京王線

作者 國枝 藍

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60人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

絆という言葉があまりにも「縛る」というニュアンスが強すぎて苦手なのですが(あくまで、個人的に)、この物語はまさに、かつて強く結びついていたふたりの関係の、ゆっくりと後戻りしようもなくほどけていく様子を、とても美しくえがいています。
ここに登場する人物の、誰もが誰もを想っている。関係性が変わってしまっても、そのこと自体はまったく変わらず、相手を大事に思う。そのやさしい空気感が文体にとても溶け込んで、心地よい読後感を与えてくれます。京王線というのが絶妙ですね。きっと主人公の向かう新宿方面は、この心地よい空間とはちがう場所なのだろうと、印象付けられます。だからこそこの公園は、特別な場所になる。
登場人物たちの心情を読み取って、楽しむ、まさに小説の醍醐味を味わせる掌編です。

★★ Very Good!!

テクニックも構成も抜群、お若いのに一体なにを読んで育ったのかな、一晩ヒザを詰めて語りたいくらいです。

この手の物語は、
いきおい私小説風になりがちですが、適度な距離感が心地よく、わたしのような人生のベテランはすでに手放してしまっているサラサラ感があります。

もどかしくもあるが
ネバっこくない
刹那的に見えて
歴史もある。

誰かに受け入れてもらうという経験のないワカモノではないのに、なぜだか誰のことも受け入れられない。

そのあたりの不思議を
もう少し掘り下げていくと…


…ドロドロしちゃうかもですね、
難しいところなのです。

経験値が、作者をどこかへ連れていく。
連れて行かれないように頑張るのか、
連れて行かれた先で別の視点を持つのか。

楽しみな作家さまです。

★★★ Excellent!!!

大変面白かったです。
他のかたも評されているように、描写力、表現力が群を抜いています。
冒頭から終わりまで、主人公のしっとりとした語り口が続きますが、しっとりしているだけではない、文脈の核心まで一直線に貫く鋭いなにかが含まれています。読み始めてすぐ、そのなにかに心を鷲掴みにされました。文脈と文脈を繋ぐ転換も完璧で、結末への流れなど、お話のリズム感もプロ並だと思いました。書き手としてめちゃくちゃ勉強になる作品です。
他にもいろいろとグッときたところがありますが、長くなってしまいそうなのでもうひとつだけ。
このお話に『京王線』というタイトルを持ってくるセンスに脱帽します。これだけで、作者様の物書きとしての並外れたバランス感覚がわかります。

★★★ Excellent!!!

ひとは矛盾のなかで呼吸をしている。《私》もあなたもわたしも。おとなになるということは矛盾を飲みこむことで、おとなになったというのは矛盾を味わえるようになることかもしれません。
読んでいるとき、視線は文章をなぞっているのですが、何故か琥珀を眺めているような心地になりました。何千何万の刻を経て結晶になり、海の浪に揉まれながら砂浜に打ちあげられた琥珀。本物の琥珀には結晶のなかに《グリッター》というものがあり、これがきらきらとまるで黄昏の雲のように輝いてほんとうに美しいのですが、この《グリッター》とは結晶の内部にできた瑕や罅割れなのだそうです。
琥珀においてはこうした瑕こそが、美しいのです。
ひともきっと、そう。
やさしく、ひとつひとつ、確かめるようにこころについた矛盾という瑕をなぞる描写の数々。悲しみでもなければ喜びでもない、そのあわいに漂っている感情の機微。
倖せではない経験が、有り触れた幸福よりも遥かに豊潤な時を紡ぐこともある。そもそも幸も不幸も、ひとが決めるものであって、ほんとうはきっとそんなものに意味などはないのでしょう。
なんとも美しく、味わいぶかく……久し振りに文学というものを堪能させていただきました。読み終えた後もずっと心地よい余韻に浸らせていただけるような、素晴らしい純文学でございます。

純文学、あるいは琥珀の輝きを堪能したい読者様は是非。
とっても素敵な時を過ごせるはずです。

★★★ Excellent!!!

人物のバックストーリーが自然と頭に入ってくる描写に、衝撃を受けました。研ぎ澄まされた文章って言えばいいのでしょうか……
レビューとしてお伝えできないのがもどかしい。これ以上は分析の上手な方々のレビューをお読みいただくとして……

セピア色の柔らかい光を感じさせるこの世界に浸って、自分の思い出と照らし合わせながら、しんみりと心洗われるひとときを過ごす……そういう物語でした。

★★★ Excellent!!!

最近短編を読んでいなかったなと思って手を付けてみれば、もう最初から凄いの一言が自然と出てしまいました。

とにかく描写が巧い。本当に、ひとつひとつが丁寧で、というよりは無駄のない言葉選びをしているなという印象でした。あまりに綺麗で、なんならストーリーじゃなく、次に出てくる感情をどう表現してるのかと確認していた感じで最後まで読んでしまった……(震え)

読んだ感想としては、もう一度読みたいと思うのはもちろん、何気ない日常、特に夕暮れ時にもう一度読んでみたいなと思いました。

もう少し言ってしまうと、夕方の駅のホームで、人気のない端の方で電車を待ちながら読んでみたいーってなりました。あくまで個人的な意見ですが。

……。もっと何か言うべきことはあると思うのですが、頭の中が凄いなー、こんな風に巧く書いてみたいなーという思いで埋まってもう何も言えないです……(震え)

ぜひ、一読してみてください!

★★★ Excellent!!!

この物語に描かれるのは喜びではない。悲しみでもない。だけど感情が揺れる。
笑うときにも泣くときにも震える、根っこのほうの感情なのではないかな、と思った。

抱きしめられる温かさも、見守られる心強さも、いつか手のひらからこぼれ落ちてしまうとして、それでも触れれば互いの身体の熱を感じずにはいられない。どうしようもなく人間だから。
何言ってんだと思ったら読んでみればいい。読み終わったら戻ってきて。何が手のなかに残っているか教えてほしい。

★★★ Excellent!!!

新宿から西に行くのはこの私鉄なんだよね……

というのはどうでもよく。素晴らしい「純文学」作品です。純文に入るにはここから入るといいでしょう。
非常に洗練された文章、過不足ない表現、非常に自堕落なストーリーライン。
何処を見ても素晴らしいです。

美しく終わるような感じではないのに文章は美しいてぇのが、純文だよね。