とある小説の賞を受賞した水瀬。
彼が描いたのは、彼の介護のために共に過ごしたアンドロイドの一花との関係でした。
しかし、一花はその場にはいません。
どうしてか、どこかを一人で漂っています。
アンドロイドが不当に扱われる社会の中で絆で繋がっていた二人が離れ離れになったのには、大きな理由がありました。
そして、それが社会を変えます。
冒頭の授賞式の様子から、恋仲の女性との関係を描いた作品なのかと一瞬思わせられますが、水瀬が「もしやアンドロイドだろうか」と考える一文で、パッと物語の世界観がが広がってくる感覚があり、物語に引きずり込まれます。
そこから一転、漂う一花の場面になると、ここはどこなのか、なぜ彼女はここにいるのか、水瀬との間に何があったのか、本には何が描かれているのか、といった疑問に興味を引かれ、どんどん読み進めることができます。
彼女の語りから明らかになる、アンドロイドと人間が共存する社会のありよう、そしてその中でも(もしかしたらそういう中だったからこそなのかもしれませんが)アンドロイドと人との間に生まれた絆。
その強さが一花と水瀬、それぞれの言動からよく伝わってきました。
そして、彼らのお互いへの思いが、世界を動かしていく様が、なんの違和感もなく描かれていてたいへん素晴らしいと思いました。
特に、この物語の魅力が凝縮されているのは水瀬が一花に残した三つの言葉です。
たった十二文字の本のあとがき、それを見た時に一花が聞いた声、そして水瀬が一花に何とか伝えようとしたメッセージ。
もう会うことは出来ないけれど、それら全ては、しっかり一花に伝わったのだということが、静かに胸に来ます。
どれも文字にしたら本当に短い言葉ですが、一花への水瀬の想いがギュッとつまっていて、言葉を重ねずにもこれほど愛情を伝えられるものなのだなと感じました。
言葉少ないことが、クールにも感じられて、とても好きです。
Twitterでふと流れて来た情報から、気になっていた「あとがき」のキャッチフレーズ。ご縁が出来たことを嬉しく思わせる、この筆致と内容は、思わず目頭が熱くなりました。
と、同時に、わたしの言葉でこの作品を語ってはならないというプレッシャーのもと、レビューを書いています。
言葉で表せる簡潔な物語も、分かりやすいですが
言葉にできない、心で読むべき物語もまた、素晴らしいです。
SFが謂わんとしていることを、同じSF小説好きとしても受け取りました。
そうして、優しさと導く背景や、その綺麗な伏線回収もほどけて行くさまも、全てがスタンディングオベーションです。
本当、いいお話でした。そしていつもの一文を。
今年のカクヨムコン応募作品、面白すぎませんか?
余韻を噛み締めた後で、ぜひもう一度読み返してみてほしい作品です。
短編という限られた文字数の中で広げられた世界の広さと厚みにまず驚きました。
そして作品の各所にそっと忍ばせた伏線が物語の進行と共に読者の脳内で一つずつ回収されていきます。
謎が解けていく心地よさを感じながら物語が進み、最後は温かい感情が胸に押し寄せてきます。
そして全てを読み終えた人もぜひもう一度冒頭に立ち戻って読み返してみてください。
彼が視線を向けた先はどこにあったのか、どんな思いで彼女が執筆したのか、そして長年捜索し続けた彼女達の胸中を想像してみてください。
それらは束ねたら美しい花束にならないでしょうか。
本当に素晴らしい作品だと思います。
AIの発展スピードが加速し、シンギュラリティなる単語が頻繁に聞かれるようになった現代。AIやロボットに職を奪われないか、存在を否定されないかとビクビクする現代人。2世紀前のラッダイト運動の再来だ。
暫くすると、本作品に描かれた世界が出現するのだろう。
でも、アンドロイドは人間に危害を加えない。
軍拡に勤しむ国家か、狂ったテロリストが殺人アンドロイドを作り上げない限り。
だから、本作品で描いた通り、何かのキッカケで、こんな世の中に移行するんだろう。
その過渡期には軋轢があるはずで、それを乗り越えるには一種のヒーローが求められる。
本作品は、そんなヒーローとヒロインの人情物語である。
老い先の短い私がヒーローとなる可能性は少ないが、SF好きの私としては、そんな心意気で未来を迎えたいものだ。
短編にはMAX2つが信条なんですが、星3つ付けました。
あまり長いお話ではないので、ご自身の眼で確かめるのが一番!
短い中に、ぎっちりもっちり「世界」が詰まっています。
真空状態に〇年も放置されたアンドロイドが果たしてまともに動くのか? とか、可動エネルギーは何処から? とか 放射線とか太陽フレアとか大丈夫だったのか? とか おそらく人間にそっくりと言う事は、皮膚(表皮組織)に水分が含まれる素材だろうから宇宙空間で水分が逃げちゃってカッサカサにならないのかな? とか……
もう、もう、もう……!
そーいう、その他もろもろの邪推や蛇足を全部、全部、ぜ~んぶ吹っ飛ばす位、ピュアで爽やかで心温まる作品です。
あらすじとか聞かずに、とりあえず、読め!!!
後悔はないから!!!
主人公のマスターが残した12文字。
心が無いはずのアンドロイドに宿ったものは何だったのか。
どうして、心を持つまでに至ったのか、そして、たった一つの花の決断は。
これぞ、文学!!!
売れない作家の受賞シーンから始まるこの物語、一体全体どう話を広げるのか…と思いきや、突然切り替わる場面。そのまま彼の介護アンドロイド・一花の独白によって、二人のストーリーが語られていきます。
一花の語り口に垣間見える、ALSを患う作家水瀬の人柄と温かい日々。社会に根付く差別の視線。人類の業と優しさを同時に描くという、もの凄い荒技がサラリと違和感なく物語に落とし込まれています。
短編という少ない字数で、こんなに壮大なお話を読めるとは思っていなくて、読み終わった後しばらく動けませんでした。飲み込まれてしまった。
これ以上はわたしの語彙力が機能しないです……自分の目でご覧になるのが一番かと。
おすすめの一作です。
この物語の完全なるポイントはそこです。大賞とか、融和とか、差別とか、多分そういうことじゃない。勿論それがないと物語が物語にならないのはあるでしょうけれども。
そのポイントはこれです。
マスターは、信じていた。
これ。これ以上はバレるので書けない。何を信じていたかは、本当にネタバレになるので書けないのですが、人に何かを頼むときに大前提となる条件と言ったら。
半信半疑で信じていたんじゃないんですよね。本気で信じていたんですよ。本当に本当に、本気で。
これに気がついたとき、なんて強烈なヒューマンドラマなんだと思いました。
今書いてて思いましたが、ここでやっと差別区別が生きてくるんだなと思いました。その人への思いは対等。
一読でわかる人は相当です、言葉を探りながら、これが成立するときの条件ときたら、そういうのを意識して読んでみて下さい。
繰り返しますが、信じないと出来ない行為です。