【書籍化決定】後宮の女官占い師は心を読んで謎を解く【一期完結】
夢見里 龍
第一部《目》は口程に物をいう
1 女官占い師にはウラがある
幸も不幸も縄を
だが実際のところは不幸が七割、幸せが三割くらいの割りあいではないかと、
(順番に巡ってくるんだったら、苦労しないよなあ)
もっとも、愚痴っているだけでは残り三割の幸せも訪れないので、彼女は今日も今日とて大通りに
女の都とも称される――ここ、後宮で。
◇
日頃から人通りが絶えることのない後宮の
喧騒を割って、
「人生は福あれば厄もあり。順に等しく巡るものなれど、巡りきた福を拾うか、厄にあたるかは人それぞれ」
語呂のよい響きに都をいく
「さあさ皆様、ちょいと寄っていかれませんか。よきことも悪きことも占いましょう」
梅が咲きならぶ通りの端に
彼女――姓は
賑やかな声に惹かれてか、妙のまわりには人垣ができていた。胡散臭げに遠まきから覗きこむ妃妾もいれば、興味津々に身を乗りだす妃妾もいる。
「むむっ、そこにおられる青い瞳が麗しい御方」
妙が女官連れの
「私のことかしら」
「はい、左様です、貴方様です。貴方様は悩みごとを抱えておられますね。現状に不満を御持ちのはずです」
「あら、……確かにその通りだわ」
妃嬪は心を読まれていることに戸惑い、視線を彷徨わせた。
「そのことばかり考えてしまって、この頃はあまり眠っておられない、違いますか?」
「な、なんで、わかるの」
「わかりますとも」
「ですが、貴方様の頭上には明るい星が視えます。いまの嵐を乗り越えれば、そう遠くないうちにかならずや、福が舞い降りることでしょう。ああ、ただ……ひとつ」
言葉をきってから、
「御足もとには、どうか、御気をつけください」
何処となく凄みのある言葉に気圧されて、妃嬪がごくりと唾をのむ。
だが、道端の占い師ごときの助言を鵜呑みにするのは恥だとおもったのか、すぐに気を取りなおしていった。
「まあ、程々に参考にさせてもらうわ。占いなんか
女官を連れて、そそくさと帰りかけた嬪だったが、事もあろうに
取りかこんでいた妃妾たちが声をあげる。
「占い通りだわ」
「こんなにすぐにあたるなんて」
泥だらけになった妃嬪はよほどに恥ずかしかったのか、頬を紅潮させ、
湧きたつ観客を眺めまわして、
「さあさ、
「私も視てちょうだい」
「わたくしの運勢も教えて」
妃妾がいっせいに群がりだす。
「ふむ、他人に好かれたいという願望がおありのようですね。ですが、ちょっとばかり頑張りすぎているのでは。あせらずとも、貴方様の頑張りをみている御方はいますよ」
「まあ、お恥ずかしい。なんで、わかるのかしら」
「日頃から機織りをなさっておいでなのですね。励んでおられるのはよいことですが、自身が想っておられるより疲れが溜まっているようです。どうかご無理はなさらずに」
「実は機織りがいそがしくて、徹夜続きでした。そんなことまでわかってしまうの?」
なにからなにまで言いあてられて、妃妾が瞳を輝かせる。
「なんでもわかりますよ。私には、神も祖霊もわんさかと憑いているもので」
「まあ、わんさかと……なんてすごいのかしら」
いっておいて、わんさかはないだろうと妙はおもったのだが、妃妾は素直に感動している。
占術とは神託である。
神や祖霊の神妙なる御力を借りて、運命を先読みしたり、他人の心のうちを見破るものだ。理窟のあるものではないし、理窟があっては、ならない。
だが、
(
行列はまだ続いていたが、
「皆様、
妙は
(ほんとはこれ、錆びついた鍋の蓋なんだけどね)
道端から拾ってきたがらくたでも、占い師がつかっているだけで、誰もが年季のはいった
観客が解散したところで、通りがかったらしい先輩の女官に声を掛けられる。
「妙、なにやってんの。休憩は終わりだよ。宮に戻って、ちゃきちゃき働きな」
「はいはい、先輩。すぐにいきますよっと」
帰り道を急ぎながら、妙は客から貰った
「うっまぁ……」
饅頭とはいわゆる具のない
(男どもに麻袋を被せられて、担がれたときは、どうなることかとおもったけど)
普通に考えて、福か厄かといわれたら、紛れもない災難なのだが、妙はいたくご満悦だった。
(家賃を払わなくても
饅頭をたいらげてから、
(彼女はまた
占い師なんか信頼できないと
なぜ、わかるのか。
答えはかんたん。
それが心理というものだからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます