Code 147 研究者ザイオとブラッドラー・エンぺリル
「帰ってきたよ、って、ロイ首領?」
部屋に入ったハーネイトは、ロイの普段と違う表情に体が固まった。
「ハーネイト、まーた私に隠し事しよってね!電話がかかってきて、ヴァルハという男から伝言を頼まれたわよ。本当に、まだまだ甘いわね、まったく」
ロイはまたかと呆れつつも、何があったのか、そして電話の主であるヴァルハが何を伝えてきたのかをハーネイトに話した。
「ザイオ・グリューンペル・アグタキスか、あれは偽名だったのだな。確か生体工学系でいくつも優秀な研究結果を出してきた男だったな。……早速一人見つかったな」
「気をつけろよ、カードを生産できる技術を持っているとすれば、無関係の人間にあれを張り付けてめちゃくちゃにできるはずじゃからな」
「それだけはなんとしてでも阻止します」
二人がそうして話していたその時、部屋のドアを挟んで男女二人組が部屋に入ろうとしていた。
「おや、まさかとは思いましたが、ハーネイト先生」
「ハーネイト様、お久しぶりです」
部屋のドアからノックがし、ロイが入るように命じると、そこにいたのはガルドランドとミリムであった。機士国での仕事が一段落し久しぶりにゴッテスシティまで戻ってきていたのであった。
「ガルドランドとミリムか、久しぶりだな」
「ええ、あれからも忙しそうですね」
「仕方ない、事後処理はいつだってそういうものだからね」
ハーネイトのどこか落ち着かない様子を見た二人は、気遣うようにそう言い、ハーネイトもやれやれだと言わんばかりな感じでそう言葉を返した。
「私たちも手伝えることがほかにあればよいのですがね、先生」
「ガルドランド、そうだな……やはり魔法協会関連の件を首領と共にやってほしい。私は別件があってね」
「何かあったんすか先生。あのDGがまだいるとか?」
ハーネイトは仕方なく、二人に対し今何が起きているのか説明をした。それを聞いた二人はあまり良くない顔をしていた。
「それはまずいんじゃないですかね」
「一部の研究者たちが技術を盗んで悪事を働こうとしているのね。……でも他にもやることがあるしどうすればよいのかわからないわ……」
ミリムは話を聞いて、機士国の研究者について懸念していた。他にも同様のことを行う可能性のある人たちがいることに、呆れながらも先を心配していた。
「ともかく、おぬしらも余裕があるなら明日ついてきてもらうぞ。ハーネイトは、今日は休んでおいた方がいいのう。明日工場制圧するんじゃろ?ホホホ」
「え、ええ。早く蹴りをつけないとですね」
「そうじゃの、お主もゆっくりゴロゴロしたいんじゃろ?」
そうロイが言うと、冷蔵庫からハーネイトの好物であるブワトナジュース (ブドウに似た果実のジュース) のボトルを取り出し、グラスに注ぐとハーネイトに渡した。
「そう、ですね。……できれば。それといただきます、首領」
ハーネイトたちは夜遅くまで世間話をしながらジュースを飲み、BK事務所の中で一夜を明かした。相変わらず酒の類はだめなのだなとミリムたちは思いながらも、そういうところが彼らしいと感じていた。いつでも戦えるように、後悔の無いように。かつてハーネイトが教師時代に生徒たちに教えた言葉、それを誰もが忘れていなかった。
ハーネイトがBKの事務所に戻る前、ヴァルハは一旦家で落ち着いてから再度外に出た。どうしても先ほどの光景が忘れられず、酒を飲まずにいられなかった。ハーネイトに連絡を取り、限定付きで外に出る許可をもらうと、いつもの酒場に出向いてから店のマスターに酒の注文を行う。その一部始終を少し離れたビルの屋上から南雲たちは見張っていた。
「しかしマスターは何を考えているのか」
「あえて泳がせて、新たな情報を引き出すってわけね南雲」
「んで、危なくなったら社長を回収か。……人使いの荒いことだ」
「その割にはうれしそうね」
南雲はそうぼやき、マスターハーネイトのやり方が相変わらずだというも、風魔は彼の顔を見ていやそうに見えないと指摘する。実際南雲も里に戻って何かするよりはハーネイトに仕事をもらって動いていた方が楽しいと思っていたためであった。
「まあな、しっかり金は頂けるし活躍の場を広げるためにもいろいろ仕事を引き受けて解決しないとな」
「あれから変わったわね南雲。ハーネイト様に出会って私も変われたわ。……さあ、見逃さず任務に集中するわよ」
風魔はそういうと気配を極限まで消し、ビルからすっと飛び降り、酒場の近くで隠密行動をしながらヴァルハの様子をうかがっていた。
「ふう、あの男は疫病神だな。……マスター、ウィスカスを一杯頼む」
「かしこまりました」
ヴァルハは酒を飲みながらも周囲を警戒していた。伊達にここまで来たわけではない、常人よりも研ぎ澄まされた感覚が、酒場の中を駆け巡る。
なぜこの酒場に来たのか、それはただ酒を飲むためだけではなく、ザイオがここを訪れて誰かと話していることをマーティンから聞いたためでもあった。行きつけの店でもあったが出会うことがなかったのは、来る時間帯の違いであったためあえて彼は、少し遅く店を訪れたわけであった。このことについてハーネイトに話したため、彼も渋々行くことを許可したのであった。
「ふう、この世界にも酒があってよかった。飲みすぎは禁物だがな……ん?あの男は、ザイオか」
静かに店の中に入る中年のやせこけた男こそ、研究者ザイオであった。ヴァルハのいるカウンターとは別の、離れたテーブルに座ると店員を呼び酒を注文していた。
「誰かと待ち合わせをしているように見えるな。……あの男は」
気づかれないように、わずかに視線を彼のほうに向けたヴァルハは、ザイオの挙動がどこか落ち着かないものであることに気づいていた。
するとまた店に一人の若い男が入ってきた。その男の顔をヴァルハは知っていた。それは前に会社にきて再生治療を頼んだことのある、ブラッドルのエースプレイヤーであった。
「ブラッドルの有名なチーム、ヴィスランスのエース、エンぺリルだな」
ヴァルハは彼の行動を慎重に観察していた。するとエンぺリルは辺りを警戒しながら、ザイオのいるテーブルまで来ると彼に声をかけたのであった。
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