美食、美青年、心理。手に取りやすい中華ミステリ

(第一部まで読み終えた時点でのレビューです)

とても読みやすい中華推理ものです。
作者様の持ち味である重厚な描写は控えめに、広い読者に手に取りやすい文体となっていると感じました。ただ難解な語は抑えめで読みやすいとはいえ、文章描写は今回も非常に綺麗です……!
テンポがよくて、事件が起きては解決に向かう展開も計算されつくしていて、なんというか配分がちょうどいいのです。ストレスなく読めます。
流れるようなストーリー展開に、職人業だなあと感じ入ってしまいました。

主人公の妙(ミャオ)ちゃんは、猫の鳴き声のようなお名前に猫の耳のような髪型、たくましく一人で占いの商いをして生きていて、おいしいものに弱いという愛すべき子です。
この子が、まるでホームズのように、はたまたメンタリストのように、相手の恰好やわずかな仕草から様々な情報を読み取り、後宮で起きた難解な事件を解決していきます。

彼女が出会う謎の美青年・累神(レイシェン)。
おそらくこの時代の人には珍しく神を信じないという彼は、その考え方を共感でき、なおかつ鋭い能力を持つ妙ちゃんに興味を抱いて接近します。
どうも彼はやんごとなき身分で、その背景に大きな問題を抱えていそうな予感。

きっと、累神の与えるおいしいご飯に魅かれて、妙ちゃんもともにその問題に立ち向かうことになるのでしょう。トミーとタペンスのように仲良くおしどり探偵として……ではなく、おそらくはお互いの腹の底を探り合いながら、反目したり毒づいたりもしながら。
それでも、なにかしらふたりで激しく共有できるものを分かち合いながら。
そういう独自の関係性を築きながら、難題に立ち向かっていく予感がしています。
これから、事件をとおしてふたりの関係が深まっていくのがとても楽しみです。

美食、イケメン、ミステリ。おいしい要素が盛りだくさんで、幅広い読者の方にお勧めです。
同作者様が同時期に連載されていて書籍化も決まられている『後宮食医の薬膳帖 廃姫は毒を喰らいて華となす』と比べると幻想的な耽美さは抑えめで、難解な語もごくわずかなので、ファンタジーを読みなれてない方にも手に取りやすい作品ではないかと感じました。
主人公の妙ちゃんも、現代の学校に通っていてもふしぎではないような、理知的で親しみのある考え方をする子です。
(※まだ第一部終了時の段階のレビューなので、序盤の印象です。内容や雰囲気についてはこれから変化があるかもしれません)

文章の美しさに定評のある作家様ですが、構成も本当にすごいです。出てくる情報に過不足がなく、ストレスなくテンポよくすいすいと読み進めてしまいます。
自分も趣味で小説を書くので、「こういうふうにお話を進めていくのか、すごいなあ」と学びながら感動しっぱなしでした。

気づいたらあっという間に第一部を読み終えてました。読ませる力のある作品ですので、イケメン、美食、ミステリ、後宮、中華、なにかひっかかるものがある方には、ぜひ手に取って欲しいです……!

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