Code122 邪神ヴァルナーと死霊魔女セファス


「邪神か、ソラと喧嘩し、追放されたもう一人の女神」

「その名前は、ヴァルナーティクスという」

「ヴァルナーティクス……」

「要は、そいつを止めないと。また文明が大きく後退するだけじゃなく、各次元の座標位置が変化し、人類も、それ以外の世界も壊滅的な損害を結果的に被るわけだな」


 オーダインはヴィダール・ティクスについての神話の一部を口に出した。女神ソラには、対立していた妹がいたという。けれど圧倒的な力に負け、神の世界から追放されたという。今回の事件の裏には、そういった存在が大きく関わっていること、そしてその邪神の目的が、姉であるソラの抹殺であることを告げた。


「遺跡にある、次元融合連結装置だけは守り抜かないと。みんなはすでに到着しているだろうか」

「しているぜ。心配するな相棒」


 そうしてハーネイトたちが移動しているさなか、北大陸の南端にある広大な森林帯と草原で野営を行っている集団が存在していた。そしてそこにはリシェルたちの姿が見えていた。


「ガルバルサス様!」

「おお、リシェルか。すっかり大きくなったのう。それに、こんなに仲間がいるとはな。


 ラー遺跡の周辺を取り囲むように、広大な森林帯が形成されている。その中には開けた場所もあり、遺跡周辺の、小国がすっぽりと入りそうなほどの広大な草原や荒れ地の北端にガルバルサスと彼が率いる軍隊がいつでも動けるように待機していたのであった。

 

「ハーネイトさんと行動を共にする、ハーネイト遊撃隊が一人、エレクトリールと申します。彼から話を聞いております」

「おお、孫からも話は聞いている。よろしく頼むぞ」

「それで、今どのような状態でしょうか?」

「今のところ大して変化はないのう。だが、いやな気を感じる。機士国の兵も同様のことを言っておる」

「それは、こちらに向かっている敵の首領こと、魔法使いの気ではないでしょうか」


 ガルバルサスらは空を見上げながら、兵士やリシェルたちが感じる不気味で恐ろしいオーラがその事件の首謀者が放つものであることに動揺していた。今まで多くの戦いに参加し、DG戦役にも参加した彼だが、そのどれよりも冷たく、かつて経験したことがないほどの憎しみと殺気に満ちた代物であった。


「なに?こちらに向かってきているだと」

「ええ、はい。ジュラルミンやDG幹部を魔法で操っていたその魔法使いは私たちを罠にはめ空中に隔離しようと図ったんですよ」

「ですが、ハーネイト様はどうやら大魔法でその空中要塞を吹き飛ばしたようです。それで逃げて最後の手段に出てようとしているのではないかと、私は思います」

「そうか、そうなると、あと一息ということか。状況はまずいことに変わりはないが、これを乗り切れば勝利は確実じゃな。ところでおぬしらの名前は?」


 リシェルたちは今まで何があったのか事の経緯を手短に彼らに話し、それにうなづきながらガルバルサスはハーネイトを心配していた。けれど敵の最大の拠点は彼が壊した。ならばあともう少しだと期待と希望を彼らは抱いていた。そして説明を聞いた後で忍者たちに声をかけ何者かを説明するように求めた。


「南雲・星影流星と申します。霧の里から来ました忍者です」

「風魔・蓮・彩奈と言います。南雲と同じくハーネイト様に雇われている忍者です」

「ドロシー・ステア・ミカエルと、妹のルシエルです」

「よろしくお願いします」

 

 ハーネイトの活躍や話を聞き、力を貸す者たち。数は少ないが一人一人が強力な力を持つ存在。それを聞いて安心したガルバルサスは不敵な笑みを浮かべてから再度状況と任務の確認を行う。


「有無、頼んだぞ。そういや孫から連絡があったが、今回儂らの仕事は魔法使いが召喚する可能性のある怪物退治でよいのだな?」

「え、ええ。魔法の適正がない人が魔法使いと戦えばまず負けます。ですがそれ以外の敵でしたら、通常の兵器も効くはずです」

「了解した、全軍に伝える」


 ガルバルサスが自身の率いる軍とその他連合軍の仕事内容について確認を再度行い、それにミカエルが補足説明を行いつつ、魔法使いとは戦わないようにと彼に伝えたのであった。

 ラー遺跡に集まった兵は機士国軍15万、ハルクス龍教団が1440名、バイザーカーニア関係者340名、レイフォン騎士団50名、そして日の国から歴戦の3人の戦士、八紋堀、郷田、田所であった。それにハーネイトとその仲間を合わせ、いつ敵が来てもいいようにすでに部隊の展開や待ち伏せの準備は完了していた。

