死にたい気持ちさえまるごと包んでくれるあたたかさ

前半の「遺書(?)」部分を読んだとき、長年の苦しみに心を病んでしまった主人公の心情があまりにリアルだと感じました。
これは、フィクション……? 本物の遺書ではないの? いや、やはりフィクションだろうけど……リアルすぎない……?? とうろたえるほどに。

もう疲れる原因が「これ」とは言えないほどに何もかもに疲れ切って、死を考えるほどになってしまった経験のある方なら、この真に迫った「遺書(?)」の出来に瞠目するのではないかと思います。人を恐れていながら、人に認められたくてしょうがない、無償の愛を求めてしまう。その繰り返し。辛いくらいにわかりすぎる……。
やさしい言葉で綴られた遺書(?)の真実味が、本当に心に迫ります。フィクションだからと他人事に思うことはできず、この主人公に深く感情移入をしてしまいました。

そして、後編となる「返信」。こちらを読んで安堵しました。
このお話は、本物の遺書ではなく、とても巧みな短編小説でした。
疲れ切った孤独な主人公、遺書(?)を書いたかもしれない彼(彼女?)。作者とこの物語は彼を突き放さずに、あたたかく包み込みます。死にたい気持ちも否定せずに、かといって生の輝きも否定せずに。
負の部分だけに目を向けることなく、辛いことの多い世の中に、「こんなあたたかさだってあるよ」と教えてくれる。押しつけがましい理想論ではなく、あくまでやさしく、「自分はそうだったかな?」という感じで、ふんわりと気づかせてくれる。
きっと、かつて深く悩んだことがあり、それをどうにか乗り越えて生きてこられた方にしか書けない内容だと思いました。

このほんの少しのあたたかさによって、愛に飢えて疲れていた彼女(彼)はどれだけ救われることでしょう。
「僕」の気持ちが届いたかはわかりませんが、伝わっていて欲しい。きっと気持ちを分かり合える似た者同士、あたたかさをわけあえることができるはず……。

かつて、この主人公と同じように悩める日々を送っていた自分は、後半の内容に己まで救われたかのように思いました。
「思い」を残して、主人公はどこへ行ってしまったのでしょうか。手紙はやはり遺書なのか……この部屋でかつて何かが起きたことは示唆されますが、主人公の去就は読み手の想像に委ねられます。
どこかでふたりが笑いながら再会できるようなことがあれば……と望んでしまいます。もしできなくても、誰かからこんなふうに思ってもらえる主人公は、決して不幸なだけではなかったと思いたいのです。

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