車椅子の作家さんが文学賞を受賞して始まります。なぜ彼がその小説を書くことになったのか。そして、ヒューマノイドとの絆を感じる物語です。
短編で、ここまで感動するとは思いませんでした。SFのジャンルで、あらすじにヒューマノイドと書いてあったので、未来の技術の話なんだろう。と勝手に思っていましたが、そうではありません。
『絆』と『想い』を描いた物語だと思いました。もう、後半の真ん中辺りで視界がぼやけてきます。
そして、切ない物語でもあります。
人間と動物は寿命の長さが違うので、何度もつらい思いをした経験がありますが、人間とヒューマノイドもまた、寿命に差があります。そこが読んでいて、切ないなと思いました。
さすが書籍化される物語です。あまり書きすぎると作者さんに怒られてしまいそうなので、ぜひ読んで確かめてみてください。
女性型アンドロイドの主人公は、若くして難病を患った人間の男性の介助用として、派遣された。その男性は作家だった。
主人公はマスターである作家の男性と暮らす中で、様々な差別を経験する。その差別を象徴するのが、首のカラーであり、番号だった。人々はアンドロイドに首輪をつけ、番号で呼んだ。利用することはあっても、同じ空間にいることは不吉とされたほどだった。
しかし主人公のマスターは、頑健な意志の持ち主だった。アンドロイドの主人公に名前を付け、対等に扱った。それが、転機になった。主人公はマスターの旅行に同行するが、そこで事故が起こる。マスターは意識を失い、周りは主人公のせいで事故が起きたと騒ぎだす。主人公のおかげで、その旅行者たちは、一命をとりとめるが、その代償に主人公は宇宙に投げ出される。
意識を回復した主人公は、同じアンドロイドの女性から、今ではアンドロイドと人間は友人だと語り、主人公に地球に帰らないかと誘う。マスターのいない地球に帰ることはない。主人公はそう心に決めていた。しかし、マスターが書いた一冊の本を渡されて、主人公はある決意をするのだった。
差別と和解というテーマを、ここまで温かく描いた作品は、本当に素晴らしいの一言に尽きると思った。約一万字だが、大事なことが沢山詰まっていたと感じる。
是非、御一読下さい!
作品を最後まで読んでタイトルの意味を知った時、久々に感動が身体を駆け巡る感覚に襲われました。
主人公・水瀬は社会的に地位の低いアンドロイド・一花を大切な存在として敬意を持ち続けた。その想いを受けた一花もまた水瀬を大切な存在として尽くしていた。
一花と別れた後の水瀬が書き上げた小説にはどれ程の想いが詰まっていたのか……それを考えると胸が締め付けられる思いで作品を読み進めました。
水瀬と一花……時が隔ててしまった二人の関係ですが、絆の強さは『ノーカラー』が全てを物語っている。
作者の演出の巧みさが幾部分にも散りばめられた名作であり、評価が☆三つでは足りないとさえ思える良作。必読!
何という素晴らしい短編でしょうか!?
カクヨムWeb小説短編賞2019応募作品ですが、一万字以内の限られた条件で、これだけ密度が濃く目頭が熱くなる作品が描かれるとは、たまげております!
冒頭は、何やらノンフィクション小説の授賞式の光景。作者は車いす? タイトルは『ノーカラー前編』? 前編だけで受賞?
さまざまな不思議を残したまま、舞台は大きく変わります。
そのメインの舞台も最初はよく分からなかったのですが、それも作者さまの巧妙な戦略! それが明かされる驚きとともに、後半は押し寄せる波のように感動がのしかかってきます!
『ノーカラー前編』に記された受賞者の車いすの作者からのメッセージに、涙すること請け合いです。そしてタイトルを見て納得……!
これは、普通に、家族や友人に紹介したくなるレベルどころか、教科書は課題図書に指定されてもおかしくないくらい、皆さんに読んでいただきたい内容と思います! 私自身、3回くらい読み返しています!
本当に素晴らしい読書時間ありがとうございます! カクヨムWeb小説短編賞受賞してほしいです!
作家の水瀬先生について、でしたよね。
そうですねえ。うーん。一言で言えば、変わり者でしたね。ははっ。
ただまあ、なんて言うか、一本線が通っているって言うんですかねえ。うん。
単に変人とか変態って言うのではなくて、そうですね……彼は本当に純粋だったんだと思います。
「これだ」って思ったことはまっすぐに信じて、決して疑わない。その信念が物凄いんですよ。並ではない。
だから作家なんてできていたんでしょうね。
——え? ああ、私ですか? うーん、いやまあ確かに同業者ではありますけど、虚仮ですよ虚仮。あの人に比べたら私なんて。
ただまあなんていうか、今回の『ノーカラー』は、一緒に暮らしていた『一花』さんのおかげだとも語っていましたからねえ。彼の純粋さだけではなく、一花さんの支えがあったからというのもあるんでしょうね。
——え? なんで私なんかが水瀬先生についてそんなに詳しいか、ですか?
えー、そりゃー、ファンでしたもん。三流作家と呼ばれて周りの文豪の方々から蔑まれていた頃からずうっとね。信じていたんですよ。なんかこう、固い意志みたいなものを貫いている作風がとっても好きでね。いつか世界を変えちまうんじゃあないかって。ずっとずっと思っていた。燻っている時代からずっとずっと、ね。
いやしかし、信じる力ってのは凄いなあって思いません? こうして私の信じていた水瀬先生が輝かしい賞を受賞したわけですから。私のおかげじゃあないですけれども。
まっ、それでも文豪の方々は「あんなくだらない賞を受賞したくらいで粋がるな」とかなんとか言うんでしょうねぇ。どっちがくだらないんだか。……そういうくだらない連中を、そいつらを崇め奉る社会を作り上げて来た民衆どもの愚かしさと滑稽さは、皆さん『ノーカラー』を読んだなら解るんじゃないですか? あれ? ああ、そう言う風に読んでないんですね。すいませんすいません、また私の悪い癖だ。はははっ。
そうですね。あの『ノーカラー』は、ただただ一花さんとの穏やかで希望に満ち溢れた日々が綴られていただけだ。でもそれが奇跡みたいだって、私は思ったんですよ。こんなくだらない世界で、あんなにきらきら輝く日常を送るなんて、無理じゃあないですか。
きっと今も水瀬先生は一花さんのことばかりを考えているんでしょうね。
——はい、ええまあ、そりゃ信じているでしょうよ。
さっきも言ったでしょう。信じる力は強いんです。
水瀬先生もあの変わらない強情さで、ずっとずっと信じているはずです。
そしたら奇跡だって起きますよ。
絶対にね。