概要
幼くして日本舞踊の華と称えられた娘・雛牡丹は病に倒れ、日舞の道を閉ざされる。
それは、才能があるものだけが罹患する《才咲き》という奇病であった。この病に侵されると、身体の一部に植物が根づき、花を咲かせる。それは桜や梅であったり、芭蕉であったりする。だが花が咲けば咲くほどに患者は衰えていき、やがては命を落とすのだ。
故に患者は、その花が咲かぬうちに莟を摘まねばならない。
雛牡丹の邸の下働きだった《僕》は、彼女の花を摘むことになる。
脚から梅のこぼれるその病を「美しい」といったことから、《僕》は雛牡丹に気にいられ、側務めに択ばれるが――――
これは驕慢に華であり続けた娘と、華に惚れた《僕》の物語である。
谷崎潤一郎さまの《春琴抄》のオマージュです。
素
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!言葉の取捨選択が巧み。読んでいると、頭の中に綺麗な絵が浮かぶよう。
読後感は、夭折の天才を見た喪失感に似ていました。
その喪失感は、巧みな言葉の選択によって生み出されていると思います。
比較的シンプルなストーリーが、言葉選びのセンスの高さと、読後の喪失感を際立たせているなあと感嘆しました。
上品で巧みな言葉遣い、加えて身体に花が咲く病という面白いアイデアも、すべては作者の才能あってこそで、だからこそ、雛牡丹という人物を描けるのかもしれないなと思いました。
凄いなあと感じた部分は他にもあって、それは登場人物の名づけかたです。
牡丹の花言葉の一つに「百花の王」があるらしいのですが、雛牡丹の性格はまさしく王者の風格であり、「雛」には小さなという意味があります…続きを読む - ★★★ Excellent!!!美しく才ある娘の壮絶な生
「それは、病というには美しすぎた。」
この印象的な冒頭の一行から最後まで、徹頭徹尾やわらかで壮絶な美しさに包まれた作品です。
音楽の才能に恵まれた娘・雛牡丹。彼女は身体から枝が生えてくるという奇妙な病を得てしまいます。
畳にころりと落ちた梅の蕾。
それはまだ若い彼女から、芸も命をも奪ってしまう、残酷な病です。しかし、可憐な娘に似合ってもおり、あまりに美しいのです。
驕慢だと人に見られがちな雛牡丹ですが、その胸には年齢の幼さに不釣り合いなほどの矜持を抱いています。その、己自身も「華」と生きようとするさまが、また彼女の容貌や梅の蕾に劣らず美しいのです。
下働きの椿少年が、心酔し、お仕えしよう…続きを読む - ★★★ Excellent!!!匂いたつ華の薫りに溺れる
下働きであった僕は、病に侵された美しき娘、雛牡丹の花を詰む。
二人だけの密やかな時間に糸切りはさみの音が響き、花が散る。
病を持つ者と持たざる者。才ある者と才なき者。
美しくも恐ろしい、病の行方は――。
冒頭の一文から最後の一文まで、徹頭徹尾、美しく、艶やかで、息が詰まるほどに濃厚でした。物語に溺れるとはこのことを言うのでしょうか。一つ一つの文章から頭を狂わせるような華の薫りが立ち昇ってくる……そんな気さえします。
また、単に美しいだけではない――物語の裏に込められたテーマも私の胸を突きました。才ある者と才なき者。芸に生きる者の定めとも呼ぶべき主題というのでしょうか…。けれど決して、嫉妬…続きを読む