人間とアンドロイドの絆。彼が残した言葉。

とある小説の賞を受賞した水瀬。
彼が描いたのは、彼の介護のために共に過ごしたアンドロイドの一花との関係でした。
しかし、一花はその場にはいません。
どうしてか、どこかを一人で漂っています。
アンドロイドが不当に扱われる社会の中で絆で繋がっていた二人が離れ離れになったのには、大きな理由がありました。
そして、それが社会を変えます。
 
冒頭の授賞式の様子から、恋仲の女性との関係を描いた作品なのかと一瞬思わせられますが、水瀬が「もしやアンドロイドだろうか」と考える一文で、パッと物語の世界観がが広がってくる感覚があり、物語に引きずり込まれます。
 
そこから一転、漂う一花の場面になると、ここはどこなのか、なぜ彼女はここにいるのか、水瀬との間に何があったのか、本には何が描かれているのか、といった疑問に興味を引かれ、どんどん読み進めることができます。
 
彼女の語りから明らかになる、アンドロイドと人間が共存する社会のありよう、そしてその中でも(もしかしたらそういう中だったからこそなのかもしれませんが)アンドロイドと人との間に生まれた絆。
その強さが一花と水瀬、それぞれの言動からよく伝わってきました。
そして、彼らのお互いへの思いが、世界を動かしていく様が、なんの違和感もなく描かれていてたいへん素晴らしいと思いました。
 
特に、この物語の魅力が凝縮されているのは水瀬が一花に残した三つの言葉です。
たった十二文字の本のあとがき、それを見た時に一花が聞いた声、そして水瀬が一花に何とか伝えようとしたメッセージ。
もう会うことは出来ないけれど、それら全ては、しっかり一花に伝わったのだということが、静かに胸に来ます。
どれも文字にしたら本当に短い言葉ですが、一花への水瀬の想いがギュッとつまっていて、言葉を重ねずにもこれほど愛情を伝えられるものなのだなと感じました。
言葉少ないことが、クールにも感じられて、とても好きです。

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