第73話 軍門に下った元DG幹部たち


「起きたか、ハーネイトよ」


「ええ。もう大丈夫です。これならあの時のような力を使っても、問題はさほどないはずです」


 ハーネイトは目をこすりながらも全員を見ながら背伸びをグイッとした。己自身と向き合い、一つの答えを出したハーネイトはどこかすがすがしい表情をしていた。その表情を見た夜之一は、彼の活気ある昔姿を思い出しながら目を閉じて大きく喜んでいた。


「それはたのもしい。伝説をまた見られるのだな、ハーネイト」


「そこまで担ぎ上げないでくださいな。えーと、皆何してたの?」


「たくさん人が集まったので自己紹介を各自行いました。ハーネイトさん」


「そうか、そうだね。初めて会う人同士もいるからね」


 アレクサンドレアルの言葉に謙遜しつつ、エレクトリールの話を聞いたのち、ユミロたちへの尋問を行おうとしていたことを彼は把握した。


「それで、あの3人の話を聞いてまとめようというあれね。そうだね、じゃあユミロ、一から紹介と説明をしてくれる?」


「お、おう。俺は、メルウクと言う星から来た元DG下級幹部、ユミロ・ネルエモ・アレクサスという。まだ戦争屋だった時代にDGに故郷を襲われ、拘束された後、強制労働、させられていた」


 ユミロはハーネイトに促されると胡坐をかいてその場に、やや天井が窮屈なため前かがみになりながら座り、淡々と悲しそうにそう述べた。


「そうなると、ユミロさんって結構古参の人だったのですか?」


「う、うむ。そういうことになるな。そして今まで、辛いの耐えた。今回ここに来たのも、彼らの最終計画のため、に来たのだ」


 ユミロはリシェルの質問に対し答えつつもうっすらと涙を流しながらも話を続けていた。そう、彼と同じく捕らわれ、奴隷の如くこき使われ命を落とした友のことを思い出していた。 


「だが、俺はもう限界だった。誰ももう、関係ない人を傷つけたくなかった。命令で物は壊した、だけど人は逃した。でもすべては、救えなかった。そしてハーネイトに出会った」


「それが、あの時の出来事ですね」


「う、うむ。彼と刃を交え、そこで俺は、限界が訪れた。そして彼にどこか希望を、感じた。そして今こそ、故郷を襲ったDGに反旗しようと、決めて彼についてきたのだ」


 ユミロはそう言うと、泣くのをやめてから希望に満ちた表情で話を終える。そして夜之一とアレクサンドレアルはユミロについて話をしていた。


「ううむ、そういう経緯だったのか。彼にも実は命を救われておる。暗殺されそうになったのをハーネイトと連携して防いだのだ。行ってきたことも、彼は命をできるだけ救おうと裏で動いてきたというではないか」


「そうだったのか、夜之一。私も最初に見た時は驚いたが、彼は粗暴ではない。優しき男だ。ハーネイトも認めている。改めて丁重に迎え入れようではないか」


「そうしていただけると私からしてもうれしいです。彼の力は千人力です。連携も息がすごく合いますし、正規雇用確定ですよ彼は」


 ハーネイトはにこやかにユミロの方を見ながらそう全員に伝えた。実際小回りも効きながら数十トンの物体を持ち上げる力を持ち、移動速度もニャルゴの次に早いためハーネイトの特に苦手な純粋なパワー勝負において補ってくれる存在は貴重であった。


 そのほかにも工事や開拓などでも彼一人で1万人分の働きは期待できると見込んだうえで、この心優しき巨人を迎え入れたのであった。

 

 それに補足する形で、過去にも勝ちはしたものの、パワーが一時的に足りず押されかけた戦いもあったことをしっかり覚えている彼は、それを埋めるための穴も考えたうえでそう述べたのであった。


「そこまで言わせる男なのか。すげえ、まあ味方として戦ってくれるなら拙者はいいですよ。マスターは速度で翻弄するタイプ、ユミロ殿はパワー。安定感増しそうですね」


「伯爵と同じく前衛で引付役とかしてくれると安心ね」


「任せろ、うおおおおお!」


 こうしてユミロは全員に快く受け入れられた。彼は活躍も仲間に加わってから少なくはなかったというのと、ハーネイトに対し伯爵と同じくらい懐いているのを見て安心していたこと、そして彼の境遇を聞いた結果であった。そして次に、迷霧の森で戦って戦技を見せて負かせたシャックスに全員の視線が移る。


