第31話 執行官シャックスとの勝負と龍の力?



 ハーネイトが迷霧の森に入って帰ってこないまま夜を迎えようとしていた。


 日之国は季節を通じて過ごしやすい環境ではあるが、迷霧の森はその真逆である。常に霧が森を満たしているのでとにかく湿度が高く、魔力を帯びた霧も含め体力の消耗が激しい領域である。


「兄貴は今森のこの辺りですね。生体反応も問題なしです。この装置便利ですねえ。一体だれが作ったのでしょうか。感謝です」


 ダグニスは、ハーネイトの居場所をボルナレロの作ったGISレーダーで把握しハーネイトの居場所を捉えていた。彼女が持っているものは携帯が可能な形状であり、力のあまりないダグニスでも容易に運びシステムを運用することができていた。


「便利ですね。あの怪しい霧の中でも位置を特定できるとか、これなら見つけるのも容易ですね」


「むう、確かにあの森が自然現象で発生した霧でああなっているなら、我らが迎えにいっても問題はない」


 ダグニスが装置を監視しながら感動していると、八紋堀が悩んでいる顔をしながら言葉を口に出す。


「しかしあの霧は、強い魔力を帯びていると。これは本当に手も足も出せない。ご先祖様が魔銃使いだったと聞くから俺にも魔法耐性あるかと思うが、分かんねえなこれ。正式な魔法使いの修行したことないからなあ。男で属性魔法使いになれるのレアなんだよ」


 現状を理解するも、もどかしくこぶしに力が入るリシェル。リシェルの話す魔銃使い、それは魔法と近代武器の融合により生み出された魔銃で敵と戦う者のことである。


 それは「魔銃士」と一般的には呼ばれている。実は彼にもその先祖以上の力が存在するという。そしてエレクトリールも不安な表情を浮かべている。それでも、彼女は考えをまとめ話をした。


「いまここで話をしてもあれですし、一旦城に戻って報告したあと、作戦を考えましょう。もう暗いですし、これ以上外にいるのは危ないかもしれません」


「確かに、今回のことは早く殿にお伝えしなければ。皆のもの、一旦城に戻るぞ」


 八紋堀らは一旦城に戻って報告をすることにした。その頃ハーネイトは敵の大幹部の一人、シャックスと未だ対峙していた。


「一体貴様らは何の目的でここに来た」


「そう聞かれてすぐに答えるとでも?まあ私はどうでもいいですけどねえ。上の連中の野望など」


「どういうことだ、シャックス」


「その通りの意味ですよ。私は生まれつき幽霊が、そしてその幽霊が多く存在する場所がよく見える体質でした。そのせいであまりいい人生は送ってこれませんでした。そんな中、霊界人、いや、正確には霊量士(クォルタード)と言う存在を私は知りました。同じような能力を持つ者がいることに私は喜びました」


 シャックスは表情を明るくしたり暗くしたり、常に変えながらハーネイトに自身の過去について淡々と話をし続けたのである。それをハーネイトは警戒しながらも辛抱強く聞いていた。そしてDGが現在活動している目的について話をしたのである。


「しかし、そうしてDGが私のような仲間を集めた目的は、その力がない人間をすべて排除し、無数の魂を回収したうえでとあるアイテムを作ることでした」


「確かに、あいつの言うことと一致しているな」


「あいつ?ですか。まさか、戻ってきてないレコミグナイスやユミロたちから話は聞いているのですかね」


「そうだ、が?」


「そう、ですか。では、勝負しましょうか。はっ!貴方には、恐るべき程の霊量士の力を感じます」


 そういうとシャックスはいきなり手にしたブーメランらしき何かをハーネイトに向ける。するとその上半分が開いて羽のように展開した。そこから数発の赤色の光矢がハーネイトめがけ放たれる。


「くっ、このっ!魔力防御が意味をなしていないだと?先ほどのもそうだが、これは危ない」


 その一撃をハーネイトは魔法結界で防ごうとしたが、その矢は彼の結界をすり抜けて肩に矢が刺さったのだ。幸い傷は軽く創金術で体の構造を変えてから瞬時に修復した彼だが、魔法でない力を使われたことに動揺を隠せなかった。


