞いていた。共に戦っている最中に、まだその当時7行あった大魔法の詠唱文の詠唱中に、無数のゾンビや骸骨に包囲され、埋め尽くされて息絶え、命と引き換えに大自爆し魔法使いにダメージを負わせたということであった。
「父さん、はあ。笑えないような、笑ってしまうような死に方をしていたのね」
「大魔法の弱点、詠唱が長いこと。父さん、そこだけはどうにかしてほしかった」
「なに、そこの二人はジルバッドの娘さんなのか?父さんと呼んでいたが」
フューゲルの質問にミカエルとルシエルはそうだと言葉を返した。そうするとフューゲルとカドレアが彼女らの足元で膝をついた。
「な、なに?」
「私たちは、あなた方の父上に命を救われました。異世界の住民同士敵になるはずの私たちを、有無を言わさず手当てしてくれました。そして幾つか魔法を教えて頂きました。そしてハーネイトという優秀な弟子と出会い、力のすべてを彼に託したのです。もし今でも貴女方が魔法を誇りに思うのならば、ジルバッドさんの生き写しであり、女神ソラを止められる唯一の存在であるハーネイトのこと、よろしく頼みます」
カドレアがジルバッドの娘たちに。感謝の念と私たちの代わりにハーネイトを頼むと意思を伝えたのであった。
「父さん、本当に昔から変わらなかったのね」
「母さんと別れてからも、そんな調子だったのね。しかしなぜ今それを?」
「俺らはしばらく動けない。DGにも戻れないのでな。徴収官、許さねえ。あいつらは古参のメンバーらしいが、別の意味で危険な奴らだ。全員戦い他人の命を苦しめ奪うことしか考えていない。見つけたら容赦なく倒してくれ」
フューゲルのその言葉を聞き、全員がややあきれながらも、それを了承した。
「最後にだが……貴様」
「え、はい。何でしょうか」
フューゲルはそう言い、エレクトリールに近づくといきなり頭にゲンコツを入れた。
「なっ……!何をするのですか!」
「それはこちらの台詞だ。貴様が霊宝玉を盗み出したせいで、ハーネイトの強化計画が大幅に狂ったわ」
「フューゲル、私の仲間に何をするんだ!」
「フン、警告をしただけだ。ハーネイトを霊量士にするのはまだ早かった。もう少し様子を見て、他の霊量士との接触の末に宝玉を使用しようとした矢先に!まあ、もう目覚めているみたいだからあれだけどな」
フューゲルは呆れ顔と怒った顔の両方を表に出しながら、エレクトリールが先走った行動をしたせいで計画に狂いが出たことを指摘していた。
実はこの悪魔、ハーネイトの強化方針も考えており父のDカイザーと結託して、シルクハインから教えてもらった女神に打ち勝つ能力の伝授を近いうちに彼に施そうとしていた。
しかしまだ心身が未熟な面があるとして様子見だったのに、それを邪魔したエレクトリールとはじめとした一部の霊量士にプランを崩されたため、怒り心頭であったと話をしたのであった。
「そんなに、その霊量子の力は恐ろしくすごいのか? 」
「その通りだ、ハーネイト。だが後に起こるであろう、龍が起こす事件を全て解決するには、お前がすべての物質を操れる存在にならなきゃ話にならん。銀量霊王だったけな。その域までたどり着いた時、決戦の時は近い。まあ、6つの因子と共鳴できればもう敵などいないがな」
「銀量、霊王……それに、6つの因子の全部を共鳴か」
「もうお前は龍の力を幾つか使えるようだが、それは単一の共鳴の力に過ぎん。2つ以上の力を合わせて使えるようにならねえとステージに立てないんだ。それとそこの霊量士ども、本来お前らも女神からすれば討伐対象だ。だがそれは表向きの話だ。俺たちの代わりに、その神造兵器とやらに全ての力を教え込んでやれ」
ハーネイトと伯爵の中にある、女神が作り出した神具と、霊量子という最も最小の構成単位を操る力で女神の力を大幅に削ぎ落せると彼は言う。更に霊量子の王という言葉に触れ、リリエットたちを見てフューゲルは威圧するような感じで教育をして導けと命令した。
「ではそろそろ戻ろうと思う。だがまた近いうちに会う。全員で、世界を滅茶苦茶にしようとする魔法使いを倒す。ハーネイト、白い男に早く会え。すべてを知ることができる」
「助けてくださり誠にありがとうございました。あなた方もジルバッドさんのように、やさしくて強い存在なのですね。それと、もし白い外套を着た黒く長い髪の男を見つけたら気を付けてね。味方ではあるけど、私たち以上にあなたのことを知っている存在よ。じゃあまたね。可愛い英雄王さん」
そうして二人は転送魔法で南の方に飛んで行ったのであった。
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