月に葬る

作者 夢見里 龍

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★★★ Excellent!!!

夏の夜、「わたし」は荷車を押し、山間の道を進む。「たなばたさま」を口ずさみながら、小学生の頃の七夕の出来事を思い出す。短冊にすぐに願い事を書いた双子の姉と、二つの願い事を書いて一方を隠してしまったわたし。満月の下で、ある儀式が始まる……。

一つ一つ丁寧に紡がれた言葉たちが、読者を幻想的な物語の舞台へと誘います。特に「月葬」のシーンは圧巻で、思わず呼吸を止めて読んでしまうくらいの密度です。叶わなかった願い、決して届かない想い。静謐な世界の中で、奇跡のような一瞬が描かれます。

そして、最後にわたしが見出した答えとは……。終始美しい、珠玉の短編小説です。

(カクヨムWeb小説短編賞2021 “短編小説マイスター”特集/文=カクヨム運営)

★★★ Excellent!!!

私はうまく感想が書けません。なので簡単で申し訳ないのですが――

触ったら、ちょっとでも触れようものなら、ぽろっと崩れてしまいそうな。けれどギュっとしたい気持ちになる。愛でるとは違う、その儚さにトロリといく感じ。

みんなにもっと読んで欲しい。

★★★ Excellent!!!


なんて美しい小説なんだろう。


妹の姉への想いは嵐のように強くて激しく感じるのに、全体の印象はすごく静謐で繊細に感じます。

夢見里さんの文章力がすばらしく、映像がくっきりと浮かんできます。
姉が月明かりを浴びて溶けていく姿。月葬。
きっと、この世の何物にも例え難い美しさなのではないでしょうか。

レビューを書こうと何度かチャレンジしたのですが、この美しさをどう伝えたらいいか、わたしには難しいです。
(語彙力が足りない……)
これは夢見里さんにしか書けない魔法ですね。
気になった方、本当に読んで頂きたいと思います。

★★★ Excellent!!!

細やかな思慮を持って並べられた言葉たちが、月のように穏やかな輝きを放っている。そんな美しさに心を惹かれました。文章を読んでいて、ここまでの芸術性を感じたのは久方ぶりです。

私は常々小説にしかできない物語というものに憧憬を抱いていますが、この作品はそんな私の一つの目標になりました。

★★★ Excellent!!!

月葬とはなにか。

葬というからには死者を弔うなにかであろう。

そんなことを思いながら読み始めてみたのだが、とんでもなかった。

この作品はとても美しい日本語で綴られている。

正直、自分の語彙力では読めない漢字も多数出てきた。
しかし、そんなことはもはやどうでも良いのだ。

この作品に触れ、読者は深く深く物語に沈んでゆく。
いや、浮き上がっていくのかもしれない。

一つの愛の形。
個人的にはある種わがままな愛の形に感じた。

しかし、愛の形など人それぞれが持つものなので、歪だとは言うまい。

その愛の形が月明かりに照らされた時、
この物語は息も出来ないほどの美しい情景を浮かび上がらせるのだ。

この作品は小説だからこそ良いのだと思う。
コミカライズよりも、実写よりも、より鮮明に受け手に訴える力がある。

濃密で美しい文章に溺れたい人はぜひ読んでみて下さい。

★★★ Excellent!!!

しんと静まり返った月夜に、主人公はひとり荷車を押して山道をゆきます。
古風な木桶には、まるまった双子の姉の体がおさまっています。
冷たくなった彼女は、主人公の想い人でした。

とても幻想的で、綺麗で、哀しいお話だと思いました。
作者様の他作品同様、この世ならざる風景の描写が凄まじく美しいです。
クライマックスはやはり葬儀のシーンなのですが、その道行きにある「月の光をたっぷり吸って咲いた月見草は花そのものがぼんやりとひかっている。一輪摘めば、きまぐれに雲が月を隠しても帰り道にはこまらないくらいには」のような幻想的な描写もとても好きです。