 魔粒子とは違う、しかし力強いその力。そう、エレクトリールが渡したあの宝玉の放つ波動とよく似ていた。それを思い出し、それを再現できないか必死にイメージする。


「防御したはずなのに当たった。これこそ霊量子(クォルツ)の力です?今度はこうですよ!」


 さらにシャックスは霧を切り裂きながら、彼をホーミングする矢を6本同時に放った。それは回避行動をとるハーネイトをしっかりととらえ、一目散に飛んで行った。その時ハーネイトは内側から魔法とは違う力を感じ、それを体外に放出した。


「はああああああ!」


 そうすると、その光矢はすべてハーネイトの体に弾かれて消滅したのである。一八の賭けだったがうまくいった彼は少し息を荒げながら刀を構えた。それを確認したシャックスは驚いていた。


 ごくまれに、霊量子での攻撃を受けた人が同じ力に目覚めるという伝承を彼は知っていたが、実際にその光景を目撃したのは初めてであった。


「何と、言うことでしょう。力に目覚めた、いや、眠っていた力が呼び起こされたとでも。っ、やはり私と同じあれを、持っているか」


「何だこれは、魔粒子とは似ているようで、まったく違う。エネルギーでもあるような、しかし何にでもなれそうなこの力は……っ」


 ハーネイト自体、この力を享受する素地は十分にあったものの、肝心の師がいなかった。それがシャックスの矢による一撃と霊宝玉の力が引き金となり、彼を新たな段階へ進めたのであった。


「さあ、どうする?執行官さん。あの戦闘員のように、私を捕まえるとでも?」


「そんな下の仕事を誰がしますか。……では質問をしましょう。ユミロとボッグズたちの行方は知りませんか?」


「ユミロは、ここにいる。起きて、ユミロ」


 ハーネイトはシャックスの言葉に応じ、素早く胸元に差したペンを取り出してユミロをその場で召喚した。


「うあああああ、あ。よく寝た。なっ、シャックス、様!」


「それと、他の二人は戦った際に突然魔物に変身して、最後には自爆した。俺とユミロはそれを目撃した」


 彼のその言葉に、シャックスは表情が固まっていた。ユミロの件もそうだが、戦闘員たちが開発したアイテムにより死んだということを理解し恐怖していたのであった。別の何かに変身するということしか知らされていなかっただけに、彼の顔は青ざめていた。


「私は、知らない。まさかあのカードにそんな恐ろしいことが、なぜ!」


「それはこちらのセリフだ」


「二人、とも変身の後苦しみ始め、最後には爆発し、何も残らなかった。恐らくDG内にも裏切り者がいるか」


 ユミロの言葉がさらにシャックスに追い打ちをかけた。このシャックスと言う人物はDGの掲げる野望に興味がないどころか、美しくないと一蹴する人物であった。


 それでもその組織が不幸な境遇を救ってくれたためついてきていただけであるが、今回の一件を聞いてかなり動揺していた。


「ああ、もうやっていられない。前々から美しくないことばかりしていた。しかし私はそれに対して異議を、唱えられなかった。組織を抜けたとして、この先どうしていけばよいかわからなかった。私は、私は」


「それは、俺も同じ心境、だった。シャックス様」


「敵も一枚岩ではないのか?結束がなっていない感じだな」


 二人のやり取りを聞いて、ハーネイトはこのDGと言う集団が組織としてはかなり脆弱ではないのかと脳内で考えていた。


 彼らの本来の目的は、戦争を引き起こし、犠牲になった人や霊的能力のない人の魂をもとに何かを作り出すことであった。そしてそれに関連するとされるアイテムが自身の管轄下にあることに一抹の不安を彼は覚えていた。


 少なくともこのユミロとシャックスはDGに対して明確な不満を持っている存在であった。ハーネイトはこれを利用することで揺さぶりをかけることもできるのではないかと合理的に考えつつも、この二人の境遇を純粋に悲しんでいた。


