第8話 機士国王たちの危機、巨人の襲来


 2人はひたすらリノ街道を突っ走る。早く、より早く。二人の足はさらに加速する。鍛え上げた肉体がうなり、道を蹴って風のように突き進む。


「そろそろですよ。って何ですかこれは。無数の機械兵と生物らしきものが人間を囲んでいます」


 するとエレクトリールが若干慌てながら道の先に指を差した。その先をハーネイトはよく見て、敵の戦力を素早く分析する。


「軽く100は確認した。しかも魔獣の群れまでいやがる。エレクトリール、あの包囲網を切り崩すぞ。この距離ならわかる。国王たちだ!ようやく見つけた!」


「はい!早く囲まれた人たちを助けないと!」


2人は敵性集団を肉眼で捕らえた。少しづつハーネイトの纏う雰囲気が鋭く、声もそれに比例し低くなる。


 解決屋として、そして魔獣殺しの異名を持つハーネイトは刀を鞘から少し抜き、居合の構えになりながら魔力を背中から放出、エレクトリールはイマージュトリガーを使い、見た目が厳つく重たそうな銃をトリガーの先に召喚する。


 それを持って2人は、タイミング良く敵の群れに対し突撃を仕掛けたのであった。

 

 その少し前、一方の包囲されている方は圧倒的な数の前に逃げ道を失っていた。


「一体なんなのよ!機械兵だけでなく魔物まで、数が多すぎるわ。もう魔力もほとんどないし、迷彩もしばらく使えないわ」


「泣き言を言うな、アンジェル。身を盾にしてでも王を御守りせねば。ハーネイトの事務所まであと一歩だ。こちらのことを探しているだろうし来るはずだ!」


「分かっているわよ兄さん、さあ、かかってきなさいこの化け物たち!」


 2人はそれぞれそう言いつつ愛用の武器を構える。髭を生やした大男は大剣を、長髪の少女はリボンのような剣を手にしっかりと握る。


 この2人こそハーネイトが探していた人物の部下たちであり、男の方をルズイーク、女の方をアンジェルと呼ぶ。機士国王の近衛兵であり、最も王が信頼を置く人物である。 


 代々王を守護する家系に生まれた二人はハーネイトの教えで魔法も使いこなせる実力を持っており、機士国の人間としては貴重な存在である。そして歴戦の戦士でもある二人だったが、多勢に囲まれ二人は正常な判断がしづらくなっていた。


「私も剣を振るうしかないな。こんなところで、倒れるわけにはいかないのだ」


 すると、貴族が着るような紫色の、荘厳な衣装に身を包んだ青年が剣を抜きそれを天に掲げた。


 この青年こそ、機士国王アレクサンドレアル6世である。11歳の時に先代の王である父が病に倒れ、すぐに王の地位を引き継ぐことになった若き王様である。


 争いを好まず、民に好かれる良き国王でもあり、クーデター以降も機士国にいる多くの人間は、王の帰りを待っているのである。


 ハーネイトも、以前機士国の下で2年働いており、王の人柄や性格について高い評価をし共感している。だからこそ定期的にやり取りをしていたのである。


 しかし彼らはハーネイトにある大事なことを話していなかった。いや、話すことができなかったと言える。


「しかし、誰か助けが来ないものかしら……」


 アンジェルがあまりの敵の多さに少し弱音を吐いた。それにルズイークが気楽に声をかける。


「期待せん方がいいなアンジェル。取りあえず、包囲さえ抜ければいい」


「2人とも来ますよ。構えてください、ここを突破します」


 アレクサンドレアル王が剣を抜き、鋭い眼光で敵を睨み付ける。そして魔物が一斉に、彼ら三人に襲いかかろうとしたとき、彼らの目の前で異変が起きたのだ。


 それは突然の雷光と鎌鼬であった。それらは荒れ狂う暴風のように合わさりながら魔物と機械兵に襲いかかり、魔物の半数を瞬時に消滅させたのである。


 その突然の出来事に3人は動くことができなかった。しかしそれが自身らを守ってくれたものであることはすぐに理解できたという。


「一体何が起きた、のか」


「まさか助けが来てくれたの?」


「アンジェル、まだそう判断するのは早い。しかし一瞬でここまで頭数が減るとは……ハハハ、ようやく来たか!遅いぞ全くよ!」


 ルズイークは突然の事態に驚きながらも、雷光と鎌鼬が飛んで来た方角を見た。そして国王はある男の姿が脳裏によぎったその時、猛スピードで3人の前に2人の男が走って来たのだった。


