夏野けい／笹原千波

多くを語ることはしたくない。 ただ溺れるように読み、喪に服すように余韻に浸ればいい。 言葉のつらなりは美しい。贅を尽くした、と言っても構わないだろう。けれどここに余計な煌びやかさは…続きを読む

錬金術師のおじいちゃんに育てられたフローリアは、階段から転げ落ちた拍子に前世の記憶を取り戻す。 そこから始まるのは、（なぜか）焼き鳥をめぐるドタバタ冒険劇なのでした。 難しいこと…続きを読む

通勤中に読めば元気になるかもしれないお仕事小説。 短く軽いエピソードが詰め合わされているので、ちょっとした時間にも読めますし、それぞれの話の読後感も良いです。 魅力的な登場人物たち…続きを読む

　読み心地のなめらかさと美しい喪失感は一級品。隅々まで堪能してなお触れていたい文章だった。 　彼女は忘れられたくないと言ったが、誰が忘れられようか。彼は当然そうだろうが、彼の言葉に…続きを読む

剥き出しで生々しい感情に溢れた作品。ひとりの人間のうちに渦巻くものを余すところなく表現している。 恋としては不完全な、ひとりよがりなものだけど、彼に訪れた思いのすべてが本物なのだと…続きを読む

　男子高校生の語りが、ぽつりぽつりと同級生の女子を描き出す。夜の公園に姿を見つけてから二人が交わるまでは長く、その交わりだってごく淡いものと言っていい。 　けれどこれは紛れもなく青…続きを読む

才ある者の悲しさと強さを見ました。どこを切っても美しい絵巻物のようでした。彼女のやわらかさ、かたさ、声に通る芯まで感じられました。 春琴抄の雰囲気を引き継ぎつつ、香るような包み込…続きを読む

真っ白い雪原の上に、切なく静かに感情をこぼしていくようなお話でした。 手紙を書くような明確さでは伝えられない気持ちを、折り鶴はたしかにあらわしているようでした。 何か言ったら負け…続きを読む

この物語に描かれるのは喜びではない。悲しみでもない。だけど感情が揺れる。 笑うときにも泣くときにも震える、根っこのほうの感情なのではないかな、と思った。 抱きしめられる温かさも、…続きを読む

季節ごとの「会えない」を描く短編集。ときにビターに、ときに甘く。そのどれもが後を引く切なさをまとっている。 勝手な想像だけど、春は桜の塩漬け入りのホワイトチョコレートかなぁ、とか…続きを読む

カフェオレはコーヒーともミルクとも違う。コーヒーほどの刺激はないけれど、ミルクよりは大人の味。 主人公の痛みはきっと消えない。でも、ふたつがまざる魔法をかけたら、苦さはやわらいで新…続きを読む

傷は決して消えない。はじめては一度きりだし、取り戻せない。 だけど、それでも信じたい。愛する人の優しい手が、どうしようもなく傷ついた彼女を救ってくれることを。 読後、私の心にも…続きを読む

ツイッターを見ているとこういう雰囲気の投稿が流行っているのにたまに出会う。それを短編のボリュームで見事に表現されていると思う。 軽やかでほんのり毒が入って、疲れているときでも思い切…続きを読む

浮かぶ情景が美しく、優しいのが印象的でした。なんてことない出来事も、やるせなさも、心の持ち方とふとした出会いが特別にする。そんな瞬間の物語です。

一行目から匂い立つような言葉。色気のある文章を支えるのは知識であり、歴史だ。過去に生きた男たちの血と肉が、まざまざと目に浮かぶようだった。 見えるのは一万字の文章に過ぎずとも、裏に…続きを読む

はなびらでも花びらでも花弁《かべん》でもなく、花弁《はなびら》と振られている。漢字の端正で硬いイメージの奥に、はなびらの柔らかさが覗く。 主人公は花が嫌いだ。それがなぜなのか、現…続きを読む

作品全体をつらぬく倦怠感。どこか甘ったるい紫煙。 身を削って、心を削って世界を救わねばならない人間のことなど考えたことがあるだろうか。ファンタジーではあるが、ここには本当の戦場があ…続きを読む