「そなたの言うとおりだ。しかしユミロを引き入れるとは。名前は何と言いますか?」


「ハーネイト、ハーネイト・ルシルクルフ・レーヴァテインだ」


「ハーネイト、ですか。良い名前ですね。よろしければ、あと少しだけ付き合ってもらえませんかね。そなたの力を見たいのです」


「こっちは疲れてるんだけどね」


「もし私を感動させることができれば、この際組織を見限ってそちら側についてもよろしいのですが」


 シャックスはハーネイトの名前を聞き、そのうえで勝負の結果次第では軍門に下ると提案してきたのだ。それについてハーネイトは若干うんざりしていた。なぜならば、今までも同じような展開が過去の旅において、ユミロ含めて6回はあったという理由であった。


 確かに敵の情報が楽に手に入るならこしたことはないにしろ、本当にそれでよいのかと疑心暗鬼になっていたのであった。これも彼の独特な用兵術とカリスマ性からくるものではあったが、彼はとても複雑な表情を見せていた。


「やけにあっさりとしているな。まあ、いいだろう」


「ハーネイト、多くの人に好かれる。不思議。いい人の下に就くならば、俺、約束守る。DGは約束守らなかった。だから言うこと聞かない。それと、フューゲル言っていた。彼には、龍の力があると」


「また龍というワード、一体何なのよ。……確かに、わからなくはないがそれで、感動させてほしいのか、シャックス?」


「そうです。何でもよいですよ。ですができれば、芸術の域に達した戦技とやらを、見せてください。私は美しい心の持ち主が何よりも大好きですから。そういった存在こそ、究極の美を生み出せるのです」


「はあ、なんでこんなことに。仕方ない。では、これはどうだ!無幻一刀流・輝閃空斬!」


 ハーネイトは刀を抜いたことを気づかせないほどの動きで空間を黄色い光の剣軌跡で数回瞬時に切り裂いた。するとその部分の霧が消滅し、衝撃波で一時的に見通しがよくなった。


「これは、一つの武術としての完成形。いいですね、だがまだ足りません。もっと、この矢のように美しいものを!」


 シャックスは興奮してハーネイトに再度矢を放ってきた。それを先ほど感じた新たな力を織り交ぜた紅蓮葬送にて全部防ぐ。今度は防御に成功し、手ごたえありと彼は感じる。


「やはり、その紅蓮の翼は龍の力を感じます。不思議ですね、私にもあるのですが」


「後でその話、聞かせてもらうぞ。それとユミロ、戻ってくれる?広範囲を巻き込む技を使うから」


「あ、ああ。気をつけてくれ。シャックスは変人だが、独自の美感覚を持っているだけで悪人とは言えない存在だ。しかし美しい物、のためには見境がない」


 ユミロはハーネイトにそう言うとペンの中に命令通り戻った。


「これでいいか。シャックス、私は魔法使いだ。その中でも私が美しくも恐ろしい魔法を見せてあげよう」


 ハーネイトはシャックスに対しそう叫ぶと、左手を天にかざし、詠唱に入る。


「曇り空 白雪の雨。人を惑わせ童心に戻る。白銀の優雪よ心を満たせ、大魔法が46の号、白銀散雪(はくぎんさんせつ)」


 いつもよりも静かに、優しく詠唱するハーネイト。すると季節外れの雪が舞い散るように、ゆらゆらと彼らの周囲に振り始めた。その雪は時に光を吸い乱反射し、その美しさで多くの者を魅了する。


「これは、雪ですか。ああ、なんと美しく綺麗な雪。はああ、故郷で見た、あの雪のようです」


「そして、これが美しくも恐ろしい、大魔法唯一の連携魔法。雪氷、しばむ肌。欠片に触れて傷つく魂。雪中刃が柔肌を切り裂く!大魔法が47の号、時雨雪刃(しぐれせつじん)!」


 ハーネイトがそう詠唱すると、シャックスが雪に触れた部分から突然青く透き通る氷の剣が雪から生え、彼の肉体を幾つも刺したのである。そして彼はその場に倒れこんだ。


「がは、っ。こ、これは。痛い、しかし美しい。ああ、いい。綺麗だ」


「この魔法は扱いが難しくてね、どうしても使いどころがわからなかったんだ。だけど綺麗であることには変わりない。だからせめて、美しさを気にする貴方に見てほしかったのだ」


「ふ、ふふふふ。私の故郷は寒いところでしてね、DGに入って、からは雪を見る余裕も、美しさを感じる時間もなかったのです。しかしハーネイトは私の願いを聞き入れてくれただけでなく、昔の唯一の、美しかった思い出を蘇らせてくれました。しかしこのままでは、血が……っ」


