第18話 日之国へ向かう一行


ハーネイトはその後もう一度寝て、一夜を過ごした。翌朝リュジスの用意した朝食を部屋で食べながら3人は話をしていた。


「この星の料理はどれもおいしいですね。ふふふ。ハーネイトさん、ルズイークさんからの依頼は達成したので、次はどうしますか?」


 エレクトリールは朝からパンにスープにサラダ、そのどれもをどんどん胃の中に収めていた。


 リンドブルグのリラムキッチンでもそうだったが、エレクトリールは相当な大喰らいであり、その光景にハーネイトとリシェルは注目せずにはいられなかった。


「よく朝からそんなに入るな。見ているだけでもおなか一杯になりそうだよ」


 リシェルはそう言いながら、コーヒーを飲みつつパンにジャムをつけて食べていた。


 彼の故郷、機士国は地球でいうイギリス系の人が多く暮らしており、異界からの文化や風習などが色濃く反映されている国のひとつである。彼もその影響からか食事も朝は多く摂らずゆったりとしていた。


「そ、そうだな……。さて、今度は日之国辺りでも行ってみようかと思う。この星では珍しい1つの国家を持つ所だから、情報が他の地域よりも多く入ってきやすい。機士国王やそのエージェントたちからの情報のほかに、生の情報が手に入ればこの先有利になるかもしれないのだが」


「えーと、マジですか?それは」


「日之国?どんなところですか?んむむ、これもおいしいです!」


 リシェルは日之国という言葉を聞き青ざめていた。


 昨日見せてくれた、とびっきりの笑顔や泣き顔とは違う、恐怖に怯えた表情である。そしてエレクトリールはと言うとまだ朝食を食べながら、日之国について関心を向けていた。


「リシェルさん?顔色悪いですよ」


 エレクトリールがリシェルの顔を見て、心配になる。先ほどまで笑顔だったためなおさら気になるのであった。


「わ、悪い。ある事件を思い出してな‼」


 少し機嫌が悪いリシェル。ハーネイトはなだめつつ、何があったのかを聞く。


「何があったのだ?日之国絡みで嫌なことがあったか?」


 その言葉に、リシェルは多少言葉にならないことを言いながらも、ゆっくり説明してくれた。


 彼の話をまとめると、4年前にリシェルがルズイークさんの下にいた頃起きた事件があり、ある日彼が訓練中に、謎の忍者が軍の敷地内に入ってきたという。


 そうするとその忍者は狂ったように暴れだし、隊長とルズイークら数名で忍者を捕らえたはいいものの、ルズイークと彼以外の隊員が全員全治一ヶ月の重傷を負い、軍の訓練施設も被害を受けたという。


「それでその後は何が起きたのですか?」


「無事だったルズイークさんと二人で忍者の尋問をしてな、その忍者、何て言ったかわかるか?道に迷って帰れなくなったでござるテヘペロとな!ぶちぎれた俺らはその忍者をロケットに縛り付けてお空のお星さまにしたわけだが…。あーもう、何だあの変態は。忍者が全員あんな感じとか相当幻滅したぜ」


 かなり切れ気味に、その忍者が捕まった際に述べた言葉を再現しながら、はぁ……と重いため息をついて彼は脱力して椅子に座った。


「いやいや、すべてがそうと考えるのは早計だぞ。それなら多分出会うことはないだろう。しかし本当にやることが派手だなお互い。ルズイークも血の気の多さは相変わらずか」


「しかし日之国の近くに、忍の里があると聞いたら、またあんなやつがいると思うと胃が痛む」


「そうそうそんなやつはいないだろって。安心しな、そんな奴等いたら私が追い払う。任せろ」


 ハーネイトはリシェルの不安を拭おうとそう提案した。しかしハーネイトはと言うと、その忍者たちについて別の意味で関心を寄せていた。


「はあ…。お気遣い、ありがとうございます。一応、相性があまりよくないということだけは覚えて頂けるとありがたいのですが」


「ああ、覚えておこう。それとここから日之国は少し距離がある。リシェル、お前のバイクに乗せてもらえないか?」


「座席にまだ空きがあったから、あと3人くらいまでなら行けるはずです。エレクトリールはサイドカーの方に乗ってくれるか?」


「分かりました。しかしユミロと言う男はどこに」


 リシェルはもしユミロをバイクに載せたら壊れるのではないかと心配しハーネイトに尋ねる。


「彼はこのペンの中にいる。試作品だが使い魔とかをここに収めることができる。私は元々触れたものを別の場所に移す能力があるんだけど、それで直したものをすぐに呼び出すのに、これを使うのだ」


