何十年という家族の歩みを、彼らをすぐ側で見守る梅の木と共に描いた掌編小説です。
短い文章ですが、梅の木の成長や変化があることで、時の流れを自然に感じられました。
うつろっていくことの切なさも、どこかあったように思います。
それでも、大きな木の包容力は確かで、決して擬人化されているわけではないのに、家族を、家を、見守る優しい視線を感じました。
美しい文章も良かったです。
梅の木というものが重要になる物語において、文章から季節の気配を感じ取れるというのは、とても大切なことだと思いますが、そういった季節感が端正な文章から滲み出ていました。
過去に思いを馳せている内容ですが、これから先も、梅の木がこの語り手、家族、家と共にあるのだろうと感じられるラストには、未来への温かな広がりがありました。