読了後、胸を締め付けられ中々言葉が紡げません。
主人公がソプラノサックスをふと始めた、現在。
主人公と彼女、そして帽子さんとの、過去。
時間って先へ先へとしか進まないから、過去の話って物語の流れを一旦せき止めるイメージがあるけど、本作はそんなこと一切無かった。
どうしてかを言葉にできるなら、私だって本作のような素敵な物語を描きたい。
うん、何でかは分からないし、というか読み始めたらそんなこと考える余裕もないです。
だって、物語に引き込まれてしまいますから。
過去で描かれる帽子さんとのやり取りで、私も笑顔になり、
彼女との甘い青春に、カクヨムを開いたスマホを握りしめながら悶え、
ラストで、胸が締め付けられました。
短編で、たった5000字くらい。
こんなにも心が、感情が揺り動かされるなんて。
――私も書いてみよう。
読了後の余韻を味わいながら、自分の創作欲が刺激されていることを理解しました。
素敵な作品です、ぜひ、ご一読とは言わず、ご二読、ご三読を。
読まなきゃ損とは、この作品のことです。
一度目は若い二人の美しく切ない恋物語として、二度目は自分でない誰かに想いを寄せる人々の物語として、拝読しました。泣けました。
楽器の経験がない主人公が、ソプラノサックスを習いたい、と音楽教室に飛び込む。超初心者なのに、吹く曲も練習期間も決めている。先生は、そんな彼を快く受け入れる。それらの理由が徐々に明らかになるにつれ、この物語に登場する人物それぞれの優しさが、読む者の心の中にじんわりと広がっていきます。
直接出て来ない里香さんの人柄も、「帽子さん」のエピソードでとても伝わってきました。
ラストの千景先生の言葉は、大切な誰かへの想いをずっと大切にして欲しいという意味にも、里香さんを想う気持ちがきっかけで触れたソプラノサックスに象徴される「新しい出会い」を大事にして次の一歩を踏み出して欲しいという意味にも受け取れます。
悲しい恋物語ながら、ラストに描かれる「済んだ空」を見上げているような清らかな読後感に、静かに涙いたしました。