主人公が葬りたかったものは……

しんと静まり返った月夜に、主人公はひとり荷車を押して山道をゆきます。
古風な木桶には、まるまった双子の姉の体がおさまっています。
冷たくなった彼女は、主人公の想い人でした。

とても幻想的で、綺麗で、哀しいお話だと思いました。
作者様の他作品同様、この世ならざる風景の描写が凄まじく美しいです。
クライマックスはやはり葬儀のシーンなのですが、その道行きにある「月の光をたっぷり吸って咲いた月見草は花そのものがぼんやりとひかっている。一輪摘めば、きまぐれに雲が月を隠しても帰り道にはこまらないくらいには」のような幻想的な描写もとても好きです。

『月葬』とはなんだろうと興味をひかれ読み進めるうちに、いつの間にか主人公の激しい想いに心を寄せていたことに気付きました。おとなしい彼女の凄まじいほどの愛、その熱。
愛する姉を月葬にすることを決めた「わたし」。なぜ一般的な葬儀ではなく、骨も残さない『月葬』でなくてはならなかったのでしょうか。

ひとが亡くなれば、葬儀を経てその体は失われます。
ですが、故人に向けられていた想いは……?
そのひとがいなくなっても、生きているわたしたちの想いは消えません。
流れつく海を失った奔流は、どこに向かえばよいのでしょうか。

月の葬送を終えて、これから主人公がどのように生きてゆくのか……気になりながらも未だに想像できないでいます。姉に対する情念は、きっと魂のようなものだったと思うから。

彼女の願いは叶ったのでしょうか。

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