ひとつの美術品として鑑賞する悲哀と悲愛

 まず、この物語を読み始めると、脳裏に景色が浮かぶ。活字だけの画面を見ているはずなのに、そこには確かに美しい景色があるのだ。

 物語は滑らかに、艷やかに、哀しい宿命の少女と、恋慕を知ってしまったが故に苦悩する青年の姿を描いていく。その所作や景色全てが色合いを持って迫ってくる。

作中に、

>異様なまでに美しいものというのはひとのこころをざわつかせる。

というくだりがある。
 まさにこの物語が見せてくれる光景こそ、ざわつく美しさだった。

 まるで美術館にいるかのようなひととき。
 鑑賞する、という言い方をしたい物語だった。

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