まずね、キャッチコピーが良いです。
「開いた瞬間に黒いじゃん? そしたらなんか溺れそうになるっていうか。」
これはもう気になってしまう。
サブタイトルも最高なんです。
「あいつが読んでいた本があったんだ。」
「あいつの瞳は宇宙みたいだったんだ。」
これだけで優しく美しい世界観がどこまでも広がってゆく。
読み始めてすぐに「変わった文体だな~」って思いました。
こういうタイプの文体に出くわしたのは初めてで、ワクワクしながら読みました。
どこにでもある文章を持ってきて綺麗に並べたのではなく、一から自分で考えて組み立てたような手作り感あふれる文章。
ふわふわしていて、つかみどころがなくて。
それなのに面白くて。
「ピッ。」からの三行に笑って、
アーティストの曲に言及する部分があまりにも名文過ぎて、
「駅前と学校の中は寒いんだ。」で泣きました。
そして後半。
もうね、曲で暖を取るという発想がすごい。
その発想どこから出てくるのでしょうね。天才ですか?
そしてそして!
「好きな人に本の読み方を教えてもらう」という最高のシチュエーション!
首尾よく意中の人とお近づきになれた途端、いきなり文学的な描写が始まるのも面白いw
そして、唐突に咲くハルジオン。
もう何もかもが素敵。
この二人のお話を、いつまでも読んでいたい。
丸ごと宝物みたいな作品です。
冒頭の数行を読んで、「おや?」と思い、「下」で読み方がわからないというくだりで完全に思い出しました。ほぼ主人公と同じことを言っていた女の子がいました。
感性って才能ある遺伝子だけに感染するものなのかもしれませんね。その子も枠にはまらない創作系(ただしゲーム)の人でした。
主人公が気になった相手の世界を初めてのぞき込んで、そのまま吸い込まれて溺れていったお話でとても新鮮でみずみずしかったです。
ただ、私はちょっとだけ途中から妄想が脱線していました。これってどんな組み合わせでもできるなって思ってしまったんです。男+男、男+女、女+男、女+女。そういう中編を書いたことがあって、性別にはっきりさせずにどこまで恋愛譚は成立するんだろう? と実験しました。これは汎性恋愛譚としても、すごく素敵だと思います。
巧みな表現に酔う、さわやかでほのかな汎性恋愛譚。ありがとうございました。
日常の中の非日常を取り出すのが、お上手だなぁと思った。
絶妙な所を切り出して、ああ、と読者思わせるそのセンス。
言ってしまえばなんでもない、ただの生活の1ページだけど、ただの1ページなんかにさせない。
彼女たちの青春を、きらりと光らせている。
本当に、凄いという言葉しかでてこない。
これらを引き立たせてるのは、やはり繊細で、選び抜かれた言葉たちの表現だ。
砂のように粒が細かくて、手のひらでしっかり受け止めないと、通り抜けて言ってしまう。さらさらと、逃げて言ってしまう。
それらを受け止めようとするから、作品世界に引き込まれて、表現が体に馴染む。読了後の清々しくて甘酸っぱいそんな気分は、そうやって作られていくんだと思う。
表現が美しく、だけど地の文は重くない。会話だって、自然な言葉遣いとテンポ。
読まない理由なんてどこにあるんだろうか。是非一読して、読了後の満足感を味わってほしい。