水色が満ちて、広がる。 なにも色だけではない。この物語は水色に多重の意味を与えている。 丁寧に塗り重ねられた水色を解題するのは無粋だろう。怪しげにして軽妙な男の声が水色を語るたび…続きを読む

人間とアンドロイド。似ているがゆえの不気味さに、長らくその関係性は不幸なものだった。そして、今は？ これはアンドロイドを人として扱う変わり者の作家と、仕えたアンドロイドの物語だ。…続きを読む

電車の中で読んではいけません。笑いをこらえて噛みしめた唇が痛い。 戦場の常識しか知らない勇者様が巻き起こす騒動、黒星に次ぐ黒星。果たしてリリィは伴侶を勝ち取れるのか。 読んでい…続きを読む

美しく結ばれた朝露は、昼になれば消えてしまう。その名を持つ少女もまた、言いようのない儚さを抱えていた。 彼らのあいだに結ばれた縁も澄み通って淡い。けれど、朝露は見た者のなかに美し…続きを読む

世界は天蓋に覆われていて、月はそこに開いた穴。謎めいた女は、断崖の上で男に語る。夜の邂逅は彼に力を与え、話の続きを望むが……。 きらめく星々のような死生観、静かにして熱狂を秘めた…続きを読む

八千代さんは画像のなかの「写ってはいけないもの」を食べる。かつて八千代さんのあるじだった先輩は消えてしまった。 奇妙でありながら強い設定は、読み進むほどに肌になじんだ。全体に暗い…続きを読む

キャッチコピー・タイトル・あらすじで大体の魅力は伝わりそうだが、あえてここで何か言うならばキャラクターだろうか。 軽快に物語を回す人々はコミカルでどこか愛らしく、ほんのちょっとだけ…続きを読む

前作からのファンなので、もう愛しすぎて顔面崩壊です。 サンタのおじさま、なんて言い方でもう！　もう！ 糖度上がりまくりの続編、堪能しました。 初めての方は、まず馴れ初め編『なんでも…続きを読む

少女は本が読めない。文字に溺れてしまって。 でも彼女の言葉はとても詩的だ。溢れ出る比喩、描写、かろやかで自由なあらゆる表現。 読みはじめたときには違和感をおぼえるほどだった豊かさ…続きを読む

ぱんつぱんつ言ってますが、いたって真面目です。 学校の雰囲気や彼女たちの戦いが瑞々しくて、青春の匂いがそこかしこに漂っていました。真面目でおとなしい主人公が勇気を出して立ち上がる…続きを読む

感情のある人形という設定と、なめらかで美しく、なつかしさゆえに切ない独白に導かれてするりと読んでしまいました。 短編ですし、あまり多くを語るべきではないかと思いますが、最後に広がる…続きを読む

金色の海辺の第一印象が美しく洒落ていて切なく、次にくる灰色の現実に打ちのめされました。語り口もこなれて格好良く、粗暴さもありながら教養を感じさせる。横たわる灰色の現実に対して、黄金…続きを読む

昔話を読んでいるかのような、型の美を感じるお話です。 人間はいつも、誰にでも優しくあれるわけではない。けれど、できる限りの行いが素晴らしい温かさを生むことがあるのだと感じます。 …続きを読む

なんだこのあざとい猫ちゃんはー！
そう思いつつ美味しそうなお魚につられて読んでいると、彼女（？）の秘密が明らかになっていきます。
たどり着いたラストにほっこり。良い読後感でした。

いちいち言い回しが懐かしい感じの幽霊さん。 なんでもキスをすれば成仏できるんだとか。 でも主人公はもうすでに彼女のことが大好きで、消えてほしくないからキスができない！　なのに彼女…続きを読む

一話目の主人公は料理屋の店主だ。 世界の終りが予告されている日、彼女は店を開く。やっと持てた自分の居場所。それでも、郷里の家族のことは気になる。 美味しそうな料理とともにその心のゆ…続きを読む

