匂いたつ華の薫りに溺れる

下働きであった僕は、病に侵された美しき娘、雛牡丹の花を詰む。
二人だけの密やかな時間に糸切りはさみの音が響き、花が散る。
病を持つ者と持たざる者。才ある者と才なき者。
美しくも恐ろしい、病の行方は――。

冒頭の一文から最後の一文まで、徹頭徹尾、美しく、艶やかで、息が詰まるほどに濃厚でした。物語に溺れるとはこのことを言うのでしょうか。一つ一つの文章から頭を狂わせるような華の薫りが立ち昇ってくる……そんな気さえします。

また、単に美しいだけではない――物語の裏に込められたテーマも私の胸を突きました。才ある者と才なき者。芸に生きる者の定めとも呼ぶべき主題というのでしょうか…。けれど決して、嫉妬にまみれた醜いものではない。そこのバランス感も絶妙です。本当に素晴らしい。

どこまでも美しい、華に満ちた世界観に浸れる本作。
是非一度、お読みくださいませ…!

その他のおすすめレビュー

湊波さんの他のおすすめレビュー118