「あ、あの。この私を、あまりまじまじと見ないでください。美しさに見とれてしまったというのでしたら、致し方ないのですが」


「なんかうぜえ」


「これは、今まで出会ったことのない感じの人ですね。確かに美形さんではありますが、ハーネイト様の方が素敵です」


「すごく眠たそう、ではなく、田所と同じく細目なだけか。紛らわしい」


 ユミロの時とは違い、シャックスの一言が不愉快に感じる者もおり、伯爵がひどく呆れた、何だこいつはといった顔を見せていた。また夜之一と八紋堀は同じことを述べていた。


「シャックス、話を続けて」


「はい、それでは。私の名前はシャックス・ファイオイネン・ヴァリエットと申します。DG幹部、その中でもかなり上の階級、執行官という立ち位置でした。つまり4天王的なあれですね。5人に加え予備の人員が5人いますが。この場合十傑…?」


「ユミロも言っていたね。執行官は相当位の高い存在だと。まさかいきなりそのような存在が軍門に下るとは思わなかった」

 

 ハーネイトは改めて、自身の能力の恐ろしさと、一つミスをやらかしたことについて反省していた。敵を捕まえれば、当然向こう側も警戒するはずだと。しかし彼は考え方を変え、それを好機としても受け止めていた。


 そしてシャックスは自身の発言に自身で突っ込んで考えていた。どうも彼は若干天然であり、自身の発言によく疑問を持つことも少なくなかったのである。しかしその顔や声とのギャップが、他の人にはない独特の雰囲気を醸し出していたのであった。


「まあ話を続けましょうか、私もDGに不幸な境遇を助けていただいてここまで来たのですが、しかし醜い。醜い!あらゆる星の美しい芸術品を破壊するわするわ。いつもそこの折り合いが合わなかったのです。そしてそんなところなのに、抜け出す勇気が持てなかったのが、悔しかった」

 

 彼はハーネイトに話をしたのと同じ内容を全員の前でテンションを上げ熱く話しながら、その後に暗い表情を落としていた。もしあの時、いやだと言っていればどれだけ後悔しなかっただろうか。昔のことを彼は思い出しながら話を続けた。


「そして約半年前に別の星から流星群に偽装したポッドに乗りここへ来たのです。その後日之国でボールズと言う下級幹部を手綱に、古代の兵器の一つを起動させようとしていました」


「それが富岳王だな。本当によくもやってくれたな貴様は」


「その節は、本当に申し訳ありませんでした。その後その中で寝ていた私は霧が立ち込める森の中で目覚め、ハーネイトと出会ったのですよ」


 シャックスは謝罪しつつ、彼らの知らなかった事情について話をしていた。


「そういうことがあったのですか。支援攻撃の方はどうでしたか師匠」


「ああ、とても助かった。おかげで富岳王自体の回収もできた」


「何と、そこまでのことができるのか。あ、あとで引き渡してくれ」


 リシェルとエレクトリールはあの時の支援狙撃が当たっていたのかを確認し、ハーネイトからの評価に喜び、八紋堀たちは富岳王の回収を聞いてほっとしていた。


「話を続けてもよろしいですか?そして私はこのフルンディンガーで彼と戦いました。そして私は、ユミロと出会い行方が知れなかった他の戦闘員たちに何があったのかを聞きました。それを聞いて、私は決心しました。DGを抜けようと」


 シャックスは背中に背負った赤き弓をを手にして、見せながら話をつづけた、そしてなぜハーネイト側についたのかについて理由を述べた。


「そして彼は私の願いを聞き入れてくれて、雪を降らせる魔法と雪が触れたところから氷柱が出る魔法を見せてくれました。私は美しいものが好きで、故郷も常に雪の降るところでした。彼のその美しさに惚れたと言いますか、潜在能力にも期待して軍門に下ったというわけです。彼には、霊量士、それ以上の力が宿っていると」


 彼の話を聞き終わり、夜之一たちは目を閉じたまま脳内で状況を整理していた。


「なかなか複雑な経緯だった。少し頭の整理をせねば」


「雪を降らせる、ああ、あれね。46と47番でしょ。よく使ったわね。あれ使いどころ難しくって」


「ああ。しかし美しさという点では後悔、あの連携魔法は他にはないものが出せると踏んでね」


 シャックスの話を聞いたミカエルはハーネイトに対し難しい魔法の運用をよく行ったと自身の感想も織り交ぜてそう伝えた。


「そういうわけで、皆さんにはこちらの知っていることはすべてお話いたしますので、なにとぞご容赦ください。それと私は中距離から遠距離、そして偵察が得意ですので覚えていてください」


