水面へむかう泡を見送りながら

 水中で、ゆらゆら揺れる髪におずおずと手を伸ばしかけて、結局引っ込める。そんな感覚を持ちながら読んだ。

 バスと湖という組み合わせは、ありふれているようでいてなかなか読んだことがなかった。北原白秋は、からまつはさびしかりけりと詩に書いたが、差し詰め湖は切なかりけりというべきか。

 本作では、バスという動く閉鎖空間の中で、一人一人の登場人物が主人公の視点を通して丁寧に描かれている。その様子は、当人の恋愛と相まって叙情でもあり記録でもある。

 記録。本作は、忘れてはならぬものを記録する行為でもある。読者一人一人の心にも、しかと焼きつけられることだろう。私がそうであるように。

 必読本作。

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