大きなことは起こらずとも、そこに生きる人達の「大切」が描かれている

小説として大きなことは起こりませんが、それでも、登場するキャラクターにとって特別で大切なことがつづられているのだということが、よく伝わってくる素敵な作品でした。

切なげで詩的なタイトルが、そのまま作品の性格を表しています。
Mr.ソングライターが誰なのかが回想で分かり、そして彼がどうなったのか、少年期の思い出特有の郷愁から何となく察せられてきます。
そんな切なさの中で描かれる、コードネームを付けるという行為から滲む、当時の親しさ、楽しさ。
それがただのエピソードでなく、物語の根幹にもきちんと関わっているのも、非常に良かったです。

初めての詩作での、「頭ではよくできているのに、言葉にしようとするとダメになる」という思いは、創作者なら誰しも経験したことがあるでしょう。
それを実感したことで、やっとMr.ソングライターのすごさに気がつくという所に、作品の大切なものが詰まっているように感じられました。
「あいつ、すごかったんだなぁ」という感情の微笑ましさと同時に、それを彼に直接伝えなかった後悔が、直接描かれずとも行間に滲んでいたからです。

また、Mr.ソングライターの創作の根っこに、みんなで遊んだ記憶があったのだろうことも、少年時代の懐かしさ、郷愁、楽しさが感じられたがために、大きな説得力をもって伝わってきました。

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