 そしてガルバルサスは一旦その場を離れ、自身が率いる軍に伝令を行った後、ミカエルたちのもとに戻ってきた。


「通達は終えた。そして、あの研究者によればあと10分もすればハーネイトと、例の魔法使いが来るそうじゃな。しかし、便利な技術を開発したのう」

「そうですな。確かに地図とそれ以外の情報を逐次更新しつつ表示できるのは、戦略的にも、戦術的にも大いに影響を与えると思うでござるな」

「時代が、大きく変わろうとしているのだろうな。だが、それを受け入れていかなければならない」

「そして、その先の未来を奪おうとする輩には、退場してもらわなければならない」


 ハーネイトがやや無茶をして、研究者たちの救出に向かい確保したことはとても重要であった。機士国の研究者たちが力を合わせ、効率よく敵をたたけるように指示するこの試みはまだその内容をすべて把握できていないものにも、必要なものであると認識させるほどのものであった。何せ遺跡周辺は途轍もなく広大な平地であり、大軍同士が戦えば戦場の情報は混乱するだろう。けれどこちらは情報面での支援がある。今までの戦い方とは違うものになれど、戦士たちは柔軟に受け入れようとしていた。

 そんな中、彼らに声をかけたのは少し遅れて到着した日之国の侍たちであった。 


「おお、八紋堀影宗、そして田所誠か。日之国の精鋭戦士も、呼ばれた口かいのう?」

「ええ。少しでも防衛の成功確率を上げるためにですね」

「そうだな。敵が何せあのジルバッドを打ち破った魔法使いだ。何をしでかすかわからん」


 そう話しているうちにも、この星最大の脅威であり災厄が今にも上空に到着しようとしていた。


「はっ、この感じは。おそらく来ます!あの方角からハーネイトさんの気と、もう一つ、とてつもなくぞわっとする何かが!」

「研究者たちも同じことを言って居るのう、さあ、歯を食いしばれ若人ども!」

「どうやら、いよいよみたいね。南雲、行くわよ」

「へいへい、ここで首級を上げてやるよ!」


 エレクトリールはわずかな大気の乱れを感じ取り、周囲に伝える。するとリシェルも南雲も、風魔も素早く戦闘態勢に入り、予想到着領域に向かって走り出した。

 特にエレクトリールは、今まで戦ってきた敵の中で最も危険な存在なのではないかと思いつつも、内心そういった脅威と戦えることについて喜びも見出していた。これが彼女の流れる戦闘民族の血というものである。


「くっ、思ったより足が速い。万全の準備はしているものの、くっ!」

「出たとこ勝負かもしれねえな。俺らはハーネイトの邪魔をさせないように立ち回る。伯爵、か。おまえはハーネイトの傍にいろ」

「けっ、命令されるのは好きじゃないんでね、好き勝手にやらせてもらうぜ」


 そんな中、空中を激しく飛行するセファスを追いかけ追撃するハーネイトたちは連続で魔閃や菌閃、光弾などでラッシュをかけるが鮮やかによけまくる。しかしその攻撃は罠であり、気づかれないうちに味方の対空砲火の射程範囲内に追い込むように、連携を決めながら攻撃を加え続ける。


「くっ、なんてしつこい。しかし、なんとしてでも姉さまの計画は、阻止せねば!一人だけになっても、私は、私は!」


 彼女には明確な目的があった。いや、正確にはこの女の中に宿っている邪神の意思であった。遺跡にあるカギとなるアイテム。それを壊しその際に溢れ出るエネルギーを吸収すれば、自身を追放した存在に一矢報いることができる。親を封印し全てを我がものとする女神を倒すため、どんな状況にあっても彼女は諦めようとしない。その邪神の名前は、ヴァルナーティクスというヴィダールティクス神である。


「な、なぜ遺跡にこれだけの人が!ってきゃああああああ!」


 そしてこのセファスオスキュラスという女性は半ば邪神に騙されていた。いや、彼女はその負の感情を利用されていたに過ぎない存在であった。そして追撃をようやく振り切り、目的地である遺跡に到着するな否や、空を埋め尽くすかと言わんばかりの程の砲撃が地上から放たれる。それは機士国の兵たちが持つ銃であったり、リシェルたち魔銃士の魔閃、さらに魔女たちの放つ魔法にエレクトリールの電撃、ありとあらゆる攻撃が彼女に対し一斉に向けられる。それをぎりぎりでかわすも、動揺の色を隠せずにいた。


「そらそら、魔女が来たぞ!撃て撃て!」

「こちらも遠慮なくぶっ放すわ!」


「激しい、ぐぬぬ、しかしな!」


 もはや回避するための空間すら残さない砲撃を巧みな飛行魔法でかわしつつ、彼女は手に力を込めて不気味な魔法の詠唱を始めた。それは、この星の魔法使いの間では禁術中の禁術であった。


「今からこの地は、阿鼻叫喚に包まれる。死者の魂よ、我に従え、そして呼び覚ませ!」

 それは死者を冒とくし、一時的にかりそめの魂をよみがえらせゾンビとして戦わせる死霊術であった。そして彼女の放った黒いまがまがしい球体が地上に落ちていき、着弾と共に邪悪な気が広がっていく。それを肌で感じたリシェルたちは、まるで極寒の地にでもいるかのようなおぞましい感覚を覚えていた。


「あの魔法使い、地面に黒い何かを落としたぞ。気をつけろ!」

「あ、あれは。死霊術!死者をもてあそぶ禁断の術だわ」

「姉さん、やはりあの黒い女が、父さんを殺した犯人!」


 リシェルとエレクトリールは周囲に注意を促すも、すでに魔女の術式は始まっていた。そう、地中からけたたましい轟音と振動を伴い、巨大な骨だけの魔獣や骨兵、ゾンビなどが大軍勢に匹敵するほどの規模で出現したのであった。

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