 一応殺さないように魔法の出力を下げ刃の長さも調節してはいたが、数か所に刺傷が発生していた。ハーネイトは倒れたシャックスのもとに駆け寄ると91番の万里癒風を詠唱し、自身も含めてシャックスの傷を治した。


「完敗、ですね。そしてそなたは霊が見える存在。そして敵でありながら傷を治す。その心の器の広さ。あなたこそ、彼らの野望を打ち砕き代わりに王になるべき、いえ、ならなければならない宿命を背負っています。龍の力を全て宿しているのですから」


 そうシャックスが言った矢先、空から黒いエネルギー弾がハーネイトたちに向かって降り注ぐ。それをよけながらハーネイトは詠唱する。


「まだいるのか!魔鏡の誘い 夢幻の罠 一つは受け止め一つは打ち出す 行き違えろ、災いの事象!大魔法8の号・鏡通交光(きょうつうこうこう)」


 彼が詠唱したのは、二つの鏡を召喚し、映った物を吸収し、もう一つの鏡でそれを放出する無属性の大魔法であった。横たわるシャックスを守るためにそれを用いて、放たれたエネルギー弾を送り返すと何かが当たった音ののち、地面にどさっと倒れる音が響いた。


「ぐっ………ハーネイト、なぜそれほどの力がありながら、全てを手に入れない。いや、まだお前はすべての力を1%しか出せていない」


「お、おまえは!あの悪魔!」


 ハーネイトが反撃し打ち落としたものは、フューゲルであった。ややフラフラになりながらも、彼らを睨み声をかける。


「フューゲルだ、覚えておけ。若き魔剣士よ」


「貴方は、ミザイルの部下の男。しかし、人ではないのか!」


 シャックスは彼の出現に驚いていた。何故ここにいるのか気になるが、それ以上にハーネイト何らかの関係があるのかと思い詮索をしていた。 


「何だ、執行官までいるとはな。まあよい。ハーネイト、貴様はこのままでは近いうち、死ぬことになる。その前に、力と向き合え。恐れるな。内なる力を受け入れた時、理解した時、お前は龍王の力を手にするのだ」


「ど、どういうことだ一体!貴様に、何がわかるというのだ!私の苦労が!それに、剣と魔法で十分戦える。それに龍王って何なの!シャックスも似たこと言ってるし」


 ハーネイトは厳しくそう言うフューゲルの言葉に、頭を殴られたかのような衝撃を覚えた。しかしなぜそのようなことを言うのだ、何を知っているのかと不満に思い喧嘩腰になる。


「フッ、俺はお前が生まれたところも、生み出された真の理由も知る男だ。しかし、今はまだそれを全て教える時ではない」


「何だと!フューゲル、お前は何者だ!」


「……女神を止めるものを、導くものの一人であり、龍と霊量子の秘密を知るものだ」


「女神、だと!白い服の男と同じようなことを言っているな」


「じきに、それが何なのかもわかる。今言えることは、倒れているその男を連れていき龍に関する話を聴け、そして運命から逃げないよう、向き合い力を磨くことだ。近いうちにまた会おう」


 そういうと、フューゲルは羽根を数枚飛ばし、忽然と姿を消したのであった。


「あいつも、女神のことを知っている……?そして、内なる力を恐れるな、だと?」


「ハーネイト、謎がまた、増えた。女神のことを知るものが、他にいるのは初めて聞いた。まさかあれが。しかし龍の力、それはとても強くて大切な物だ」


「同感だユミロ。……私の秘密って、何なのだろう。昔から、自分の中にある力が怖かった。化け物の血を浴びても何ともない、怪我もすぐに治る体質。それが分からなくて嫌な思いをしたから、旅をし続けてきたのにな」


「せめて、その女神の名前がわかれば私も何かアドバイスできますが。おや、置き土産ですか、羽根の間に手紙らしきものが」


 悪魔の言葉に困惑する二人にシャックスは声をかけて、自身が持つ知識が役に立つかもしれないと説明する。彼は美術品や文化、宗教に関して非常に詳しいといい、先ほどの話も併せそういった面で協力すると伝えた。またユミロも異空間越しから様子を観察し、ハーネイトに声をかけた。