 土煙が舞い上がり、落ち着いたころ2人の顔を見て、ルズイークは思わず彼の名を叫んだ。


「ハーネイト!ハーネイト・ルシルクルフ!やはりか。これで勝ったな。戦神が来たからにはよ!」


「間一髪で間に合ったか。国王はご無事ですか?」


「やはりハーネイトか。久しいな。助太刀感謝する。私は無事だが敵の数が多い、どうにか突破したいのだ」


襲われていた3人は、ハーネイトの顔を見て安堵の表情を見せた。国王は無事であることを伝えるも、この包囲網突破をハーネイトに依頼する。


「そなたの方から出向いてくれて助かった。礼を言う」


「ハーネイト!ずっと探してたのよもう!話したいことたくさんあるけど、まずはこいつら片付けるのを手伝って!あんなのに食べられたくないわ!」


ルズイークとアンジェルの言葉からもハーネイトは早急な事態の解決が必要と判断する。


「無論、話は終わったら聞かせてもらうよ。突破とか生温いことよりも、殲滅と洒落込むか」


「久しぶりに戦士の血が疼きますね。全部仕留めてもよいのですね?」


「遠慮はいらない。先にこちらから行く。……創金の理はあらゆる運命を切り開く。イメージは「針の筵」解き放て!創金剣術(イジェネートブレイドフォース)「剣陣(ブレイドサークル)」


 剣先に力を込め左右に回転させた後、ハーネイトはその刀を垂直に地面に突き刺した。


 すると機械兵や魔物たちの足元が影よりも黒くなり、そこから無数の金属でできた剣が敵対するものを貫き絶命に至らせた。 


 創金剣術「剣陣」は目標の地下に、創金術で金属を液体に変化させ流し込みそこから剣を形成し敵を貫く攻撃技であり、死角からの攻撃をよけるのは困難である。


 それと恐ろしいのが、目で捉えている標的全てに対し攻撃を行える利点があり破壊力も高いと言う点がある。


「妖刀・藍染叢雲(あいぜんむらくも)…曰く付きの刀だがどうだ、ん?」


 彼が常に帯刀しているこの漆黒の日本刀。銘を藍染叢雲(あいぜんむらくも)と呼ぶ。


 超合金や特殊繊維ですら空気を切り裂くかのように断ち切る鋭い切れ味を誇り、彼が旅に出てからずっと使用している近接武器であるが、この刀は途轍もない曰く付きの刀でもある。


「あれだけの軍勢が一瞬で。相変わらずだな、そのおぞましいまでの力は」


「相変わらず容赦ないわね」


「ああ、本当に強い、圧倒的だ。この状況下を一気にひっくり返す。これだ、これこそハーネイトの力だ。ガムランの丘のことを思い出す」


 3人がハーネイトの実力を久しぶりに見て驚嘆するのも束の間、再度敵陣を稲妻が貫いた。その電撃は幾多に分かれたのち、直撃した機械兵をまとめてバラバラに砕いた。


「私だって!電池銃・放射形態。放て、ブリッツバスター!」


エレクトリールが電池のような物を銃に込めて、素早くトリガーを引く。そして銃口から無数の電撃とけたたましいほどの轟音が周囲に広がり、それらは残りの機械兵やわずかに残った魔物すべてを正確に捉えると無慈悲な一撃を与えた。


 その直撃を受けたものはすべて感電したまま、体を地に伏せたまま動かなくなった。


「私の力、侮ってはいけないですよえへへ」


「エレクトリールは戦うのが得意なのだな」


「え、ええ。……一応、軍人ですし」


「そうだったな。ってまだいるのか。北の極地 凍土の板 万物干渉し脆氷の定めを負う 凍てつく身、氷夢に酔いしれろ!大魔法41の号・白魔寒嵐(びゃくまかんらん)!」


 二人の勇猛に恐れおののく魔獣と残りの機械兵たちは後退を始めていた。それを逃さんとハーネイトは魔法を詠唱しながら印を組み、氷系の大魔法「白魔寒嵐」を発動した。


 すると大気の温度が急激に下がり、強烈な寒風が吹き荒れ、敵に襲い掛かる。それを食らった魔獣たちはたちまち凍結し、その場で生命活動を止めたのであった。  


「さ、流石です。ハーネイトさん、本当に魔法使いなのですね。でも、魔法って一体何なのでしょう」


「フッ、それは自然の中にあふれるエネルギー、魔粒子(マカード)を借りて行う自然現象の再現ってものだな」


 エレクトリールはハーネイトの放つ超常現象の数々について、どうやってそれを発動しているのかが気になって仕方がなかった。それについて簡潔に説明した矢先、別の何かが来るのを感じ会話をやめる。


「ふむふむ……ってこちらに何者かが向かってきています。魔物ですか?いや、あれはっ!」


 エレクトリールがそう叫ぶと、街道の向こう側から大きな体躯の男がハーネイトめがけて飛び掛かり、手にした巨大な斧剣で真っ二つにしようと上空から叩きつけるように攻撃してきたのである。


