それぞれ「物語」が複雑に絡まり、少し悲しくとても幸せな結末へ導かれる

美しい水上宮殿。
そこには、木偶人形のようになってしまった美しい姫・サンパギータと、彼女のお世話をする少女がいました。
宮殿の人々から疎まれる2人でしたが、彼女たちの運命は、その宮殿へ「語り部」を名乗る青年がやってきたことにより、大きく変わっていきます。

素晴らしい物語でした。

特に、それぞれの抱える背景、物語が、運命的に絡まりあってひとつの結末に収束していく終盤の展開は圧巻です。
それぞれ別のものとしてあった物語が、見事により合わさってひとつの物語を成していくところには、大きなカタルシスと感動があります。
サンパギータの正体、主人公の少女の正体、語り部・ロキラタの正体――彼らのパッと見ただけでは分からない、複雑な背負う物語と心が明らかになっていき、大きく心を揺さぶられます。

またキャラクターの描きかたも、たいへん魅力的です。
登場人物たちの心の、善意も悪意も愛も憎しみも、優しく描き出すような筆致でした。

主人公は優しき犠牲者の側面はあれど、決してそれだけではありません。
行動を起こして状況を変える勇気を振り絞りもするし、その一方で嫉妬心や人並みの意地の悪さの種も持っています。
そして、後者のように、その心が決して純白なわけではないからこそ、より彼女の優しさが胸を打ちます。

自らが持ち合わせる心と同じように、他者の心に陰りがあることを理解し、それがさせる意地悪な言動へも悲しい共感を抱けるところ。
自身の心にある意地の悪さの種に、心を痛めることができるところ。

意地悪な他者のことも、ただの意地悪とせず、酷な扱いを他者から受ける自らの心にも同じものを見いだせる、そういう広い視野に、並々ならぬ優しさと包容力を感じずにはいられません。

そういった彼女の目を通して描かれるからこそ、言ってしまえば差別的な人々も、ただの悪には映りません。
彼らがそうなった背景が描かれずとも感じられる、その心に複雑なところも善意の欠片も、強がりと裏表の脆さもチラついてくる、そういう多面性も魅力でした。
心のあり方に、ただの悪者ではない一人の人間としての生々しさが、しっかり宿っていました。
そういう描きかたに、決して同情的になりすぎはせず、けれどどの人物に対しても優しい目を向ける、物語としての優しさを感じました。

ラストの大きく変わる状況には、喜びも嬉しさも悲しさも切なさも詰まっています。
だからこそ、ラストのサンパギータへの語りかけがじんわり染みてくる、少し寂しいけれどとても幸せな結末でした。

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