 ハーネイトはそう言いながらペンを見せる。それを聞いて、ユミロを直接バイクに載せなくていいとわかりホッとした。


「それならいいのですが。しかしよくああいった存在を仲間にしましたね」


「まあ、成り行きだよ。後々に従業員として好待遇で雇うつもりさ。しかもあの巨体でニャルゴの素の状態の次に速い。流石、メルウク人だ」


「え、あの師匠の使い魔にして伝説の黒風、ニャルゴにですか?」


「ああ。戦ったときのあのスピード、一瞬だが時速350kmは出ていただろうな。いや、それ以上かもしれん。あの間合いを詰めた時だ。対応が一瞬遅れたからな」


「ふええ、それは恐ろしい話ですね。でも頼もしい仲間が加わって安心ですね師匠」


「そうだなリシェル。では、食べ終わったら出発だ」


その時、エレクトリールはボルナレロのことを思い出す。彼に会えたのかどうか尋ねると、ハーネイトは少し笑ってから言葉を返す。


「あっ、ハーネイトさん、ボルナレロさんのことは?」


「ああ、昨日の夜中に向こうから来てくれたよ。こちらに協力するから敵のデータをありったけかっ

さらってくるとな」


 ハーネイトはそう笑顔で言葉を返し、皿に残っていた野菜を口に運ぶ。


「昨日、物音がしたなと思ったが、そういうことだったのですか」


「ああ。すまなかったな」


「いえ。ボルナレロ、か。DGに何かされないといいのですが」


 リシェルはハーネイトにボルナレロを手元に置いておかなくてもよいのかと遠回しに質問する。


「ボルナレロにはお守りを持たせているし、彼からいいものを頂いている。だから向こうが発信機の電源さえ切らなければすぐわかる」


「それなら、いいのですが。しかし研究者、か」


 ハーネイトの答えに納得はしつつも、研究者である兄と姉が気がかりだったリシェルは心の中で心配していた。


 そうして30分ほど話しながら、各自身支度を済ませた3人はリシェルの用意したバイクに搭乗する。リシェルが運転し、その後ろにハーネイト、サイドカーにエレクトリールと白い大きな銃を載せる。


「短い間だったがまたこの町に来てくれ。その時は盛大におもてなしをしよう」


 町を離れるハーネイトたちに、住民たちが一堂にお礼の言葉を述べる。そしてリュジスはハーネイトに握手を求め、彼もそれに応じる。


「分かりました。物資の件よろしくお願いします」


「任せておけ。商人たちにも話をつけておく」


「なんで日之国に……。だが気分を切り替えないとな。ハーネイトさんがいれば、どうにかなるはずだよな。前に読んだ本に書いてあった、日之国にあるという温泉は気になるし。料理もおいしいらしい。前向きに前向きに……」


「どんなところだろう、わくわくしますね!」


 ハーネイトとリュジスの会話を横目にリシェルはやや憂鬱、エレクトリールは満面の笑みを浮かべており、2人の表情の違いがよく分かる。


 少々不思議な面子だが、前衛のハーネイト、中衛のエレクトリール、後衛のリシェルとバランスが取れている構成であり、彼らの仲の良さも相まって、強固な連携を築きつつあった。


「そういや、この先の道で翼竜の群れがいると、警備のものから話を聞いた。用心していってくれ」


「ありがとうございますリュジスさん。後でハントしておきますよ。では、行ってきます」


「気を付けてな、解決屋よ。勝利はあなたの元にある。ご武運を!」


 そうして、リュジスら住民と別れを告げ3人は日之国に向かい大型バイクで街道を突っ走っていった。


 その頃このアクシミデロ星の存在するフォーミッド界からはるか離れた、別次元にとある領域が存在した。常に空中に浮遊した大地と、その地を覆う雲海が絨毯のように敷き詰められた光の世界。名を「天神界」と言う。そこにある白き神殿では、ある一人の男が落ち着かない様相で部屋の中を時々歩いていた。


「ああ、もし女神が今目覚めたらと思うと、居ても立っても居られない」


「それはどういう意味ですかいな。シルクハイン」


 部屋の中にいるもう一人の、落ち着かない男とは別にソファーでくつろいでいる高齢の男がその男に話しかけた。

 

「いえ、とにかく恐ろしい。と言うことですよ。もし彼女の機嫌を悪くすれば何もか一瞬でなくなりますからね」


 高齢の男にそう言葉を返す、3mは超えるほどの大柄で、紺色の厚手のコートを着た男はシルクハイン・スキャルバドゥ・フォルカロッセと言い、この天神界の最高管理官である。


 この男はハーネイトについて多くの秘密を知っている数少ない人物でもあり、そして別の世界に旅立っていったハーネイトと、もう一人の息子、オーダインのことを気にかけていた。


「むう、確かにな。あの最強に怠惰で凶悪な女神。もし暴走を許せば他の世界にいるものも知らぬ間に消滅するだろう。女神の機嫌次第で世界を消されてはたまったものではない」


「だからこそ、彼女をだまし、対抗できる存在を生み出したわけです」


「その存在を人間たちに任せるというのは、やはり間違いだったのではないかね、シルクハイン」


「いえ、きっと成し遂げて見せるでしょう。殺戮兵器として表向きは生まれ、実際は世界のために戦う神造の英雄。それが、私の息子です」


 高齢の男はグライカイザル・スキャルバドゥ・フォルカロッセといいシルクハインの叔父に当たる。


 前最高管理官だったがかなり前に隠居し、女神の動向を気にしている落ち着いた雰囲気を漂わせる人物である。


「……しかし、孫にあたるその存在に、わしらは過酷な試練を受けさせているのだと思うと苦しくなるのう。あと数年で女神、ソラが目覚める。それまでにDGを殲滅しなければその時点で終わりじゃ。何が何でも、派遣したオーダインがハーネイトを見つけ力を合わせてくれることを願うばかりだ」


「はい。ハーネイト……こんな目に合わせたこの親である私を、許してくれ……。それとミロクじいさん」


 シルクハインは不安を抱きながら、部屋の外を窓越しに見ていた。この世界にはあらゆる事象に干渉し、万物を作り出した女神がいるという。


 彼女は現在永い眠りについているものの、周期的にそろそろ起きる頃ではないかとされ天神界人はそれを恐れていた。


 別の世界で、人の世界、理だけでなくあらゆる存在が消滅しかねない事態に、ほとんどの世界の人間やそれ以外の存在、そしてハーネイトたちも気づいていなかったのであった。


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