第37話 ハーネイトの印象と伯爵たちとの関係
藍之進との話を終え用意された部屋に戻ったハーネイトは、少し疲れたようにため息をし、ゆっくり座ると、伯爵の側で足を伸ばす。
「お疲れさん、どうだったかい?」
「ああ、藍之進と言う男から機士国王の作戦について共闘したいとの申し出だ。それとこの学校の生徒たちに経験を積ませてあげたいとさ。だから明日連れていく忍を決める。南雲と風魔も参加するといい」
ハーネイトの言葉に、2人は目の色を声色も変えて喜んでいた。
「わかりました!これは気合い入れないとな」
「何としてでも、受かるわ。夢をかなえるためにね」
若き忍の、迫力ある意気込みがハーネイトに対して向けられ、それに彼は軽く微笑んだ。
「皆さん気合い、入ってますね」
彼らの意気込みを見て、リリーが出されたお茶をふうふうして飲みながらそう言う。それに対し南雲と風魔は、ハーネイトがいかにすごいかをその場で力説しながら、今回の試験の重要性を話す。
「各地で名を馳せるハーネイト殿と肩を並べて戦えるとか夢みたいだ」
「これは里にとっても、忍にとっても重要なこと。有名になれば里も私たちも暮らしがよくなるわ。それに憧れの人と共に戦えるなんて、幸せすぎます」
風魔はそう言いながら美しくつやつやと光る金髪を軽く指で撫で、普段は鋭くキリっとした顔をでれでれにし顔を赤くする。これでも彼女は里の中で一番の成績を収める戦忍だが、今の彼女はその雰囲気を全く感じさせない、一人の乙女であった。
「相棒はマジで人気者だな、改めて羨ましいぜ。いいなあモテモテ」
「もう、伯爵は私だけを見てればいいの!むう」
「分かってるぜマイハニー、俺はお前がいたから、人の心を理解できたしな」
「ハーネイト様は誰もが憧れる存在よ。しかしなかなかタイミング掴めなかったけど、貴方は誰ですか?」
その言葉に伯爵はようやく、自身の紹介かと少し傷つきながらも立ち上がり、その場で仁王立ちになると自身の紹介を元気よく行った。
「俺の名は、サルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウンだ。かつてハーネイトに助けられた男だ。そして一度戦ったこともある。まあ、勘違いされて襲われそうになったんだがな」
「なんと、そうなると伯爵殿はハーネイト殿とどんな関係なのだ?」
伯爵とハーネイトの関係が気になる南雲は興味津々のようで話を更にせがまれるハーネイト。それについて彼が片足に腕を組みながら話す。
「ああ、今からおよそ6年前だな。……ある村に出現した彼を、私はあの血の怪物の再来と思い倒そうとして、相当やられて、その後にね」
彼はかなり内容を省略して話しながら、なぜあの状態で結果的にこうなったのか、運命というものの恐ろしさを改めて実感していた。
「そういう認識か、まあ悪くはないが。相棒は二度と会えないと思った人を会わせてくれた恩人だ。リリーを助け、修行までつけさせて強くしてくれた。それを知って、俺は相棒を助けたんだ」
ハーネイトの言葉に対し、それだけでなく感謝しているということを、伯爵は顔と言葉で表現する。
「そうなのですか、もしかして隣のそのリリーさんが大切な人?」
風魔は伯爵のその話に興味を持って彼に話しかけた。それに対して伯爵は少し顔を赤くしていた。
「あ、ああ。そうだ」
「あら、伯爵照れてる?」
「べ、別に照れてねえよ。とにかく、俺はハーネイトに頭が上がらないんだ。それと、同じ敵に大事な者を奪われている。それも分かってさ、何か運命じゃねえのかってな」
「あれはたまたまだ。そうまで言われると、なんか困る」
少し困った表情を浮かべ、素の高い声が出るハーネイト。彼は周りからそう言われ、少し照れてもいた。
「おいおい、今でもあのときのことは忘れてねえ。ハーネイトがリリーを助けてくれていたから、こうしてリリーと一緒にいられる。正直恩を返しきれねえよ。何度も言ってくどいかもしれねえがよ」
「そうよ、私もこの世界に飛ばされてハーネイトに助けられたの。そして彼の過去を聞いて、私も力になりたいなと思ったのよ。何よりも、ここに来て右も左も分からなかった私に力を与えてくれたのよハーネイトは」