「ちっ、狙いは私か。魔を統べて 災厄祓いて 重ね広がる絶対の盾 強固なる意思が幻を紡ぐ!大魔法92の号・離盾装光(りしゅんそうこう))」


 ハーネイトは、わずかな時間の間に素早く詠唱し、襲い掛かる男が繰り出す強烈な一撃を刀に展開した魔道防壁、いや大魔法「離瞬想甲」で受け止める。


 瞬時に幾層もの魔力結界を張り、任意の事象を無効化する防御・補助系の大魔法であり、一回だけどのような威力の攻撃も完全に防げる便利な技である。


「がっ、凄まじい力だ。ぐっ、この!」


「ぬうううううう!」


 ハーネイトは力負けしないように背中と足から魔力を噴出し勢いよく、防壁を押し出すようにその男を押し払う。そして吹き飛ばされた大男は、ゆっくりと立ち上がりながらハーネイトの方を見て言葉を発する。


「貴様、何者、だ。魔獣全部消えた。強い奴か?」


「何者だって、そっちから名乗ったらどう?」


「ぐぬう、俺はユミロ。ユミロ・ネルエモ・アレクサス!メルウクと言う星から来た!」


 目の前にいる男の名はユミロと言った。4mは超える筋骨隆々の、黒褐色の鍛え抜かれた肌が美しい、何本も緑の髪を伸ばし固めた赤目の大男。そして膨張した筋肉で覆われた肩には、何かが取り付いているように見えた。


 ハーネイトは、今まで見たことのない存在に目を奪われていた。魔獣や魔物の類ではない、しかし巨大な人間らしき存在。その体にまとう闘気は只者ではない威圧感を放っていた。


「ユミロか、私はハーネイト。ハーネイト・ルシルクルフ・レーヴァテインだ」


「ハーネイト、か。覚えた。少し、勝負付き合え!」


 そういうとユミロは再びハーネイトに向かって突進し、強烈な体当たりをぶちかまそうとする。


「くっ、一体何が目的だ。翻ろ、紅蓮葬送!」


 ハーネイトはすかさず紅蓮のマント「紅蓮葬送」を展開し、身を守るように2枚のマントを前面に繰り出す。


「ぬおおおお!俺、DGの幹部。この星、襲いに来た!」


「ぐっ、凄まじい力だ。なぜ襲いに来た!答えろ!」


 ハーネイトは地面を踏ん張りながら、ユミロの突撃を抑え込む。


「ちっ、なんて力だ。魔力補助では短時間しか持たない。かといって、これ以上魔法詠唱の隙は作らせてもらえないな。ニャルゴだけでも連れてくれば距離を取りながら大魔法をぶち込めるが……っ!」


 ハーネイトはユミロの雰囲気と動きから、魔法戦で戦わせてくれる余裕はなさそうと踏んだ。そして使い魔を誰でもいいから連れてくればよかったなと少し後悔していたのであった。


「霊界の王、作り上げるために星を襲ってきた。こない、のならば俺、から、行く!ヴァリエンテ・アタッケル!」


 ユミロは離れた間合いから瞬時にハーネイトの目の前に瞬間移動し、手にしていた斧剣でハーネイトを全力で叩きつけようとした。しかしその行動にハーネイトは反応した。


「そうはさせない。紅蓮葬送・紅蓮魔手(クリムゾンキャプチャード)!」


 ハーネイトは紅蓮葬送を前方に高く持ち上げて、巨大な手を作り出すとユミロの一撃を其れで受け止め、それを打ち払う。その一瞬の隙をついて藍染叢雲でユミロの胴体を2回切りつけた。


 その一撃でユミロは後退するも、受けた傷はかなり浅く、その強靭な耐久力にハーネイトは警戒していた。

 

 堅いものに対しては滅法強くも、柔らかいものを斬るのに関してはこの藍染叢雲、若干不得意な面が存在した。それを把握していてもユミロの耐久力の高さに驚かざるを得なかった。


「ハーネイトさん、今加勢します」


「ここは一人で十分だ!、ユミロに聞きたいことがある。このっ!」


 ハーネイトは隙を伺い、再度突撃してくるユミロの巨体を左にかわしながら空中にバク転して距離を取り土煙を上げながら着地する。まだユミロの勢いは衰えていなかった。


「こんな奴らまでいるのかよ」


「たくましい巨人だわ」


「ハーネイト、もしかするとそやつ、DGに星を潰された種族かもしれん。20年前の記録にもその男と同様の存在が来ていたことを思い出した」


「ああ、昔読んだ本の中に、似たような種族がどこかにいると、書いてあった!」


 アレクサンドレアルはかつてまとめたDGに関する資料の中に、潰した星の住民を兵士に仕立てる特徴があることを思い出し、かつて襲来した際にユミロと同様の巨人がいたという情報を思い出した。


「ユミロ、答えてくれ。DGとは一体何者で、何のためにお前は戦っているのだ?」


 ハーネイトの言葉に、ユミロはその場からじっと動かなくなり、体を震わせていた。そして彼は大声で悲しそうに叫んだのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る