概要
昭和二十年、京都、夏。売れない小説家の男――『私』は風に飛ばされた原稿を追いかけて侵入した洋館の庭で、奇妙に美しい娘と逢う。娘が原稿用紙をなぞると、小説の一節が紙から剥がれ、娘の指に絡みついた。娘はその指を舐め、言の葉を喰む。
「続き、ありますんやろ」
娘は振りかえり、とろりと蜜のように微笑んだ。
「私、貴男の書いた小説が喰べたい――」
日本の古今の記録を収めた『本』として庇護される娘と、そんな彼女の飢えを満たすため原稿を書き続けることになった《私》――『私』は『娘』に惹かれていくが、敗戦を経て『本』の処分がきまる。
本は焼かれた。人は燃やされるか。
夏の終わり、京都のはずれに誰も知らない墨の雨が降っ
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!さざめく言葉の風が鮮やかに吹いた( ;∀;)
僕はこちらの物語を拝読させて頂き、自らが「言の葉を喰む」という錯覚を覚えた。
さて、耽溺という言葉があります。
随分と色気を感じさせ、尚且つ狂気を孕み、溺れ沈み惑わし、最早取り返しがつかなくなりそうな、そんな素敵で異様な言葉です。
僕はこちらの物語に、先ずはそういうエッセンスを感じ取りました。
このレビューをお読みの多くの方が、何らかの物語を綴っておられるかとは思います。言葉を使い、言葉を愛し、言葉に悩み、言葉に励まされ、言葉に導かれる。物語とは幾千万の言の葉の海を航海するその道程であります。書く者であるならばこそ感じるシンパシーがいたる文脈に満ちております。
僕はそういう事を考え…続きを読む - ★★★ Excellent!!!言の葉を喰む、その意味とは
書籍化経験のある小説家の方々の作品をカクヨムで読めることはもちろん知っていますが、ここまで戦前戦後の純文学を彷彿とさせるような短編に出会えるとは、思えませんでした。
言葉も美しく、幻想的で、非常に芸術性の高い短編となっています。
最初読ませてもらったとき、正直、僕の読解力に問題があるのだと思いますが、なかなかストーリーの全容が掴めませんでした。ただ、何度か読み返してみて、次第にタイトルでもある『言の葉を喰む』という意味が何となく分かってきたように思います。
僕自身、素人ながらも、生意気に小説を書く身ですが、だからこそ、読み始めた何回目かに、ふっとこの物語の世界に一気に入り込めました。ま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!現実と幻想の狭間で紡がれる物書きの執念と書き物の宿命が切ない耽美な世界
現実を舞台にした幻想譚——と一言でまとめるには余りある、美しく儚く残酷な世界に冒頭の一節から惹き込まれました。
形あるものは、いつか崩れて無くなるものであり、
誰かの思惑で強制的に歪められ、喪われていくものであり、
それは古今東西繰り返されてきた、どうしようもない宿命だけれど、
そうなると、それに抗うように、どんな形にしても後世に残そうとする反発運動も自然発生するわけで、それが書物以外の形をとることもある——という、不思議な世界が広がっています。
声なきものが声を発すると、きっとこんな感じなんだろうな……と、すんなり飲み込めてしまう作者さまの筆致と構成にも脱帽です。
舞台設定も秀逸です…続きを読む