異世界の文明の利器、オートクレーブ。 まだ見ぬそれを作るため集められた主人公たちだったが……。 どうやら違う目的で使われてしまいそうな予感がしはじめました！　軽くポップな文体と、…続きを読む

どこまでも温かく描かれているのに、背景にはずっと淡い哀しみが流れているような気がした。願った年月に対して夢を見ていられる時間のなんと短く、切ないことか。 異世界転移をテンプレから外…続きを読む

この物語の主人公は人間ではない。サンタクロース、それも人類の滅んだあとの。プレゼントを贈るべき相手を探す旅路はあまりに切ない。 端正な文章で綴られる「また会いたい」という想いが胸…続きを読む

この作者さんの描く青春が、私はとても好きです。 たまらないほど輝かしくて、でも遠くにうっすらと、いつか戻らなくなってしまう限りある時間なのだという予感があるのです。 肉体も精神も…続きを読む

軽やかに転がっていくラブコメの主人公は、パシ……じゃなくて、何でも解決するマン！ 冒頭から笑わされて、完璧美少女なヒロインとのやりとりに引き込まれていくうちに、彼らの背景がゆっく…続きを読む

主人公が拾ったペンギンは明らかに普通でない。食べたものはシロップをかけたかき氷（大量）やらステーキやら。 怪しみながらも、鮮やかな夏の空気のなかで親しみは育っていきます。うっすら…続きを読む

チョコレートと死神、意外ながら近しい感じもする取り合わせがまず美しい。文章もさりげなく上手いです。 主食たりえないチョコレート同様、死神もこの作品において主人公の人生を大きく左右…続きを読む

夢を追う少女と人並みに夢を諦めたサラリーマン。少女の夢は大きく、傍目にも分が悪い。いまは若く強く、まっすぐに目指しているけれど、いつか折れてしまう日が来るのかもしれない。ひたむきさ…続きを読む

飾り気のない、筋書きそのもののような素朴さがあり、だからこそストレートな甘さを感じる作品です。 元気のないときでも楽しめること請け合い。 投稿サイトという場だからこそ生きる物語で…続きを読む

同じ企画に参加していたのですが……この作者さんの速さ、クオリティ、話の面白さには毎回舌を巻いていました。 舞台設定とキャラクターにはこれでもかと個性があり、先の読めないお題を自然…続きを読む

久しぶりにフォロー作品を眺めていて、そういえばレビューをしていなかったなと。 日付を見たらもう二年半が経っている。今見ても美しい企画だと思う。主催のななせさんの真摯さと参加者の熱…続きを読む

本当に、ため息しか出ないうつくしさだと思う。

光を、空気を、切なげな横顔を、こんなにも鮮やかに表現するひとを私はほかに思い描けない。
また、この雨に降られに来たい。

淡白で明瞭なストーリーなのに、何度も読み返したくなるのはなぜだろう。 登場人物の人間らしい魅力もそうかもしれないし、舞台となるお店の雰囲気が良いからかもしれないし、あるいは語りすぎ…続きを読む

誰しも子どもだった頃があって、ひらがなで書かれた成績に一喜一憂したことがあって、未完成な思考と感情で傷つけあったことがあって。大人になれば忘れてしまうような仔細まで、優しく丁寧な筆…続きを読む

魔物の肉も料理しちゃう、豪胆な「おかん」が魔物にさらわれた！　と始まるこのお話。新社会人の息子が救出に向かう展開にハラハラしつつも、コミカルさは健在。おかんの手料理を食べたみたいに…続きを読む

まとい付くように夏の暑さを感じる文章。本当に聞こえてくるような蝉時雨。不穏で、どこか居心地の悪くなるような、不純物めいた記憶。主人公の人生に、静かに楔が打ち込まれていくようにも読め…続きを読む

全編を通して、ずっと包み込むような優しさを感じます。夏の夕方に降る温かい雨のように。主人公の不器用で、でもまっすぐに幼馴染を想っていることが伝わってきて心が満たされました。元気を出…続きを読む