2人にとって、こうまで彼のことを慕っているか。それは、かつて二人に起きた悲恋の物語。そして離れ離れになった二人を偶然とはいえ引き合わせてくれた彼に、心から感謝をしていたからである。
「そうなのか、やはりハーネイト殿はすごいですな。他の世界の人間まで虜にし仲間にするとは器の違いを思い知らされますな」
「べ、別に。成り行きでそうなっただけだ。それ以上言わないでくれ……」
伯爵たちにそこまで言われ、ハーネイトは体操座りで、脚に顔を埋めて顔を赤くしているのを隠す。あまりおだてられたり、かっこいいとか言われるのは苦手なようである。彼にとってはその行い自体は偶然かつごく自然に行ったものであり、感謝されることはしていないという、周囲との感覚のズレがそうさせていた。
普段から優しさと強さを兼ね備え、雰囲気や振る舞いが万人の心を捕らえる一方で、このずれが後々彼を苦しめる要因になるのであった。これもある事件と亡き恩師の言葉による呪いじみた影響によるものだった。
「もう、妙に謙虚なんだから。彼の仕事は迅速で確実、しかも良心的な値段で笑顔を絶やさずに人と接する。彼と一年間仕事をして、旅をして話を各地で聞いて感じた、私が彼に抱くイメージよ」
「俺も旅の中で、ハーネイトがやっている仕事の素晴らしさを理解した。恥ずかしながらハーネイトのように多くの人から認められて自由に仕事をしてみたいと感じたぜ」
さらに2人はハーネイトについて思っていることをそれぞれ口にする。
「ふう、まあ、いいけどさ。なんかうれしいことを言われると、素が出てしまうから苦手、だ」
「てことは、結構無理していたってわけじゃないよな?そういや、相棒のオフを見たことがねえ」
「そう、かもしれないね。結構周りからどう思われているか気になってね」
ハーネイトは4人からそれぞれいい評価を頂いて嬉しい半面、その期待がプレッシャーとなっていた。下手な真似はできない、信用を失えばそれまでだと彼を慎重にさせすぎている要因でもあった。
「私たち、ハーネイト様に色々無理させている?」
「別にハーネイト殿は細かいことなど気にせず、自由に振る舞ってもいいと思います。伯爵さんとリリーさんもそう言っていますし」
「自由か……」
2人の言葉にハーネイトは少し考え込んでいた。今までただひたすら答えを求めるために突っ走ってきた彼にとってその考えは今までにないものであったからだ。藍之進の言った言葉も併せ、自身にはまだ足りないところがあるのだなと気づかされどうしたものかと悩んでいた。
「すぐには答えは出せそうにはないな。はあ、とにかく南雲と風魔は明日に備えて早く休んだらどうだ?」
「いや、ハーネイト殿からも話をもっと聞きたい。魔獣退治や捜索、探偵の仕事の話とか」
「ハーネイト様、よろしければいろいろ話を聞かせてください。こうして会えたのです、質問攻めしますよ?」
彼は明日のことを考えて休むことを2人に勧めるが、それに対し南雲は今まで行ってきた仕事の話が聞きたいといい、風魔は彼の腕をしっかり抱きしめて、上目遣いで個人的なことについて聞こうとする。このままではらちが明かないというか、話をしないと二人とも休む気はないだろう、そう考えたハーネイトは仕方なく、二人に昔話をしてあげた。トラウマのことは隠しつつ、数々の魔獣や魔物の盗伐から普段何をしているかまでを。
「はあ、何てすごいんだ。魔物退治が如何に危険かよくわかりますね。それを的確に仕留めるその技量はもはや私たちと比べ物にならないほど先に言っていますね」
「思ったより趣味とか落ち着いている感じなのですね?読書に料理とか家庭的でいいですね。もっと派手に遊んでいるかと思いましたけど、こうして話を聞くをそれも素敵ですね!」
「やれやれ、世話の焼ける仲間たちだな。まあ教えられることはいろいろ教えてあげたいが。仕事の関係上、家事全般はできるようになったのだ。それとな……」
彼が自身のことについて様々な質問攻めをされて、それにすべて答えたのはこれが初めてであった。元から疲れの取れていない状態にそれは彼自身しんどいところもあったが、それでも笑顔で話を2人にしてあげたのである。
