孤独と愛とアイデンティティの3つが切実に感じられる作品でした。
世界観は哀しく儚いもので、その中に残された感情人形(フィーリング・ドール)もまた同じ印象を纏っていますが、そこにはどこか強さもあるように、私には思われました。
それは、読み進めると少しずつ感じられてくるしっかりとした自我の気配、自分は何者なのかという問いに対する答えを胸に秘めていることが窺えるからではないかと思います。
そのアイデンティティが、かつての持ち主と過ごした時間に根差したものであるというのが、とても好きでした。
そのために、持ち主との何でもないようなやり取りの中に、「絆」とか「友情」などの言葉に片付けられないものを感じました。
彼女が彼女でありえた理由が、そこにある、というのは、とてもすごいことだと思いますし、それを短い文章の中で十分に描けるということもすごいことだと思います。
人類を含む全ての『生き物』が消失した世界。
感情人形《フィーリング・ドール》と呼ばれる、感情を持った人形だけが意識を保っていた。
世界が終わってしまった。しかし人形はその終わりの中でひとり、想う。
名前をつけたくれた少女との思い出だけが、変わらない静寂の中を巡る。
そんな中、久しぶりに声が響く。
それは、話すだけでなく、動くことができる、まるで人間のような感情人形の三姉妹だった。
同じ仲間を探しに、一緒に行こうと誘われるソフィアだったが、彼女が選んだ道とは・・・・。
終わってしまった寂しい世界を、人形たちが旅をしている。そんな、不思議な世界観がたまらなく愛しかったです。
読み終わったあとに残る、切なさとほんの少しの希望が、この作品の魅力に思えます。
ぜひとも読んでいただきたい、オススメの作品です!
3人の主役のフィーリングドールはこれからの物語でリドルエンドとして、そしてソフィアという和名とかけ離れたギリシャ語源の女性英語名詞の1人の主役。ちぐはぐになるかと思いきや、彼女の意思尊重が物語の大きなターニングポイントとなるような構造で、ソフィアという叡智が長い歳月考えた結果、日本人形として日本の文化の様な潔さでいわば自害することになるが、コレは有機物無機物だろうと意思を持つ存在は生きていると言える説得力が有りました。ソレを看取った3人の主役たちはこれからどうやって終末世界を生きていくのか想像するのが楽しいと思える作品でした。
一人の人形・ソフィアとの出会いを通して三姉妹の旅の目的を見せた作品。
……という事になるだろう。端的に言ってしまえばそれだけだ。
それなのになぜこんなに感情が揺さぶられるんだろう?
人形は本来「器」だけのものであり、そこに感情は存在しない『はず』。
もしもその器に感情が存在したら?
持ち主との濃密で楽しい過去があり、その時間は徐々に失われて行き、最後には人形だけが残る。
残された人形は何を思うのだろうか。
彼ら『人形』が幸せに、その思い出とともに、その生涯を閉じることができたら、どんなに幸せだろう。
三姉妹の旅は続く。
たくさんの『残された人形』たちの為に。
読み終えた後、寂寥感に包まれました。
でも、寂しさだけじゃない。ほんのり温かな思いも、心の中で確かに灯っていました。
終末の世界……一体、どれほど寂しいものなのでしょうか?周りに映るものは全て『静』。いや、『止』と言った方が正しいかもしれません。自分だけが動く世界に取り残された気持ちなど、私には想像することもできません。
そんな世界に佇む人形。感情という素晴らしくもあり、厄介ともいえる機能を備えて。
凍った世界でただ一人、人形は何を思うのか。何を感じるのか。何を感じてしまうのか。
ひとこと紹介に乗せた言葉はこの作品で使われているものです。この言葉を見て私は鳥肌が立ちました。
『笑顔が素敵な人』とか『笑顔が可愛い人』なら月並みの言葉ですが、ここでの表現は『笑顔な人』。簡素な言葉に見えて、ここに詰まっている思いは計り知れません。
文章の構成も見事です。
この物語は三話に分かれているのですが、メインの人形である'ソフィア'の容姿に関して、一話目と二話目では一切描写がありません。そして、三話目でやっと私達の頭の中にソフィアが現れてくれるのです。それまで、色々と想像しながら読んでいた読者の枝分かれした道が一本にまとまる……思わず唸ってしまいましたね。
短編ですが、読みごたえはしっかりある作品です。皆さんも是非一度足を運んでみてください。
すべての生物が消え失せた終末世界。
そんな空虚な場所に遺された感情人形のソフィアは、他の三体の人形と出会い……。
人の手で作られた人形が、人類が死に絶えた世界に生き残ってしまう。
ここに大きな不条理さを感じます。
AIであればそういう映画があったかもしれませんが、この物語はまったく異なります。
感情があり話すことはできるけれど動くことの叶わない不自由なソフィア。
魔女が作った人形三体と出会い、ソフィアはある決断をする。
それは自身がかつて過ごした環境を思い、そこへ帰依する理を見出したから。
廃墟となった終末世界で、大切な何かを見つけ、回収するように旅を続ける三体の感情人形。
彼女たちの行方にはまだまだ行き場を失くした同胞が待っているはず。
退廃的なのに美しい、そんな物語でした!
人間の滅んだ世界に取り残された感情人形達の、儚くて美しくて想いの詰まった物語です。
ソフィアという感情人形の元に同じく三姉妹の感情人形が訪れるところから物語は始まります。これと言って激しいアクションなどはなく淡々と進められる物語ですが、ゆえに滅んだ世界の儚さや人形の内側に込められた心情が繊細に丁寧に綴られていてとても心に染み込んできます。悲しいとは少し違う、儚いかもしれないけれどそれ以上に最期まで人形らしい強い想いに胸が熱くなりました。ソフィア、とても好きです。
さり気ないギミックも素晴らしく、ラストとなる三話目では意外な出来事にあっとさせられました。さり気ない仕込みが味わい深く世界観と合わさって、余計に感情人形達のキャラクターの良さを引き出しています。
短編ということで、このお話はソフィアと旅をする三姉妹でまとめられていますが、きっとこの世界には他にもたくさんの感情人形達の想いと物語が待っていることでしょう。他の感情人形のお話も読んでみたいと思いました。
人のいなくなった世界に残された人形達の感情に、是非触れてみてください。