Code92 エレクトリールの正体 1
「そうですか。ハーネイトさんは、何のために戦うのですか?」
「戦う、理由か。そりゃあ、今まで出会ってきた人たちの笑顔を守るため、さ」
「本当に、それだけの理由であそこまで力が出るのですか?」
エレクトリールには、ハーネイトの言葉がにわかに信じられなかった。それだけで本当に剣を取り大勢の敵に立ち向かえるのかと。それに対しハーネイトは、落ち着いた口調でなぜそうなのかを説明する。
「そうなるように、体ができているんじゃないかって最近思うようになってきているよ。誰か一人のために戦うってのも、普通の人ならそれでいいと思うんだろうけど、異性を意識したことがない。いやすることができない体だし、その時点でもう普通の人が手に入れられる幸せは求められないのだなって」
ハーネイトのその言葉にエレクトリールは無性に悲しくなった。あれだけのことを成し遂げながら、手に入れられないものがあるなんて。しかもささやかで誰もが本来手に入れられるはずの感情を手に入れられない彼がどれだけつらい思いをしてきたのだろうか、返す言葉に困るエレクトリール。それでも彼を励まそうと言葉を紡ぐ。
「そ、そんなことないです。私は、ハーネイトさんにもっと、個人的に幸せになってほしいです。きっと、そうなりたいと願えば手にすることはできますよ」
「そこまで言い切るか、確かに、自身のイメージをそのまま実現させる能力をうまく使えば、それもできなくはない」
「でも、使いたくない理由があるのですか?」
「もしそれで誰か一人を好きになってしまっては他のみんなが困るかなって。だからそういうのは距離を一歩置こうって。それに他の人に触れると、何故だか体が痛くなってね。普段痛みとか鈍いんだけど、不思議だよね」
他にも事情があることを知らず、昨日あのような物言いをしたことに対しエレクトリールは反省していた。
ハーネイトは昔から、自身の感覚が他の人に比べ鈍いところがあるのを自覚していた。それは痛覚であり、彼が防御を無視した荒っぽい戦い方をするのも自身の異常な再生能力と痛覚の鈍さが原因であった。しかし彼が痛みを鋭く感じるときもあった。それが、他人に触れられることだと言う。
「ハーネイトさん。本当に、昨日はごめんなさい。あなたのことをもっと知っていれば、あのようなことには」
「いや、それはこちらが謝ることだ。それと、エレクトリールはそんなに私に上に立ってほしいのかい?」
「は、はい。私は、あなたのようなお方に仕えられるなら全てを投げ売ってでも、そうしたい。そしてその作り上げた世界を見たいのです」
彼女の必至な言葉に、ハーネイトは複雑な顔をしながら言葉を返した。なぜこれほどまでに、自身を上に立たせたいのかがよく分からなかったのであった。
「言うねえ、しかし人並みの幸せも知らないまま、王様になっても民たちのことをどれだけ理解できるだろうか。ましてや、人じゃない俺が上に立てば怖がられるだろうね」
「そ、それは」
エレクトリールはハーネイトの言葉を聞いて口が止まった。自身がどれだけ彼のことをわかっていなかったか、それに気づかずいやなことを言ったと彼女は思ったからである。
「王様になるっていうなら、それまでに普段暮らしている人たちのように、さまざまなものに挑戦したい。まだまだ、未熟だと私自身が感じている。休暇もそのために欲しいんだ。そうしてもっと人に近づいた時、改めてどうするか考えたい」
ハーネイトはもっと日常のことや周りにいる人たちが楽しんでいるものを更に理解したいといった。それがわかってから、その時にもう一度考えたいと冷静に、エレクトリールにそう説明した。
「ハーネイトさんらしいですね。私はその答えを聞いて安心しました。理由があるのでしたら私は待ちますし、少しでも協力したいです。あ、あと一つお願いがあります」
「どうした?」
「ハルディナさんにしたように、思いっきり抱きしめてほしいのです」
「……わかった。それでいいなら」
そうして、ハーネイトはゆっくりと近づいて、エレクトリールの体をぎゅっと抱きしめてあげた。
「本当はね、冷たい体を感じられたくないんだ。冷えているのがわかるだろ?」
「でも、気持ちいいです。ずっと、傍にいていいんですよね?」
「勿論だ。気の済むまで、好きに」
「えへへ、私はあなたに出会えてよかった」
触れられて細胞が痛みを覚える感覚に加え、エレクトリールの帯電した体がハーネイトの肉体に負荷を与えるが、それでもハーネイトは笑顔を絶やさずエレクトリールをしばらく受け止めていた。そうして落ち着くと、異変はすぐに訪れた。
「なので、ハーネイトさん。私を、私のすべて、受け止めてください!」
そういい、エレクトリールがハーネイトの顔を見つめた瞬間、ハーネイトは直感で危険を察した。だが一歩間に合わなかった。
エレクトリールは突然体から高圧の電気を発生させ、ハーネイトを感電させようとしたのであった。
「ぐ、ぐおおおおおお!」
今まで浴びたこともないほどの強烈な電圧に体がついていけなかった。そして必死に逃げようとするも彼女の抱きしめる腕の力が、華奢な見た目に反して半端なく強く、ハーネイトは必死に電撃に耐えながら隙をついて魔法で数メートル後方にワープした。
「がはっ、魔法防御がなかったらお陀仏だった。どういうことだ、エレクトリール!」
体の所々が黒焦げになり、片膝をつきながらハーネイトは鋭い目つきで彼女に理由を聞いた。しかしエレクトリールは彼の姿を見ながら、何か恐ろしいものでも見たような表情をしていた。
「やはり、貴方は私の。私の選んだ人」
エレクトリールは、目にうっすら涙を浮かべ、悲しさと嬉しさが同居した顔になっていた。
「どういうことだ。まさか、私を殺そうと?」
「半分は、そうです。しかしあなたは私の電撃に耐えられました。通常ならば即死してプラズマとなるところです」
それを聞いたハーネイトは久しぶりに恐れを抱いていた。彼女が何を考えているのかがわからなかったことと、その驚異的な電撃。サルモネラ伯爵と死闘を演じた時に初めて、死というものを理解したが、今のそれは過去の戦いで感じたものに匹敵するほどであった。
「はあ、なぜ試す真似をした!しかも不意打ちとは」
「本当に、すみません。私はもう、私の能力で好きな人を殺したくないのです」
そういい、彼女は話し出した。ハーネイトは静かに魔法で傷を治しながら話を聞くことにした。その中で、彼は驚愕の真実を知った。
「私は、DG幹部執行官、一番官です」
その言葉に、ハーネイトは顔が引きつっていた。そして最初に出会った頃のことを思い出しすぐに気になった点を質問した。
「じゃあ、なぜあの時手負いでここに来たのだ?それと星が襲われているというのは?」
その言葉に、彼女は重い口を開き、泣きそうな顔を見せながら彼の顔をじっと見つめていた。
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