第74話 リリエットの重要な発言
「なぜですかって?私もいい加減父の愚行には飽き飽きしています。幾ら母さんと兄さんを殺したあの化け物を倒すためとはいえ、力に溺れ過ぎて多くの人の命を奪っていきました。霊宝玉の力がどうのこうのといい、それを使えばとか言っていましたが、戻ってくるわけないのに……でも、止められなかった私も同罪、よね」
彼女は淡々と、しかし段々と語気を強めて話を進めていく。彼女自身、現在のボスであるゴールドマンにかなり不快感を示していた。以前の、あの優しげな顔をした父はどこへ行ったのだろうか、リリエットはそう思いながら彼らに話をした。
「私は3年間あの道場にいたわ。でもあるとき父がやってきて、ついて来いと。男手一つで私を育ててくれたけど、すでにあの時、DGに入っていて尚且つ、洗脳でもされていたのでしょう」
そうしてリリエットの口から出てくる幾つもの重要な情報や言葉に全員耳がくぎ付けになっていた。幹部以外誰もがその事実を知っておらず、ハーネイトも初耳だと関心を寄せていた。ゴールドマンという男の存在と霊量士、裏で暗躍する存在。それらが複雑に絡まりあい、今回の事態を引き起こしていたことに誰もが驚愕していた。
そう、自身の住む星の外でそのようなことが行われているなど想像する力がなかったのであった。もっとも、大消滅のせいで文明が退化しているゆえのことであり、それは仕方のないことだったのかもしれない。リリエットはひとまず間をおいて、ハーネイトを見つめる。
「そして、私は今回最も有名かつ力のありそうなあなた、ハーネイトに会いに来たのです。父を止めて、裏で暗躍している魔法使いを倒してほしいの」
「……どちらにせよ、機士国とこの星の件がある。避けられない戦いだ。……リリエットにもしっかりと活躍してもらう」
「え、ええ。勿論様子」
リリエットから直接依頼の内容を聞き、ハーネイトはわずかに間を置くも引き受けることにしたのだ。
「DGがそんな内部分裂を起こしていたとは、驚きですな」」
「ああ。もしかするとDG側も被害者の可能性があるな」
「ええ、しかしここで問題があります。とにかく今の状態では霊量子を自在に操れないあなた達に不利な状態です。そこであと3人ほどDG側からこちらに引き込んで、なおかつ修行が必要です。それと、イジェネートと言いますか、それについて説明をお願いします」
伯爵とハーネイトが話をする中、リリエットは現状こちら側が不利であることと、イジェネートと言う力についてその概念を説明してほしいと言われ、南雲とハーネイトがそれについて一通り説明を行った。
「金属の元素単位化……霊量術の亜種、いや、応用の技かしら……。共にそれ以下のはるかに小さな単位から物を作り出すかという点で共通するけど、それをどこまで作りこむかってことね。……でも、応用ができているのに、なぜ基礎の霊量術ができなかったのかしら。私も異世界人だから、この星のことは分からないことがあるわ」
「あのシャックスの霊矢も同じものか。防御をすり抜けたのは……」
「あら、シャックスの一撃はすでに受けているの?そういうことね、それで体がショックで目覚めたというなら、昔と違う理由もわかるわね」
リリエットは物質の再構築の際における構成密度と言う概念が勝負を分けると彼らに説明をした。
彼女曰く、話を聞いた限りでは物質を再構築して運用するという概念は双方変わらず、ただ金属の元素単位で作り変えるか、それ以下の単位から作り替えるかという違いだと認識しており、およそ性質は似通ったものであることを理解したのであった。
「それができないと、その人たちにダメージを与えられないということね。困ったわね」
「でもイジェネートは拙者らの十八番だ。要は分解する単位の問題なんだろ?コツさえつかめれば行けるな」
「魔法使いの場合どうすればいいんだ?俺は魔銃士だし、ミカエルさんたちは純粋な魔法使いだし」
「魔法、があるのですね。どのような感じで運用しているのか簡潔に説明していただけます?」
それにミカエルとルシエルが魔法の運用に関してどのような仕組みで成り立っているのかを説明した。
「そうですか、魔粒子ですね。こうなると皆さんそれなりにセンスがありそうですね。私たちのと似ている可能性があります。ですが自然の中にあるエネルギーを感じるわけですね。そうなると、こちらが覚えるのは時間がかかるかも」
「元敵の人たちから教わるのも不思議な感じだがな」
「でも、それしか対抗手段がないのですよ?全くセンスがないと言われないだけましです」
リシェルの言葉に、エレクトリールは今はそれに構っている暇はないと言葉を返した。そしてリリエットは、魔粒子と言う存在こそ霊量子にかなり近いものであり、操る物質のサイズの違いに気づいて勉強になったと感じていた。
「これは、忙しくなりそうね。まあ仕方ないわ」
「ああ、それとこちらから話がある。聞いてほしい」
アレクサンドレアルは全員の前に立ち、手にしていた手紙を幾つか読み上げた。その中には、ジュラルミンの副官であるミリム達や、ある暴走族集団のリーダーからの手紙、各地に派遣されているカイザル、ギリアムなどからの報告書があった。
一連の話を聞いたハーネイトは嬉しそうな顔をしながら言葉を口に出した。
「やはりそうか、ジュラルミンは魔法使いに洗脳されていた。そして防衛警戒網は沈黙している状態だ。つまり、強硬手段に出てもいいということだ。予測は事実になった。そういうことだ」
ワニムから渡された手紙には、かつて機士国で世話になったミリムとガルドランドからジュラルミンについての情報、そして一枚の写真が入っていた。写真を見たハーネイトは、それに写っていた特有の魔法反応から、高度の催眠系魔法がジュラルミンにかけられていることをすぐに理解した。
そしておかしくなった時期にある黒髪で顔を画した魔法使いがやはりそばにいたという。このことを踏まえ、以前ルズイークたちが話していた内容は確実なものになったと把握した。
問題は、なぜ機士国にもその魔法使いが狙いを定めたのかということであった。
「本当に、魔法使いも恐ろしい連中だ」
「ですね、しかもかなり強力です。並みの魔法使いでは解除もままならない。何より私の防御術を貫通している以上、侮れません」
「それが解ければ、そのジュラルミンという男も元に戻るのですか? 」
「おそらくな。解除自体は私のあの能力で行けるのだが、問題は……」
アレクサンドレアルとリシェルがそれについて尋ねつつ考え込んでいた。正直言えばアレクサンドレアルは父の代からいるジュラルミンを煙たがっていた。自身の政策に合わないところがあったためどうにかしようとしていたのである。
しかしハーネイトは彼がそのような行動に至る理由を知っており、うまく利用すれば優秀な人材であることを見抜いていた。王はこのままジュラルミンを謀殺しようと考えていたが、ハーネイトの説明に困惑していたのである。
「そしてこれが、警戒網解除成功か。しかしあいつら魔法通信のやり方教えたはずなのにな」
「あいつらとは?」
「かつて機士国で暴れまわった死鬼隊という12人の暴走族たちだ。事前に手紙を出してな、ある施設の制圧を依頼していたのさ。幾つか既に生産拠点の居所の目星をつけていてね、そこを叩いてもらった。後はボルナレロだ。敵の本拠地を割り出すにも広大な地図が必要でね。装置は用意できるが、動かせる人を持ってこないと意味がない」
そう話したハーネイトは、軽くストレッチしてからさらに話をつづけた。
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