 シャックスはまた、フューゲルが飛ばした羽根を手に取りその間に挟まっていた一枚の手紙を見る。それにフッと笑みを浮かべると、ハーネイトの前に立ち軽く一礼した。


「貴方の下で、貴方がどうなるか見届けさせてください。それとどうしてもお願いがあります。ボガーノードと言う男を探し出してください。DGに対し不満を持つ、私の幼馴染であなたの内なる力、龍の意思を呼び起こす力を持つ男です」


「……わかった。霊量子が何なのか、興味がある。色々力を貸して、教えてもらおうかシャックス」


「ええ、よろしくお願いします」


 このシャックスという男ももしかするとカギを握る人物かもしれない。それにこちらに協力的であることから、ハーネイトは運ぶ手段を伝え、了承を得てからシャックスもユミロと同じ次元の狭間に格納したのであった。


「魔法使いは時に手段を選ばず……。そしてボガーノード、か。覚えておこう。女神に関する謎がますます深まってきたが、その前にあの二人との待ち合わせに遅れないようにしないと」


 そうして戦いを終えたハーネイトは、ゆっくりと歩きだしながら森の奥に自ら入っていった。伯爵とは秘かに連絡を取っており、近くまで既にきていることを把握していた。


 その頃、ダグニスらは城の中で話をしながらハーネイトの位置をレーダーで確認していた。


「はあぁ、ハーネイトの兄貴大丈夫かなあ」


「彼はかつてあの森から無事に帰還した。大丈夫だ。しかしなぜこの状況で」


 夜之一は、ハーネイトがかつて森から帰ってきたことと、何故、今森の中に入っていったのかを疑問に思っていた。


「分かりませんね、とにかく位置が分かっているならば問題ないですね」


 彼、ではなく彼女はハーネイトの位置を正確に把握できることに安堵していた。


「しかし、無理に囮などせずとも最小限に被害を抑えて倒すことも出来なくはなかっただろうに。やはりおかしいな。無理がたたっているのだろうか」


 今度は八紋堀も同様の疑問を口に出した。そして彼の様子について思ったことを口にした。


「もしかして忍者に会いたくなったとか?ほら、前にリシェルさんが言っていたあの話ですよ」


「げっ、あいつらと?」


 リシェルは、忍者と言う言葉に敏感に反応した。よっぽど忍者にトラウマがあるのか、確かにトラウマはあるにはあるのだが、その嫌がり方は尋常ではなさそうだ。


「おや?リシェルさんでしたけ?忍者が怖いのですか?」


 ダグニスが嫌な顔をしているリシェルに少しニヤニヤして問いかける。


「ち、ちげえよ。ただ昔色々あっただけだ」


 ダグニスの言葉に少しうろたえながらお茶を濁そうとするリシェル。


「ふうん、その話気になる。って外から白い鳥がこっち向かってるんだけど。ってウェンドリット!」


 ダグニスは外を指差し、こちらに向かってくる一羽の白い鳥を教える。彼女もたびたび事務所に遊びに来ているため、彼の使い魔たちとは知り合いではある。


「ハーネイトの伝説の使い魔、ウェンドリットではないか。久しぶりに見たのう」


「ほう、色々いるホウ。ハーネイトより手紙がある、受け取ってくれ」

 

 八紋堀はウェンドリットの言葉に従い窓から腕を出す。そしてウェンドリットは八紋堀の手に掴んでいた手紙をそっと爪から離し、素早く飛び去った。


「なんだなんだ。手紙か。ってハーネイトさんの使い魔と言うことは、師匠か!」

「そうですね、って師匠呼びですか。とにかく中を見てみますね」


 エレクトリールは八紋堀から手紙を渡してもらい、畳んだ手紙を開いて文章を確認する。


「しばらく迷霧の森の調査を行います。昨日は済みませんでした。DGの幹部を一人捕らえ、そしてあの悪魔から女神に関してのワードを入手しました。あと異常に強力な助っ人と待ち合わせをしているのですがその間、町の警備や不穏分子の摘発をリシェルらは行ってほしい。と書いてありました。また何かあれば使い魔をよこします。ということです」