「しかし趣味がちと地味すぎじゃないのか?もっと豪遊とか、女の子と遊ぶとか考えたことないのか。英雄色を好むなんて話もあるだろうに」
伯爵もハーネイトの趣味に関してイメージと違うことを口に出す。あれだけの活躍をしているなら、もっと大きく遊んでもいいだろうし、周りもさほど口出ししないだろう。そう考えていたのに対して意表を突かれ、伯爵は心の中で驚いていた。
「悪いが、どうもそういうのに興味はね。ささやかな日常の幸せと人のやり取りが、私には幸せなんだ。みんなが私の、宝物なんだよ」
率直な気持ちをハーネイトは4人に話した。少しだけ思っていることを口に出せて、彼の表情は少し和らいだ。
「はあ、中々に優等生な感じの考えだな。まあ嫌い、じゃないけど」
「趣味なんて人それぞれでしょ?本当に面白いわね。欲があるのかないのかいまいちわからないというか。まるで神様か何かみたい。純粋と言うか、無垢と言うか。うーん」
リリーがハーネイトについて、普通の人のように欲望がにじみ出ていない印象だと指摘する。彼女は彼の雰囲気について、以前から人とは何かが違う神様か何かのようなものを感じていたのであった。
「そう、かな?昔からなんかおかしいんだよね。嫌になるときがあるよ」
「そうなの?ごめんなさい、ハーネイト。ねえ、みんなでハーネイトの話をもっと聞きましょ?楽しい話して気分切り替えない?」
「それは、そうだが。明日朝起きれなくても知らないぞ?」
全員の視線に耐え切れなくなったハーネイトは、遅くまでみんなに話しつづけそのまま一夜を共にした。
そのころ、エレクトリールと夜之一は城の窓から、空一面に輝く無数の星を眺めながら話をしていた。
「故郷の星が大変な事態になっている、か。本来ならば早く戻りたいだろう」
「は、はい……。でも帰る手段がないのです」
エレクトリールは、外の星、そして故郷のテコリトル星をずっと眺めていた。今頃自身が生まれた星はどうなっているのか、気が気でなかった。その姿を偶然見かけた夜之一は声をかけたのだ。
「はは、諦めるのは早いぞ。機士国の技術には、星の外に出る技術もあったそうだ。旅をしているうちに、故郷に帰る手掛かりは見つかるだろう」
夜之一はエレクトリールの事情を聞いて、彼なりに励まそうとしていた。実際に、そのような技術はあると聞いていたのと、古代遺跡の中には星の外に出たことを匂わせる文章や資料が残っているところもあったので、それも含め夜之一は少しでもエレクトリールに希望を持たせたかったのだ。
「そう、ですか。でも私は、故郷のテコリトル星で起きたことがこの星でも起きるのは嫌です。それにこの星の人たちは私を見ても普通に接してくれます。それに、私はあの人のことが好きになったみたいです」
エレクトリールは夜之一に、ハーネイトのことが気になっていることを伝える。
「そうか、彼も昔から人をなぜか引き付ける魅力があってな。しかしそれはいい方向にも悪い方向にも働いていた。昔から彼はよくモテるし、それで苦労も重ねたと。彼は昔から、ある力のせいで魔女によく狙われ、辛い思いをしてきたとな」
「魔女?何で彼が」
「ある怪物に対して、一方的に勝てる希少な力を彼は持っているのだ。もしかするとハーネイトの対応にやきもきすることもあるかもしれないが、あまり彼にそれを言わないでやってくれ。人間離れしている割に、誰よりも純粋な心の持ち主みたいだ」
夜之一は、以前彼がこの国に来て話したことを思い出しつつ彼の印象を話す。
「そう、なのですね。気を付けます」
「ああ。それとこの星のこともだが、機会を見つけて元の星に戻れるように考えておくといい。その方法が見つかるまでは、エレクトリールよ、ハーネイトのことを頼む」
夜之一の言葉に、エレクトリールは驚きつつもにこやかに返事をする。
「はい。わかりました。しかし早くハーネイトさん、戻ってこないかな」
「気になるか。しかし時には待つのも大切だ。満天の星を眺めながら、気長に待とう」
「そうですね」
二人は星を見ながら、互いに話をし続けていた。その頃別の場所ではDGやハーネイトのメイドたちが活動していたのであった。
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