ほつれていく想いの美しさ

絆という言葉があまりにも「縛る」というニュアンスが強すぎて苦手なのですが(あくまで、個人的に)、この物語はまさに、かつて強く結びついていたふたりの関係の、ゆっくりと後戻りしようもなくほどけていく様子を、とても美しくえがいています。
ここに登場する人物の、誰もが誰もを想っている。関係性が変わってしまっても、そのこと自体はまったく変わらず、相手を大事に思う。そのやさしい空気感が文体にとても溶け込んで、心地よい読後感を与えてくれます。京王線というのが絶妙ですね。きっと主人公の向かう新宿方面は、この心地よい空間とはちがう場所なのだろうと、印象付けられます。だからこそこの公園は、特別な場所になる。
登場人物たちの心情を読み取って、楽しむ、まさに小説の醍醐味を味わせる掌編です。

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