★★★ Excellent!!!
月が追いかけていくように 木野かなめ
ほっそりとしたうつくしい女、鶴呤(かくれい)は「鶴」だ。鶴は豊穣をもたらす。だが鶴はやがて、その豊穣と引き換えに月に還らなければならない。その日まで鶴を「護る」のは、低い身分の鶫刹(とうせつ)という青年であった。鶫刹は自問する。俺にとって、鶴とは。
この物語の基本線は、鶴である鶴呤と衛(まもり)である鶫刹の関係性です。二人がどのように出会い、どのような関係を築き、どのような未来に向かって進んでいくか。この物語は常に二人を軸として展開されます。
そこでおもしろいのは、鶫刹のこころが「見えない」ということです。
本作の視点は鶫刹のものです。地の文では鶫刹の心理が表現されます。しかしながら、鶫刹自身が自分の思考に対して曖昧な理解しかしていないため、読者は鶫刹のこころを想像しながら楽しむことができます。これは筆者の工夫なのだと感じました。鶫刹からは、あえて直接的な表現が抜かれている。これが想像の楽しさを引き出しました。唯一のヒントはせりふです。せりふについては、鶫刹の心情の結果がそのまま表されています。そのせりふに至るまでの経緯と、鶴呤の言葉に対して感じたことについては、読者が鶫刹に成りきって想像する必要があるのです。そういう意味で、本作の主人公は鶫刹であり、読者のあなた自身なのです。
そうすると、ましてや、鶴である鶴呤の心情などすぐにわかるものではありません。ゆえに読者は、鶴呤のことを非常にミステリアスな女性だと感じるでしょう。この書き方がすごく面白かったですよ。鶴呤のヒロイン性を高めた書き方だと感じました。
もともと「鶴」というのは不思議な存在ではないですか。さらにいえば、この物語の世界観においても異質な存在です。そんな彼女のこころをガンガン暴かせては、これはもう鶴としての鶴呤が台無しです。本作では、「鶫刹は鶴呤を掴みきれない」「鶫刹は鶫刹自身を理解できない」という二重構…
続きを読む