けむりとのろし

 けむりは空に昇って消える。のろしもそうだが人になにかを意図的に伝える点でけむりと違う。

 その意味で、彼はけむりであった。けむりの源が燃え尽きて……それは彼の肉体でもあり恋でもあったのだが……消えた。

 では、彼女は。卑俗な意味では、一族の繁栄を伝えはしただろう。彼女自身は、それを哀れみこそすれ誇りになど思っていなかったのだが。のろしがのろし自体の意識を持たないように、彼女はただ昇った。

 本作で、自分の責任をまっとうしつつ真意を達成できたのは鶴に殉じた彼だけである。してみれば、彼にとって彼女はたしかにのろしであった。しがらみや身分から自由になるためののろし。

 ここにおいて、彼は単なるけむりではなく言葉のまったき意味において唯一の人間となった。

 必読本作。

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