「ハーネイトさん!なんか嫌な予感がする。前に行ったこと忘れていないんですかね。助っ人が忍者なら抗議も辞さない。だが戦力は欲しい、ぐぬぬぬ」


「悪魔って、あの?女神のことを知るものが他に?それとDGに何の関係があるのでしょう。しかし白い服の男はDGを追いかけている。悩みますね」


「はあ、うすうすそうかとは思ったが。しかし異常に強い助っ人か、それはいい話だ」 


「調査か、やれやれだな。あとで捕らえたあの男の尋問でもしようか。ハーネイト風に、足から頭の先までたっぷりとな」


「ほどほどにしておけよ、八紋堀。あと唐辛子攻めはさすがに引くからやめておけ。以前の健康診断でも三十音から辛い物を摂るなとあれだけいわれただろうに、やれやれ。彼が帰るまで警備を強化しておくかの」


 手紙の内容を確認し、リシェルは嫌な予感を感じた。この手紙はハーネイトが森の中に入るときに使い魔に持たせたものであった。そして夜之一は新たな仲間を期待し、八紋堀が昨日捕らえたホールズと言う男について尋問を行おうとしていた。こうして各々が得意なことをするため、各人は部屋を後にするのだった。一方で全員、若干彼の考えていることが理解できなかったのは確かである。

 

 そしてダグニスは、レーダーに映るハーネイトの発信信号の移動の不規則さが気になっていた。


 その頃、ハーネイトのメイドたちとアレクサンドレアル6世、ルズイークとアンジェルはトレーラー型移動拠点「ベイリックス」に搭乗し、シャムロックの運転の下リノスを越えて、街道を走っていた。


「しかしこの車、乗り心地いいな。トレーラー部分には部屋が幾つもあるし、移動拠点の名は伊達じゃないな」


独立した運転席から、外の景色を眺めつつルズイークはベイリックスの評価をする。


「お褒めに預かり光栄です。これもハーネイト様のためですよ」


その言葉に、シャムロックも自慢げに各機能について説明をする。


「しかしまあ、こんなものをよく作ったわねシャムロック。一人で車を作るとかやはり変態的だわ。服もそうだけど」


 その言葉に、シャムロックは趣味ですからと軽く答える。今は無きマッスルニア帝国の元王子だったこの男は、ハーネイトの噂を聞き王子のプライドを捨ててまで彼の元に来たある意味変態であり、一種の信者と化していた。


 このシャムロックという男もまた、昔ハーネイトが経験した事件で体験した、怪物の血を浴びても何ともない体質を持つ人であり、血海が各地で大発生した際にハーネイトと出会い、同じ力を持つ者同士心を通わせ、事態の解決に大きく貢献したと言う。


 それとミレイシアもその血の怪物に親を殺され、復讐のために各地を移動し人形と共に敵を倒しまくっていたところハーネイトと出会い、勝負の末に彼と自身は同じ境遇であり、同じ血の影響を受けない存在だと分かったうえで、ハーネイトに対しとてつもなく大きな力が宿っていることと、優しくて強き王(モナーク)になりたいと言う言葉に感動し、彼を王にするため部下になったと言う。


 一方でミロクも血の怪物などと戦っていたが、ある時ハーネイトと出会い同じ気運を感じまさかと思いながら彼の仕事を手伝っていた。その中でハーネイトが実の息子の孫だと判明し、何故どういう経緯で誕生したのかが気になりつつ、彼に剣技指導などを行っていた。


 それと孫が6つの強大な力を宿していることも、ミロクは知っていたのであった。



「あなた方には、この服の良さが理解できないだけです」


 シャムロックいわく、この黒いゴスロリメイド服こそ自身の最高の衣装であると豪語する。その服を着るものが、身長が2m30cmを越え、筋骨隆々で顔が怖くなければという話だが。


「誰もが、あんたの姿を見れば二度と一生忘れられないだろうな」


 ルズイークのその意見に、シャムロックは大笑いする。


「ハッハッハ、それも少しは狙っているが。さて、先を急ぐぞ!」


 始終丁寧な言葉遣いをするシャムロックは、車のアクセルを踏み、車体を加速させるとガイン荒野を突っ走るのであった。

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