「何だ、シャックスは俺と同じ立ち位置と言うわけか。確かに遠距離が自分とエレクトリールだけだと少し不安だったし、悪くはないが」


「なんか複雑だけど、どこか憎めないわね」


 シャックスが自身の得意とする間合いを説明しながら、情報提供をすべて行うと全員に約束した。それに対しリシェルとアンジェルがそれぞれ思っていたことを口に出した。


「しかしシャックスは敵の中でもかなり位が高い存在、敵の方も行方を捜索しているだろうな。ハーネイトの隠密作戦もこれだと意味がないのではないか?」


 届いた手紙を精査して一枚ずつ丁寧に確認しつつ、アレクサンドレアルがハーネイトに対しそう指摘をする。それに対して彼は不安などないという表情で言葉を返す。


「隠密作戦は、あくまでこちらのカードがそろうまでの作戦。これ以降は逆にそれを利用してこちらが罠を仕掛けます。と言いますか、仕掛けている状態ともいえます。問題は敵の結束力ですかね」


 ハーネイトは今のその状況に対しても、それを利用する手段があることを冷静にそう説明した。

そもそも、彼自身の計画としては、敵の本拠点をたたくために必要な情報と戦力を極力悟られずに集めたのち、機が熟したその時に速攻で蹴りをつけるというものであった。


 戦力は今いる仲間と各地にいる友人たちをメインに行けば問題はない。肝心の拠点については、ハーネイトはボルナレロと出会い合流し、結果を分析することで容易にわかるため、次の作戦はその研究者たちの救出任務ということだと全員に追加で説明した。


 その発言に、二人の王様はホッとした表情で話をつづけた。戦況が変わろうと、最善の手を自然に引き寄せようとする彼の幸運の高さは士気の高さにつながっていた。


「なるほど、確かに敵の拠点が分からずじまいでは泥沼必至だ。捜索にめどがつくというなら、戦力も集まってきているし、ハーネイトのかつての仲間たちも合わせれば大きく優位に立てるだろう」


 彼の話を聞いてそう考えた夜之一は、彼に大分元のようなキレが戻ってきたなとほっとしていた。目覚めてからの彼の覇気が体から溢れ出しているのを肌で感じ取り、夜之一自身も勇気をもらっている感覚であった。


「……本当に、貴方たちは楽観的と言いますか、もう少し緊張した方がいいと思います」


 彼らの喜んでいる様子を見たリリエットが辛らつな言葉を口にする。


「どういうことだ?というか、あんた誰だよ。一番気になっていたけど」


「はあ、うるさいですね。私は、モモノ・ファルフィーレン・リリエットと申します。執行官予備役、つまり代わりの執行官と言う役職です。シャックス様の一つ下の地位ですね」


 南雲がリリエットに少し突っかかるも、彼女はそれをさほど気にせず自己紹介を行い、衝撃の真実を彼らに伝えたのであった。


「私は長らくDGに在籍しております。そして、そのボスことゴールドマンの実の娘が私なのです」


彼女の発言に、皆が一斉にざわつき始めた。何せ敵側のボス、その子供までも加わり戦いに参加していること、そしてそれが目の前にいることに、警戒感を露わにするものも少なくなかった。そして彼女はボスであり父のことについて話を続けた。


「しかし父さんは、私のことを忘れているのです。かつてまだ、私が幼いころに母と兄を幽霊のような獣に食べられ殺されてから、父は人が変わりいつしか醜い男となっていきました。そして霊界の王になると訳の分からないことを言い出しました。そう、あの怪しい女に出会ってからです」


「そう、だったのですね」


「初耳な話だな。しかも重要な話ではないか。マスター、この戦いは一筋縄ではいかなさそうですね」


 リリエットの説明を聞き、エレクトリールがそれに驚き、南雲が悩んだ顔で戦いの事情の複雑さに触れる。そしてリリエットは終始エレクトリールを睨むかのように見ていた。


「怪しい女、あの魔法使いだな」


「ええ、機士国を乗っ取ったのも、私の父さんやその仲間をおかしくしたのも、あの女よ。DGが20年ほど前にここを襲うまでは、父さんはあんな人ではなかったわ」


 ハーネイトはリリエットの話を聞いて、その魔法使いがモーナスや夜之一などから聞いたDG戦役におけるこちら側の裏切り者であることを改めて確認し、如何にその女の精神魔術が強力であるかということを思い知らされた。


「しっかし、整理するとリリエットのお父さんがDGを率いていたが、それを操っていたのがその魔女ってことでいいでござるか?」


「ええ、その通りよ忍者さん」


「DGの歴史についてあなた方がどこまで把握しているかはわかりませんが、今のDGは私たち霊量子使いの派閥、新派と戦争屋集団の旧派に分かれております。話は複雑ですが、DGを乗っ取ろうとしたのが私たち。それを利用し更に上に立つのがその黒ずくめの女です」


