白くならないようにそっと寒夜へ息を吐く、ような。

 男子高校生の語りが、ぽつりぽつりと同級生の女子を描き出す。夜の公園に姿を見つけてから二人が交わるまでは長く、その交わりだってごく淡いものと言っていい。
 けれどこれは紛れもなく青春の話だと感じるし、彼は大人になって、一種の痛痒さと共にこの夜のことや交わした会話を思い出すのではないだろうか。

 悩みは誰にもあるものだけど、誰もが自由に悩みを語れるわけではない。もっと辛い人がいるのだから。こんな小さなことで。そういう考えは内に外に吐露を妨げる。
 やっとこぼれた言葉は、寒いのに白くならない密やかな息のようだった。地の文の体言止めや読点のリズムがその印象を強くしている。
 思春期の不自由さや、ささやかだからこそ消えない痛みが胸に残る、素敵な作品だった。

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