生々しく、心の傷を描く

このお話に共感できる方は多いのではないでしょうか?
自分に自信の持てない方。とりわけ、子どもの頃に親や保護者からまるごと認められて愛された経験がない方は、特に。

率直に、心の傷をえぐってくる作品です。容赦ないです。
この鋭さを、作者様は内なる心に向けているのかと。それは、すさまじいことです。きっと、心を削るようにして書かれたのではないでしょうか。

「私」と、彼女(彼?)を「あの子」と呼ぶ人。
ふたりの人物が出てきます。それぞれの関係性は不明です。
家族や友達のようにも見えますし、己を客観視する内なる声のようにも見えます。

誰なのかはわかりませんが、「あの子」を見守るこの人物の存在が、このお話に救いを与えてくれていると思います。
あんなに辛そうだった「私」は、決して一人ではないんだと。
もしそれが自分の内なる心なのだとしても、冷静に自分で自分を認められる面を持っているんだということに安堵します。
そうして、「私」がいつかはもう少し自分を大事にできるようになれたら……。

個人的には、「私」だってわかっているのだと思います。でも今はどうしても苦しみながらしか生きられない。
そんな彼女(彼?)に「ちがうんじゃない?」「もっと楽になっていいんじゃない?」と呼びかけ続けている、己の心の片隅においやられている勢力のちいさな心だと解釈しました。そこに、このお話のやさしさを感じます。

様々な分析と解釈のできる文学作品です。
他人の顔色ばかりうかがって、苦しい人生を歩んでいる人には、ぜひ読んで欲しいです。

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