『月葬』とはなんだろうと興味をひかれ読み進めるうちに、いつの間にか主人公の激しい想いに心を寄せていたことに気付きました。おとなしい彼女の凄まじいほどの愛、その熱。
愛する姉を月葬にすることを決めた「わたし」。なぜ一般的な葬儀ではなく、骨も残さない『月葬』でなくてはならなかったのでしょうか。

ひとが亡くなれば、葬儀を経てその体は失われます。
ですが、故人に向けられていた想いは……?
そのひとがいなくなっても、生きているわたしたちの想いは消えません。
流れつく海を失った奔流は、どこに向かえばよいのでしょうか。

月の葬送を終えて、これから主人公がどのように生きてゆくのか……気になりながらも未だに想像できないでいます。姉に対する情念は、きっと魂のようなものだったと思うから。

彼女の願いは叶ったのでしょうか。

★★★ Excellent!!!


 葬る、というタイトルから悲しいお話を連想していました。

 けれど実際に読んでみると、この物語は悲しさや硬質な冷たさを残さず、切なさや、そこにあったはずの温度を感じさせます。

 モチーフとして使われている短冊にも注目したいです。七夕といえば、天の川、織姫や彦星なんかが連想されますね。『月』というテーマに対して徹底的に一貫しているのだなと思いました。

 あと死体が綺麗なんですよねぇ。夢見里さんの作品はどれも丁寧で繊細な筆致で描かれていますが、この作品も例にもれず、本来グロテスクであるはずのものが美しく見えてきてしまう。主人公が姉をどんな風に思っているのか、文章からも伝わってきます。

 ひとこと紹介は「終わった後の恋物語」とつけました。読んでいただければ、すぐにわかりますが、この話は悲しいかな、終わってしまった後の話です。もしも間に合っていたら、何か変わったの? そんな虚しい問いかけも、月の美しさの前では溶けて消えてしまうんでしょうね。

★★★ Excellent!!!

美しい世界観と紡ぐ言葉のひとつひとつが切なく、感情的な心理描写に心を掴まれるような感覚に包まれました。妹の想いと姉の想い、もどかしくも淡くすれ違う想いにほのかな色気の情緒が素敵でした。うっとりしてしまいますね。又、一作家として筆者の執筆センスと向いている方向が、個人的に共感するものがありました。とても素敵なお勧めできる作品です。

★★★ Excellent!!!

多分、この物語を常人が理解することなど、出来ないし、すべきものでは無い。なぜなら、この物語は主人公が吐露した独り言なのだから。唯一理解できる人は、同じ境遇の者だけだ。
でも、本当に。それでいいんだ。主人公が理解しているだけでいいんだ。「好きになってはいけない」と常識では思われる相手を思ってしまった苦しみも。愛する人の最後ぐらい自分で決めたい、誰にも、その権利を渡したくないという独占的な思考も。なにもかも。
素晴らしい文学の世界をありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

この小説は、一人称で、すべてがモノローグ。

冷たく言えば、死人に口なし。しかし、かの人はそんな冷たい言葉で表される人ではなかった。

葬る人が、葬りたいものは、何だったのでしょう。

それを月が見ています。火葬のようにけたたましくなく、土葬のように蛆虫に食われるに任せるでもなく。ただただ静謐に。

あまりに美しい情景の中で、言葉が溶けていきます。

★★★ Excellent!!!

あまりに鮮明に景色が浮かぶものですから、月に葬ることが本当にこの世に起こりうることなのだと錯覚してしまいました。私も死の先に送られるならこれが良い、と。

妹の、きっと姉は自分の思いなどに気付いてはいまいという諦観の中に、縋るような祈るような情熱を感じました。
それがとても切ない。

『月に葬る』という題名からわかる通り、これは葬儀のお話です。すべてが終わったあとの話。ですが、いや、だからこそと言うべきでしょう。彼女は愛する人の死の先にあるものを自分の思い通りにしようとしたわけです。

とても美しい、愛の物語。
ただただ風景を映すだけで、物事の真意は語られません。ゆえに私は、読後に思いを馳せました。
月を仰ぎ、彼女の願いが成就したことを願いました。

冴える紺青に緩やかに降り立つ白き光。
美しき《月葬》に読者として立ち会えたことを幸運に思います。