 南雲らは話の整理をし、それに合わせシャックスが今のDGと昔のDGについて話をし始めた。


 DGとは1000年近く前から存在する、多星共同連合体であった。異世界から転移し襲い掛かる無数の脅威に立ち向かうため生まれたその組織は巨大ないものとなり、その中で恐ろしい考え方を持つ、本来の理念と異なる動きを見せた人たちがいた。


 それが戦争屋集団としてのDG(旧派)であった。彼らにより数十の星がこの世から消えていったという。それを秘かに正し元のDGに戻そうとする存在もわずかであったがDG内に存在した。それがシャックスたちの属する新派であった。数の少なさを特殊能力で補い、彼らは徐々にDG内で権力を持つようになった。その流れの中、アクシミデロ出身の古代人たちも数名がDGに合流したという。しかしここで問題が起きた。


 20年前のDG戦役の際に、DG側に寝返った人の一人がその新派の人たちを操り始めたという。新派の中でNo1の力を持つリーダーが当時No2であったゴールドマンという男に殺害された事件も起き、徐々に新派の中でも異変が侵食していたという。その時すでに、その寝返った人であり、今回の事件を起こしていた女に彼は乗っ取られていたのではないかとシャックスは自身の考えも併せて述べた。


「確かにややこしいな。しかしなぜ戦争屋であるほうの旧派もいるのかね、シャックス」


「それは、こちらの探している、いや、ハーネイトが今持っているものを横取りし、その力で他の世界に侵略をしようとしていたからです」


「だけど旧派はもうボロボロよ。白い服を着た黒いロン毛の男が、他の星の拠点を襲いまくって……」


「それが、俺が出会った、男だ。ハーネイトを探している、あの美しい男だ」


 アレクサンドレアルはなぜ新派も旧派もこの星で動いているのかが気になったが、シャックスたち3人がそれぞれ知っていることを説明したうえで、すでに旧派は力をほぼ失っていることを明かした。


「……白い、服の男」


「ええ、そういやハーネイトを探しているって、ユミロ。その男にあったのでしょう?」


「あ、ああ。……この一連の事件、相当ややこしいな。しかし、霊宝玉。これがカギを握っていることは確かだ。マスターハーネイト」


「そう、だな。しかしはっきりしていることはある」


 リリエットがユミロの言葉を聞いて質問し、彼が答えながら霊宝玉こそ、旧派も魔女に操られている新派も狙う、重要なアイテムであることだと再度言った。


 そしてハーネイトは、表情を引き締めあることを言った。


「そう、今こそDGを完全に叩き潰す時だと」


「言ってくれますね、ハーネイト。ですがその通りです」


「あの悪名高い集団を、俺たちの手で倒す。……やってやるさ。魔銃士の誇りにかけてな」


「DG……私は、決別しなければならない」


 彼の言葉に、全員はその通りだとうなづく。これ以上悲劇を生み出さないためにはそうするしかない。今こそ最大の好機だと全員は考えていた。リシェルや南雲らは血気盛んな様子でDGと戦い勝つと意気込んでいたが、エレクトリールだけはやや暗い表情で、ボソッと独り言のようにそう言った。


「本来関係ねえあれだが、乗り掛かった船だ。……邪魔をするなら全員晩御飯さ。だが、力が強すぎてつい持て余してしまうぜ」


伯爵は豪快に笑いながらそういい、自身の強さをアピールしていた。彼自身、最初は協力的はなかったが、リリーやハーネイトのことを思うと、放ってはおけねえと考えていた。


「あなた、山の上にいた不気味な男ですよね。只者ではないとは感じていましたが、そこまで強いのですか?」


「まあな、相棒とは大体互角の強さだがな」


「いや、まだ伯爵の方が火力的には強い」


「ふうん、そうなの。確かにあの化け物を退けられるなら少しは期待が持てそうね。問題はまだその力を発揮できていない、ハーネイト、それと貴方です」


「私がか?伯爵のおかげで窮地は脱したが、ああ。霊量子というあれか」


「そうそう。私が言いたいのは、凄まじいほどの霊量子運用能力が備わっているはずなのに、それを全く生かし切れていないということです。今のままでは父さん……ゴールドマンに勝つことはできないでしょう。逆に、修行次第ではあなたが上回るのは、あの龍とのやり取りを見ても明らかよ」


 リリエットのその言葉にハーネイトは驚きを隠せずにいた。そしてなぜそれを敵であるはずの存在に伝えようとしたのかを彼はリリエットに尋ねた。

 

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